理斗君と一緒に過ごす時間はいつだって楽しくて、

けど楽しいことには大きな欠点があって、

それは時間があっという間に過ぎてしまうということ。

理斗君は今日、アメリカへと旅立つ。

理斗君は会う度にあらゆる安心をわたしにくれた。

離れていても大丈夫だと思えるお守りのような言葉を何個も何個もくれた。

だからきっと大丈夫だ。

 服に着替え、理斗君からもらったヘアゴムを手首に付ける。

もう一度鏡の前で髪の毛を整えると玄関に向かった。

「じゃあお父さんお友達の見送りに行ってくるね」

 大晦日の日にお父さんは家に帰ってきた。

まるで朝出かけて夜帰ってきたかのように、

スーパーで買ってきた材料を台所に並べ

「今日は鍋にするぞ」

なんて言って中途半端に準備をするとテレビを見て笑っていた。

「気を付けてな~」

「うん」

「で?何しに行くって?」

「だから、お友達の見送りだってば」

「おう、そうか。気を付けてな~」

“彼氏”なんて言ったら大騒ぎするタイプのお父さんには“友達”と言うのが正解。

 外に出ると天気はいいのに気温は低い。

急いでバス停に向かうとちょうど来たバスに乗って駅に向かった。

 駅に着き、理斗君を探してきょろきょろしていると後ろから声を掛けられた。

「行くぞ~」

「うわっ理斗君びっくりした~」

わたし達はどちらからともなく手を繋ぐとホームに向かった。

 電車に乗ると空港に向かう。

空港までは30分。

空港に着いてから出発までは1時間半。

今から2時間後、わたしの隣に理斗君は居ない。

 向かいに座るおしゃれをしたカップルが頭を寄せ合って笑いながらスマホを見ている。

彼氏が思わず吹き出すと彼女が肩を叩いて「シーッ」と顔の前に人差し指を立てる。

それすらも笑えるようで彼がまた吹き出すと彼女も彼の肩に顔を埋めて笑う。

そんな様子を見ているだけで胸が苦しくなってしまう。

わたしは理斗君がくれた言葉を言い聞かせていた。

“長い人生の中のたった2年”