瑞樹のタイマーが鳴る。

「もう20分しかない。急ごう」

歩きながらわたしは後悔していた。

瑞樹はいつもと変わらず穏やかな表情を浮かべているけど、たった今大好きな人と別れて、そしてもう……会えないかもしれないんだ。

それなのにわたしは……瑞樹の気持ちも考えないで困らせることを言った。

瑞樹が一番辛いのに、わたしは瑞樹の気持ちを岬さんに伝える為に今日こうして瑞樹と一緒に居るのに、何をやってるんだ。

最低だ……わたしは本当に最低だ。

 鼻の奥にツンと痛みが走り視界が歪む。

涙が溢れ、通り過ぎる車の光がいびつに伸びている。

それをこぼしてしまわないように深く息を吸って吐いた。

泣いちゃ駄目だ、泣いちゃ駄目だと言い聞かせる。

これ以上瑞樹を困らせないように必死だった。

 マンションの前に着き、こらえていたのに瑞樹の声を聞いた瞬間また涙が溢れ出し、思わず下を向いてしまう。

「着いたよ真琴」

「うん……」

「じゃあ、おやすみ」

これが最後ではいけないと精一杯の笑顔を作って顔を上げるけど、もうそこに瑞樹の姿はなかった。

「瑞樹……」

右を見ても左を見ても瑞樹は居ない。

「瑞樹っ」

後ろを振り返ってもう一度左右を見るけれど瑞樹の姿はどこにもなかった。

「瑞樹───っ‼」

 冷たい風と虫の鳴き声、それと辺りを照す上弦の月だけがそこにあった。