ちひろはスケッチブックをゆっくり捲るとパッと目を見開く。

捲る度に輝きが増す目からはやがて涙が流れ、何度も何度も手で拭きながらスケッチブックを捲る。

最後のページ、ちひろはみんなで雪だるまを作るクマの絵を見てにこっと笑うとスケッチブックを閉じてうつむいた。

「もう瑞樹は居ないんだね、わかるよ僕」

小さな虫のように背中を震わせ消え入りそうな声で話すちひろ。

そして不思議なことを言う。

「僕達は生まれてくる前お腹の中でずっと一緒だったんだ。

僕は瑞樹が居るから暗くでも怖くなかったし寂しくなかった。

でも、生まれる時瑞樹と引き離されて怖くて寂しくて僕は大声で泣いたんだ。

今は、その時と同じ気持ち」

ちひろの話は神秘的な事実だった。

 わたしはこれまでのことをゆっくりと時間を掛けてちひろに話した。

瑞樹と初めて会った日のこと、岬さんへの思い、

みんなで中庭でご飯を食べた夜に瑞樹もそこに居たこと、

わたしにしか瑞樹の姿は見えないこと。

ちひろの言葉を気にしていないこと、

ちひろを大切に思っていること。

思い出せることは全部話した。

話が終わるとずっと黙って聞いていたちひろが呟く。

「どうして真琴……僕もっと瑞樹に話したいことあったよ、

何で瑞樹が居る時に教えてくれなかったの?」

「ごめん……瑞樹が言わないで欲しいって……」

 あの日わたしもちひろに瑞樹が居ることを言いたかった。

でも、瑞樹がそれを止めた。

わたしは瑞樹の気持ちを優先した。

けど……どっちが正しかったんだろう。

わたしは間違ってしまったのかもしれない。

両手で何度も何度も目を擦るちひろ。

目の前のちひろがこんなに悲しんでいるのだからやっぱりわたしは間違っていたんだ……。