「つまらない話かもしれないけど」そう前置きをして理斗君は話し始めた。

「前にお前から何で後継ぎになろうとしているのか聞かれたことがあっただろ」

「うん、会社を取り返すって言ってたね」

「今は、それとは違うんだ。母親が不憫だから夏木企画を取り返すとか、裏切った親父が許せないとか、

そういうのがもう……ないんだよ。

経営のことを勉強すればするほど親父が今までにやってきたことの凄さがわかって、今では尊敬の気持ちの方が大きい。

いずれは親父と同じ景色、いや、それよりも上の景色を見たいと思ってる」

わたしは理斗君の隣に座ると両膝を抱えた。

こんな大きな目標を口にする理斗君に見合う言葉が見つからない。

「わたしは理斗君を応援するよ。ごめん、こんな幼稚なことしか言えなくて」

「2年間も離れることになるけど待てる?」

「当然だよ!2年なんて大した年数じゃないし!

春が来て夏が来て秋が来て冬が来て春が来て…夏がきて……秋が来て………冬が来てって同じ季節を2回繰り返すだけのことだもん全然平気だよ」

口では平気だと言っているのに声は徐々に震えていく。

頭の中で“たった2年たった2年”と唱えるほど涙で視界がぼやける。

わたしは両膝に顔を埋めた。