岬さんがベンチから立ち上がり、わたしと瑞樹も立ち上がった。

無言のまま出口に向かい、公園を出ると岬さんは笑顔を見せた。

「ありがとう橘さん、本当にありがとう」

「ううん。気をつけて帰ってね」

「わたしはすぐそこだから。橘さんこそ」

「うん」

岬さんは目線を左右に動かす。

わたしは瑞樹の顔を見た。

それを見た岬さんは瑞樹の正面を捉えると最後の言葉を口にした。

「瑞樹……ありがとうね」

瑞樹は笑顔で岬さんを見ると「ありがとう」と言った。

「瑞樹も笑顔でありがとうって」

岬さんは涙をこらえ、とびっきり綺麗な笑顔を見せると手を振り背中を向けた。

2人はお互いに別れの言葉を口にはしなかった。

 岬さんの姿が見えなくなるとわたし達は歩き始めた。

「真琴、家まで送っていくよ」

「うん」

「今日は星が綺麗だね」

わたしは気になっていたことを聞いてみた。

「ねぇ瑞樹?直接岬さんと話せたらもっと違う話ができた?

わたしが居なかったらって意味」

「ううん、変わらなかったと思う」

ひんやりとした風が通り抜ける。

さっきからずっと冷たかった手を袖の中に隠した。

「岬さんにも瑞樹が見えたら良かったのに……」

「僕はこれで良かったと思ってるよ」

「えっ?どうして?」

「岬に僕が見えていたら……岬はきっと別れがもっと辛くなったと思うから」

瑞樹は空を見ながら話す。

瑞樹の言う通りだ。

見えている方が別れが辛くなって当然なんだ。

だって、わたしが今……そうだから。

わたしは立ち止まるとその背中に向かって声を掛けた。

「瑞樹っ」

空を見ていた瑞樹が隣に居る筈のわたしが居ないことに気が付き体ごと振り返る。

「真琴?どうしたの?」

「居なくならないでよ」