1時間目の授業が始まり、わたしは窓の外に目を向けた。

グラウンドの向こうに並ぶ桜の木はすっかり葉を落とし枝が風に揺れている。

あの木々が盛大に花を咲かせるとは今の姿からは想像もできない。

それでも来年の春、息を呑む美しさでわたし達を魅了する桜。

やがて舞い散る花びらを見上げわたしは瑞樹を思う。

その時にはきっと瑞樹を思い出して温かい気持ちになる。

 冬の景色が広がるグラウンドからよく晴れた青空に視線を移した。

流れる雲を見つめると瑞樹の笑顔が浮かぶ。

最後の夜に瑞樹が言った言葉が声となって胸の中で響く。

わたしを大切だと言った瑞樹。

ただ、瑞樹はそれを口にしなかったけどあの言葉には続きがあったんだ。

『僕は真琴のことを本当に大切だと思ってるよ、それは今の真琴だけじゃない。
ずーっとずーっと先の未来の真琴も大切なんだ』

(だから僕はここでさよならするよ)

瑞樹が居なくなるのは必然ではなかったんだ。

瑞樹は自分の意志で居続けることもできた。

けれど、それを選ばなかった。

後になってそのことに気が付いた。

 岬さんに気持ちを伝えた時点で居なくなってもおかしくはなかった。

でも、瑞樹はわたしとの約束を守って絵が完成するまで一緒に居てくれた。

そしてあの言葉。

今のわたしだけじゃなく未来のわたしも大切だと瑞樹は言った。