見ているだけで鳥肌が立ちそうな美しい字が並ぶメニュー表を見て、

後で一枚もらおうなんて考えていると理斗君に声を掛けられた。

「どこか間違ってる?」

「ううん、綺麗な字だな~って。後で一枚もらおうとしてる」

「もらってどうすんの?」

「時々眺めてうわ~ってなろうかなって。わたし本当理斗君の字が好き。

こういうポップな字も、流れるようなwelcomeもいつものしっかりとした字も全部。ずっと見ていたくなる」

「お前が俺を褒めるのは字だけだな」

不機嫌そうな目で理斗君はわたしを見下ろす。

「そんなことないよ。ん~と理斗君は背も高いし」

「背かよ」

つい、見下ろされているから出た言葉は全然嬉しくないようで、ますます理斗君を不機嫌にしてしまう。

「いや、それだけじゃないよ、え~と…そう!勉強も頑張っているし、わたしの相談事にはいつも的確な答えを出してくれるし、

もちろん言うまでもなく見た目も完璧だし、あとね、優しい。

きついこと言っているようで、それは相手のことを思っているからで、理斗君はいつだってそうだった」

「随分とたくさん出てきたな」

「うん、だって理斗君はいいところだらけだから」

「だったらお前、俺のこと好きになればいいのに」

「えっ…」

賑やかだった筈の教室から音が消え、理斗君の声に鼓膜が震えている。

頭の中では今の言葉が反芻していて、

言葉の意味は理解しているのに意識はずっと朧げで。

冗談で言っているのではないとその表情でわかるのに、

嘘でしょという言葉で脳内は埋め尽くされる。

なのに言葉は一切出てこない。

「好きになる条件としては十分過ぎると思うけど?」

理斗君はわたしの肩にポンと手を触れると作業に戻った。

 わたしは理斗君の方を見た。

何もなかったかのようにいつも一緒の瀬尾君達と談笑をしながら作業をしている。

昨日の瑞樹の言葉を思い出した。

───理斗にとって真琴は特別な存在なんだね。

真琴にとっても。