突然慌ただしいメロディーが鳴る。

伸ばした手をバッグに突っ込んだ。

スマホを取り出し画面を見ると“理斗君”と表示されている。

布団に倒れたままスマホを耳に当てた。

「もしもし……」

「家を出てから4時間以上経ってるから……今頃ひとりだと思って」

理斗君の声が海の底からわたしを引き上げて、

冷えきった体を温めてくれる。

包み込まれている感覚がある。

わたしは膝を抱え丸くなる。

今、一番聞きたかった声だと気付く。

「海の底に……居た」

「そうか、苦しかったな」

「うん…」

暫くの間沈黙が続く。

電話が繋がっていれば良かった。

「眠れそう?」

「このまま……朝まで繋いでいて」

「わかった」

それからどのくらいの時間が経っただろう。

長い時間が経ったのは感覚としてある。

頬と手が汗ばむのをそのままに言葉を口に出した。

電話の向こうから返答が来ることなど考えず独り言のように。

「瑞樹を困らせてしまった……わたしは、最低だ……」

少しすると静かな声が届いた。

「どうしてそう思うの」

「えっ理斗君……まだ起きてたの……」

「眠くなかったから」

涙が流れ落ちる。

何かが込み上げるような苦しい涙ではなく自然と流れ落ちる温かい涙。

「瑞樹に……居なくならないでって言ってしまったの。

わたしは瑞樹を困らせた……」