わたしは上履きの先に付いた汚れを見ながら呟いた。

理斗君から答えが返ってくることは考えていない。

ひたすらに独り言だった。

「人と仲良くなるのが怖いのもあるけど、そもそもわたしは臆病で、美緒ちゃんが傍に居ないと人と話せないんだ……」

「まるで俺は人じゃないみたいだな」

「えっ?」

顔を上げると理斗君は真顔でわたしを見つめている。

「美緒ちゃんってやつが居ないと人と話せないんだろ?」

ん?あっ!

「違う!そういうことじゃなくてその」

「冗談。ところで、お嬢様っていうのは?あれはただの噂?」

何だ……。

「うん……いろいろ重なって誤解されていて。何回も違うって言おうとしたんだけど聞いてもらえなかった」

「ここにいるのは下らなくてどうしようもないやつばかりだよ。すぐに誰かと仲良くなってすぐに誰かを嫌ってすぐに噂話で人を傷つける。真実はどうでもいい、面白い方を信じる馬鹿の集まり。

だから別に無理して仲良くなる必要はない。だけど敵に回すと厄介」

理斗君の声は静かで、でも言っていることは激しい。

「そうなんだね……」

「みんな未熟なんだよ、だからタチが悪い。

いくら未熟で馬鹿な連中しか居なくても集団の力っていうのは(あなど)れない。

時として人の命を奪うことも可能にしてしまう。

あいつらは凶器であって便利な道具でもある。

使い方次第でどうにでもできる。だからうまく使えばいいだけ」

「でもわたしにはそんなことできない」

「なら、卒業式まで黙って大人しく座っていればいい。

別に悪いことじゃない。

ただ、下らなくてどうしようもないやつばかりだけど、

そうじゃないやつも居る。

黙って大人しく座ってたら見つけることは出来ないけど」