背筋を伸ばし、もう一度横断歩道の前に立つと赤信号の向こうに建つデパートの垂れ幕に“絵画展”の文字を見つけた。

“絵”という字を見た途端、絵の具の香りが漂ってくる。

景色が浮かび、頭の中で絵の具が混ぜられ思った通りの色が完成する。

そして色をのせていく。

胸が高鳴るのを感じる。

今すぐに絵を描きたくなる。

没頭する感覚が恋しくなる。

それは全部、今のわたしに必要なもの。

 わたしは目標を立てた。

自分の絵を美術展に応募するという目標。

賞を取るのはその先の目標にしようと思う。

 理斗君は自分の目標に向かって歩き出した。

わたしはそれをずっと待っていることしか考えていなかった。

だから辛かったんだ。

理斗君がわたしよりも平気そうなのは、目指すものがあるからなんだ。

離ればなれになって寂しい今よりももっと先に待っているカラフルな未来に向かって進んでいるから平気なんだ。

ずるいよ理斗君、自分ばっかり先に行って。

寂しいのは変わらない。

すでに会いたい。

でも、目指すものができたことでわたしの気持ちは強くなった。

 理斗君から連絡が来たら話そう。

絶対に応援してくれる。

 瑞樹が居なくなってから1度も絵を描くことをしなかった。

瑞樹と一緒に過ごした時間を思い出して寂しくなるのが嫌だったから。

でも、今は描ける。

瑞樹との温かい思い出に包まれながらきっと、いい絵が。

完成したら瑞樹が見にきてくれる。

その時は、どんな風が吹くんだろう。