夜、わたしはスケッチブックを持ってカウンターテーブルでスマホを見ているちひろの隣に座った。

「ちひろ、ちょっといい?」

ちひろはスマホをテーブルに置くとスケッチブックに目を向ける。

「あのね、このスケッチブックなんだけど、これはね」

「真琴から僕に絵のプレゼントとか?」

「ううん、わたしからじゃなくて……えっと、驚かないで聞いて欲しいんだけど」

前置きをしても意味がないことはわかっている。

「うん」

「瑞樹からなの」

ちひろの丸い目が大きく見開く。

「えっ…どういうこと?だって真琴は瑞樹のこと知らないんじゃなかったの?」

「そうだったんだけど」

「僕に隠してたってこと?」

「ん~と…」

ちひろの質問は止まらない。

答えを聞く気があるのかないのか質問は次々と飛んでくる。

「どうして知り合いなら知り合いだって言ってくれなかったの?

じゃあ瑞樹が死んじゃったことも知っていたってこと?」

「その時はまだって言うか…」

「まだって何?じゃあ瑞樹とはいつ知り合いになったの?」

わたしはちひろの手首を掴んだ。

「ちょっと待ってちひろ、話を聞いてくれる?」

ちひろはハッとしたように目を見開くと、肩の力を抜いた。