本棚の一番下の段からスケッチブックを持って部屋に戻った。

テーブルの上にスケッチブックを置くと床に座る。

暗い部屋の中で頭に浮かぶのは瑞樹の笑顔。

やっぱり瑞樹が居なくなった悲しみから逃れることはできない。

それでも悲しみは絶望ではない。

その体に触れても体温を感じ取ることはできなかった。

でも、とても温かい人だった。

これから瑞樹を思い出す度にわたしの周りには温かい空気が流れるんだ。

きっと、そうに決まっている。

 わたしは理斗君に電話を掛けた。

「瑞樹と一緒に絵、完成させたよ」

電話の向こうからはいつもと変わらない理斗君の声が聞こえてくる。

「そっか」

声が詰まって出せなくなってしまう。

理斗君が沈黙に耳を傾けているのを感じる。

少しするとわたしの名前を呼ぶ声が聞こえてくる。

「真琴……」

初めて名前を呼ばれ顔が熱くなる。

「はい…」

理斗君は「今日もこのままお前が寝るまで電話繋いでるよ」と静かに言う。

わたしはあの詩のことを理斗君に話した。

「わたし、投稿サイトで見つけたなつきっていう人の詩に何度も助けられていたんだ。

辛い時はいつもなつきの詩を読んでた。

年齢も性別もどんな人かもわからないのに、

なつきがわたしの傍に居てくれたらって何度も思った。

でもなつきはこんなに傍に居た。

理斗君だったんだね」