2人きりになるとわたしはもう一度ちひろに謝った。

「ごめんねちひろ……」

ちひろはカウンターに突っ伏したまま頭を左右に揺らす。

「僕の方こそごめん」

わたしはちひろに椅子を近づけるとその小さな頭を撫でた。

「ねぇ真琴」

「ん?」

「瑞樹のことは好きだった?」

「うん、好きだったよ」

ちひろは伏せていた顔を横向きにし、わたしを見る。

「前に真琴に言ったよね。もう瑞樹は居ないのに今でも好きな子を瑞樹に取られちゃう気がして不安になったりするんだよって」

「うん」

「だから僕は真琴に瑞樹の話はしなかったし、あの部屋に入らないでって言ったのも……真琴を瑞樹に近づけたくなかったからなんだ。

でも、真琴が瑞樹を好きになってくれて今は嬉しいって思ってるんだよ。ねぇ真琴?」

「ん?」

ちひろはまたテーブルに顔を伏せた。

声はテーブルにこもり、ぼやけて耳に届く。

「真琴は理斗のことが好きなんだね」

「……」

黙っているわたしにちひろは言う。

「理斗も真琴が好き……わかるよ僕」

ちひろには敏感なところがある。

とんちんかんなことを言ったりもするけれど、

とても神経質で繊細。

だからちひろに嘘を言ってもすぐにバレて、しかも傷つけてしまう。

「ちひろ……」

返事の代わりに名前を呼んだ。

はっきり言わなくてもそれだけで通じる。

 ちひろは突っ伏したまま肩を落とすとわたしを見る。

感情の波は引き、観念したように静かに話す。

「真琴、今までありがとうね瑞樹のこと。

真琴のお陰で瑞樹は安心して向こうの世界に行けたんだよ。

僕は瑞樹に自慢できることがひとつできた。

真琴は僕の友達で、ずっとずっと一緒に居るってこと」

笑って見える犬みたいに目を細め口を開き口角を上げるちひろ。

わたしを友達と言うのが余程辛かったようだ。

ちひろはテーブルから頭を上げると「真琴は理斗が好きだから、だから今は友達で我慢するんだよ」と言ってわたしに抱きつく。

わたしはちひろの頭を撫でると抱きしめた。