電話の向こうからは優しい声が聞こえてくる。

「大丈夫だよ」

その声は胸の苦しさを少しずつ取り除いてくれる。

「最後かもしれないのに、きっと最後だったのに……瑞樹に笑顔でバイバイできなかった」

「瑞樹は喜んでいるよ、居なくならないで欲しいと言われて」

「そうなの?」

「あぁ、間違いなく」

 理斗君の言葉に安心して目を閉じると、

ローテンブルクの絵が浮かんだ。

前に瑞樹に言った。

『この絵が完成するまで居なくならないで』と。

あの時瑞樹は『約束するよ』と答えた。

 金曜日の夜、21時に瑞樹の部屋に行こうと決めた。

明日でも確かめに行くことはできる。

けど、もしそこに瑞樹が居なかったらと考えると、

今はまだその現実と向き合うのが怖い。