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 夏休みが明けて3日。

岬さんはいつもわたしと一緒に居てくれた。

「調理実習って楽しいよね。わたしは橘さんみたいに料理が得意ではないからいろいろ教えてね」

「うん」

今日の家庭科の授業は調理自習で、コロッケとみそ汁それとデザートにブランマンジェを作ることになっている。

班に分かれて行う授業がとにかく憂鬱だった夏休み前とは違って、

今は岬さんが一緒に居てくれるから楽しく授業を受けることができる。

 入学してすぐに行われた一泊研修の時も、体育の授業でチームを組む時も、

いつも人数の少ない班に入るように先生から言われ、

歓迎されていない空気を全身に感じながら出来るだけ存在感を消してその場に居るのが本当に辛かった。

 調理の説明と、米の生産量日本一はどこか?などの話が先生からあった後に調理に取り掛かった。

コロッケの付け合わせのキャベツの千切りをしていると茹でたじゃがいもを潰していた岬さんが女子達に声を掛けた。

「ちょっとみんな見てよ凄いよ橘さんの千切り、早いし綺麗!」

急にそんなことを言われて手を止めると岬さんが続ける様に促した。

「橘さん続けて!本当凄いんだもん、ずっと見ていられる」

言われるがまま続けていると、わたし達のテーブルに綾音さん達が来た。

「マジすげぇ」

綾音さんがそう言うけれどわたしは顔を上げることなく千切りを続けた。

「橘さんお弁当も毎日自分で作っているんだよ。それにうちでローストビーフも作ってくれたの。これが本当に美味しくてね!」

「へぇ、凄いじゃん」

そんな会話がされる中、千切りが終わりまな板からボールに移すとちょっとした拍手が上がった。

こんな注目のされ方は初めてで、わたしは耳が熱くなるのを感じながらペコペコと頭を下げた。