瑞樹の中で生まれた迷い。

それはこうなって初めて出てくる迷いだった。

「瑞樹、一緒に考えようか。どうするのが一番か」

 わたしは窓の前から離れるとソファーに座った。

「僕はね真琴、岬をもう悲しませたくないんだよ」

「瑞樹の気持ちはわかるよ。でも、このままだと岬さんはずっと自分を責め続けてしまうよ」

「いずれ、そんなこともしなくなっていくと思う」

「わからないよ、そんなこと。

でも、瑞樹の気持ちを知ったら変わる。

それはわかること。

わからないこととわかること、どっちを選択するの?」

長い沈黙だった。

きっと今までで一番長い沈黙。

 瑞樹はこらえるような声で話した。

「僕は岬にうまく話せるかな」

「大丈夫、瑞樹は話すのが上手だから」

「本当に?」

「本当に」

「真琴にそう言われると自信が出る」

瑞樹がちひろみたいで少し可笑しかった。

やっぱり双子なんだなと思った。

「岬さんに伝えたいことがあるから、伝えなきゃいけないことがあるから瑞樹はここに居る」

瑞樹は優しく微笑んだ。

「真琴、君の言う通りだね、ありがとう。

僕は岬と話すよ。だから真琴、協力してくれる?」

「もちろん」

「あさってはそうだな……原田ピアノ教室の近くの公園で会うことにしようか?」

「わかった。岬さんに連絡しておく」

「お願いするよ」

 時間になり、わたしは自室に戻ると岬さんにメッセージを送った。

それからベッドに入るけれど、まったく眠れそうにない。

もう少しで瑞樹が居なくなるのだと思うとたまらない気持ちになった。

瑞樹が岬さんに気持ちを伝えても今まで通り一緒に絵を描いたり話をしたり、時々どこかに出掛けたりして過ごしたい。

一日の中のたった2時間。

だけどその2時間がなくなってしまうのはあまりに大きなことだった。

 ベッドから起き上がるとわたしは瑞樹の部屋に行った。

会話ができなくても傍に居たいと思った。