「中村岬さんとは同じクラスだよ」

「まるで真琴が僕に協力してくれるのが決まっていたみたい、って……僕は勝手なことを言ってるね」

「いや、そんなことは。綺麗な人だよね中村岬さん、でもわたし……話したことないんだ一度も」

「そうか…」

 会話が途切れたまま家の近くのマンションまで来た。

「瑞樹、ここで」

 ちひろから送ってきてもらう時もここで別れる。

だからちひろはわたしがこのマンションに住んでいると思っている。

嘘は吐きたくない、でも誤解はされていたい。

だから今みたいに足を止めて「ここで」と言って別れる。

とてもじゃないけどあんな豪邸に住んでいるちひろにわたしの家を見せる訳にはいかない。

当然、瑞樹に見せることもできない。

「ありがとう真琴、じゃあ3日後またあの公園でいい?」

「うん、その日もアルバイトだから9時になるけど大丈夫?」

「もちろん。じゃあね」

「じゃあ…」

危うく“気を付けて”なんて言うところだった。

 わたしは振り返ると歩いていく瑞樹の姿を見た。

早くも遅くもないスピードと大きくも小さくもない歩幅で歩いて行く瑞樹。

特徴のない、けれど綺麗な歩き方。

7月にブレザーはおかしいけど怜秀学園の制服がその体に随分と馴染んでいる。

あの姿がわたしにしか見えないなんて───嘘みたいだ。