あの時は暗くて距離もあってよく見えなかったけど、薄いグレーのブレザーとエンジのネクタイ、ネイビーのズボン。

彼が着ているのは怜秀(れいしゅう)学園の制服。

怜秀学園といえば毎年多くの生徒を難関大学に送り出している超名門校だ。

 彼は夜空を見上げるともう一度同じことを言った。

「もう5日後には満月になる」

上を向いた彼の顔は街路灯に照らされはっきりと見えた。

さらさらの髪の毛、感じのいい優しい目、形のいい鼻と口、頬から顎にかけての綺麗なライン。

ひとつひとつ美しく整ったパーツは繊細な指先で丁寧に作られた芸術作品のようだ。

おそらく170センチくらいの身長と細身の体はその顔ととても合っている。

もっと見ていたい───と思うほど目を引く姿にふと、中学2年の時に美術館で見た少女の絵を思い出した。

 ひとり穏やかな表情で佇む青い目の少女。

見るものを包み込むような柔和さと引き付ける魅力がありながら、

吐く息ですら汚してしまいそうな透明感に近づくことが出来なかったし、

近づかせない緊張感を放っていた。

それは威圧的な美しさだった。