小さくなっていくちひろの背中を見届けると、

家に帰る気にはなれず今来た道を戻った。

 ここから一番近い書店に行くと料理本や絵画の本など、興味のある本を次々と手に取ってはページを捲る。

暫くすると隣で立ち読みをしていた女性が「すみません」と言ってわたしの前から本を一冊手に取るとレジへ向かった。

 周りを見渡すと明らかに来た時よりも客は減っていて、少しすると閉店の音楽が流れた。

時間は21時になろうとしている。

本を元の場所に戻すと店を出た。

 すっかり暗くなった空の下、誰も居ない家へと向かう。

ちひろの家の前まで来ると自然と目がいく。

夜に見る庭園灯に照らされた白亜の豪邸もまた素敵だ。

 出会って2年の月日が経ったというのにわたしはこの白亜の豪邸に入ったことはない。

ちひろがどんな生活をしているのかも、兄弟がいるのかも知らない。

かといって自分から聞くこともしていない。

 今頃ちひろは何をしているんだろう?

そんなことを考えながら夜空を見上げ、

何日で満月になるか空中に指で湾曲の線を描きながら歩いていると「もう5日後には満月になる」
と声が聞こえ足を止めると少し先にブレザー姿の男の子が立っていた。

思わず「あっ」と声が出た。

この前夜道で見た、あの彼だ。