「桜とか紅葉した木とかこんなにリアルに描けないよ普通。

クマなんてふわふわの手触りが伝わってくるもん。

これ、部屋に飾るのにいいね」

瑞樹は嬉しそうにほほ笑むと「最後のお願いを聞いてもらえないかな」と首を横に倒す。

わたしは“最後”という言葉が嫌で「瑞樹のお願いならいつだって何回だって聞くよ」そう話すと瑞樹は更に笑みを深めた。

「僕が居なくなったらちひろにそのスケッチブックを渡して欲しいんだ。

それと、ちひろを大切に思っていることを伝えて欲しい」

僕が居なくなったら───その言葉に呼吸が止まった。

全身に痛みが走った。

わかってはいても、はっきりと口に出して言われるとそれはどこまでも悲しい響きだった。

「頼まれてくれる?真琴」

「うん」

わたしは一旦スケッチブックを元の場所に戻した。

「真琴、そろそろ時間だよ」

“居なくならないで”という言葉がさっきから足踏みをしている。

「うん。ねぇ瑞樹、ローテンブルクの絵まだ完成してないよ」

「あと少しで描き終わるね」

「うん……」

「瑞樹……」

言い掛けた言葉を「おやすみ」に変えて部屋を出た。