「葵のこと……僕に相談して欲しかった」

「えっ…」

「ごめん……盗み聞きするつもりはなかったんだけど、

理斗の部屋から真琴の声が聞こえてきて」

「ごめん…そうだよねちひろは葵ちゃんのお兄ちゃんなんだし、

ちひろに相談すれば良かったのに……」

「本当はそうして欲しかったけど……。

僕は理斗のことを嫌っているけど信用はしているんだよ。

理斗は間違ったことは言わない。

だから真琴が理斗に相談する気持ちわかるよ。

でも、今以上に理斗を好きにならないでよ真琴……」

「ちひろ……」

「お願いだから……」

ちひろの声が震えている。

わたしはどこか上の空だった。

自分の気持ちを考えるとやっぱり靄がかかったみたいに何も見えなくなってしまう。

理斗君のことを言われても今は瑞樹のことしか頭にない。

 ちひろは肩から頭を起こすと大袈裟な笑顔を作った。

「僕はずっと真琴が好きだから、いつ真琴が僕のところに来ても大丈夫なようにしてるよ」

わたしは返す言葉を探すけど、“ありがとう”も“ごめんなさい”も思い付く言葉は全部残酷になってしまいそうで、

でも、ちひろはわたしを困らせないように今作っている笑顔に合う言葉を口にした。

「毎日グミを用意してるよ。とびっきりカラフルなやつ」

そう言って空を見上げるちひろ。

わたしはまだ何も言えないでいた。

ちひろは空を見上げているけれどわたしの表情が見えているようだった。

「真琴、そんな顔しないでよ。

もっと困らせれば真琴が僕のところに来てくれるんじゃないかなんて……そんなずるいこと思いついちゃうから。

僕が真琴を好きなこと喜んでよ」

「嬉しいよ」

「だったらもうそんな顔しないで。ほら真琴、あの雲イルカみたい」

「あっ本当だ」