首を傾げるわたしに瑞樹は優しい声で伝えてくれた。

「人の気持ちを考えるあまり自分の気持ちを押し殺してしまうところがあるから。

でも、その度に理斗は強くなっていったようにも思うんだ」

「瑞樹は理斗君のことを嫌ってはないの?」

「正直に話すと理斗のことはあまり良くは思ってなかったよ。

でも、話ができなくなってから僕は理斗のことを知ったんだ。

真琴と出会う前、僕の姿が見える人を探し続けてさまよっている頃に。

悪趣味だと思われるのは嫌だからあまり話したくはなかったんだけど、

この体だからね、一日中傍に居ても気付かれることはないから今まで知らなかったことをね、たくさん知ることができたんだ。

それで理斗に対する気持ちが変わった」

「それと……」と言って瑞樹は口を閉じる。

「瑞樹?」

顔を覗き込むと瑞樹は珍しく顔をしかめていた。

「本当にそういうつもりはなかったんだけど……」

瑞樹は一層顔をしかめると話し始めた。

「この前、岬のところから帰ってきた時、理斗の部屋から真琴の声が聞こえてきて、

そのまま通り過ぎようと思ったら僕とちひろの名前が出てきたから思わず足をね、止めてしまったんだ。

浮気相手はうちの母親の方だったんだね」

「あっ…」と声が出て言葉が出なかった。

「しかも、僕とちひろは父と血が繋がってなかったんだね」

「み、瑞樹……」

何を言っていいかわからないわたしに瑞樹はほほ笑む。

「何となく、そんな気はしていたんだ。

だからショックというよりは腑に落ちた、そんな感じだった。

それよりも理斗だね、辛かったのは。

理斗はそのことを隠して僕達の敵であり続けていたんだね。

しかも黙っていたのはちひろの為でもあったね」

「うん、敵で居た方がちひろが頑張れるって……」

「そう言ってたね。理斗は本当に優しくて強いね。

だから可哀想になる。誰かに理斗の支えになって欲しいと思うんだよ僕は。

ねっ真琴」

そう言って瑞樹はわたしを見た。

わたしは「あっ、うん」とうなずいた。