───君には僕が見えているから。

 思考が一気に停止した。

予感は的中した。

彼はこの世に───存在する筈のない人。

 また、強い風が吹く。

彼の髪の毛は微動だにしない。

当たり前の現象が起こらない。

彼が死んでいることを証明している。

手足が冷えて心臓がバクバクと音を立てる。

今すぐこの場から逃げ出したいのに恐怖で体が動かない。

もう、自分の気持ちを正直に言うしかなかった。

「ごめん、怖い。今、凄く怖い…」

ぎゅっと目を閉じると彼の声が聞こえてくる。

「怖いよね、ごめんね、本当に怖がらせたくないんだけど君だけなんだ、僕の姿が見える人」

死んだ人の声が聞こえているのが怖くて耳を塞ぐと声を荒らげた。

「待って!声出さないで怖いからやめて!」

 長い沈黙が続き、恐る恐る顔を上げるともうそこに彼の姿はなかった。

 わたしは逃げるように走り出した。

恐怖心から逃れる為に明るい歌を口ずさむ。

途中、夜道に響く自分の足音が追いかけてくる足音に聞こえ思わず叫んだ。

 角を曲がり交差点を抜け、家の近くのコンビニまで来るとようやく恐怖から解放された。

息を切らし、来た道を振り返る。

そこには見慣れた景色があるだけだった。

 彼に悪いことをしたと今更ながら思った。

わたしに協力して欲しいと言った彼。

彼の姿が見えるのはわたしだけだとも言っていた。

でも、あんなに怖がってしまったんだ、

きっともう彼はわたしの前には現れない。

そう思っていたのに次の日、彼はわたしの前にもう一度姿を現した。