ちひろはわたしの肩から頭を上げると「僕の努力が足りないから何も勝てないだけなのに、酷いよね……」

そう言ってうつむくと話を続けた。

「瑞樹はね、後継ぎになる気は全然なかったんだ。

でも、両親は瑞樹に後を継がせたいって思っていたの。

僕はそれが悔しくて悔しくて、瑞樹は悪くないのに冷たくするようになっちゃったんだ。

僕は瑞樹のことが嫌いだった訳じゃないんだよ、ただ凄く羨ましかったの」

「ちひろの気持ちわかってると思うよ」

「うん、たぶん瑞樹は僕のこと怒ってないと思う。

僕と違って瑞樹はとても優しくて広い心を持っているから。

でも……ちゃんと謝りたいんだよ瑞樹に。

もう遅いけど……」

「大丈夫、届いてるよ」

「本当に?」

「本当に」

「真琴がそう言うなら」

瑞樹は笑顔でその場から立ち上がると家に戻っていった。

その背中から目線をちひろに戻す時、また理斗君と目が合った。

「寒くなってきたね。僕、お風呂に入るね」

ちひろは両腕を擦りながら家に入って行った。