家に入るとぬるい空気が体に纏わりつく。

夜は肌寒く、けれど天気のいい昼間は暑かったりする9月の終わり。

 部屋に行くとカーテンも閉めずに、畳んである布団に倒れ込んだ。

外ではうるさいくらい虫が鳴いている。

電気も付けていない部屋を外の電灯が薄暗く照らしている。

次第に暗さに目が慣れ、壁に掛けてあるカレンダーが見えた。

海に浮かぶヨットと砂浜に置かれたビーチサンダルと浮き輪の絵。

剥がすことをすっかり忘れていたカレンダーはもう9月が終わるというのに7月のままだった。

 立ち上がるとカレンダーを剥がしパラパラと下に落としていく。

9月のカレンダーには月見をするうさぎの絵が入っていて、30日に星形の印が付けてあった。

9月30日。

それはちひろの誕生日。

そして瑞樹の誕生日。

 海の絵が入った7月のカレンダーを畳の上に落とすと布団に突っ伏した。

また、胸が苦しくなる。

まるで大きな波に飲み込まれ、海の中に引きずり込まれたかのように息が苦しい。

苦しくて必死になって顔を出そうとするのにどんどん海底に引きずり込まれてしまう。

さっきまでの虫の鳴き声はもう聞こえない。

深い闇と無音の中でわたしは泣いている。

誰も居ない何も聞こえないこんな場所から早くどこか明るいところへ行きたいのにその方法がわからない。

苦しいよ……。