「彼と一緒に居たら、瑞樹がわたしの前に現れてくれるんじゃないかって……思ったの」

そういうことだったんだ……。

悲しみが胸を突き上げた。

瑞樹の思いを確かめたくて彼の元に行っていた岬さん。

瑞樹に嘘の言葉を言って別れ話をした日に瑞樹は命を落とした。

どれだけ後悔しただろう。

どれだけ自分を責めただろう。

もう一度瑞樹に会いたいとどれだけ願っただろう。

それが褒められた行為ではなかったから尚更……。

岬さんの思いを今、知った。

苦しかったと思う、辛かったと思う、でも瑞樹だって……。

 あの日のことを思い返した。

車に乗り、彼に肩を抱き寄せられた岬さんは周りを気にするようにきょろきょろとしていた。

右を見たり左を見たり、人が居る筈もない上を見たり。

あれは、瑞樹を探していたんだ。

でも、わたしはあの日の瑞樹をはっきりと覚えている。

岬さんが彼と会場を去った後、わたしに事情を話す瑞樹の声と表情は終始明るくて、あんな辛い話をまるでカフェで談笑でもするように話していた。

けれど、次第ににこやかだった顔から表情が消えた。

あの時は瑞樹と出会ってまだ日が浅く───でも今ならわかる、あの時瑞樹がどれ程悲しかったか。

痛いくらいにわかるから、怒りに似た気持ちが込み上げる。