フェンスに背中をつけて座っていた理斗君と目が合った。

理斗君は一瞬目を見開いたけれどすぐにいつもの切れ長の目に戻る。

それは急に開いた扉に驚いた顔とは違って、待っていた人が現れた時のような、そんな顔に見えた。

「ここは生徒立ち入り禁止だぞ」

「理…理…」

「何だよ」

そういえば一度も名前を呼んだことがなかった。

みんなが彼を名前で呼ぶからつい名前で呼んでしまいそうになったけれどここは苗字で呼ぶのが正解なのかもしれない。

「葉山君が…」

「その呼び方やめろ」

不正解のようだった……。

「ごめんなさい、理…理斗君……が」

「俺が何だよ」

「わたし今日は学級委員会で、それで教室に戻る途中渡り廊下から理斗君が居るのが見えて。あの、入っていい?」

わたしはまだドアノブを持ったまま一歩も屋上に足を踏み入れていない。