「あ~びっくりした」

ぐったりするわたしを見て瑞樹は笑う。

「はははっお疲れ様」

「ちひろじゃなくて良かった~。けど、ちひろが入ってくる可能性だってあるよね」

「ちひろは怖がりだからここには来ないよ。ましてや夜は」

「たしかにそうだね」

「晴も葵もここには用がないから来ることはないよ。

そういえば真琴、さっき何か言いかけてなかった?」

「そう……だった?忘れちゃったはははっ」

わたしは伸びをすると絵を描くのをやめた。

「今日はもうおしまい」

 窓の前に立つと夜空を眺めた。

わたしが岬さんに思いを伝えたら瑞樹は居なくなる。

瑞樹がこの世に存在する理由はそれ以外ないのだから。

わざわざ聞かなくたってそんなことわかっている。

もしかしたら瑞樹がこの世にいる時間を延ばすことも可能なのかもしれない。

あれこれ理由を付けていつまでも岬さんに瑞樹の気持ちを伝えなければきっと。

けれど、それはしてはいけないのだという信号のようなものを強烈に感じる。

もしくは不可能なことなのだという信号かもしれない。

うまく説明はできないのだけど、火山が噴火するのを止めることができないように、

自分の意志や力では変えることのできない自然の摂理のようなものを強く感じていた。