ケーキに顔を近づけると目一杯吸い込んだ息を一気に吐き出すちひろ。

ろうそくの火は瞬く間に消えていくけれど、

3本のろうそくが消えずに残ってしまった。

「あぁ~やっぱり全部消せなかった」

「まだこっちがあるぞ」

理斗君にそう言われ「よし、次は絶対!」とちひろが瑞樹のケーキに顔を近づけた瞬間、突然強い風が吹いた。

「うわっ!!」

あまりの風にみんな下を向く。

身を屈め、風が通り過ぎるのを待って顔を上げるとテーブルの上には驚きの光景が広がっていた。

瑞樹のケーキの火は全部消えているのにちひろのケーキの上では3本のろうそくが揺れている。

それを見て全員がその名前を口にした。

瑞樹っ!!

わたし達は風が通り抜けた先を見た。

「絶対今の瑞樹だよね……」

葵ちゃんが呟く。

ちひろは「やっぱり瑞樹は僕が頑張ってもできないことを簡単にやっちゃうから嫌い」そう言って自分のケーキに顔を近づけると勢いよく3本のろうそくを吹き消した。

そんな様子を見てみんなが笑っている。

理斗君と目が合った。

わたし達は同じことを思っている。

───瑞樹は本当に風になったんだ。

 瑞樹はいつだってわたし達の傍に居る。

大きな木が揺れている。

草も野花も揺れている。

わたしは空を見上げた。

青い空に浮かんだ雲は、風に流されどんどん形を変えていく。

何だ、どこを見ても瑞樹が居る。