─落花流水─キミの片隅より

「暑い……」

あまりの暑さに目を覚ますと時間はまだ6時になったところ。

今日から学校、ちひろの家での快適な生活はアルバイトが入っている週末と祝日だけに限定された。

 布団の上に寝た筈なのに畳の上から体を起こすとお風呂場へ直行した。

水シャワーを浴びると布団を畳み、ゆっくりと準備をする。

窓から見える空は青く、太陽はすでに攻撃的だ。

今日も暑くなることを宣言しているかのような空を眺め扇風機の風で髪の毛を乾かした。

電気は使えるようになったけど出来るだけ節約したい。

 時間になるとちひろの家へと向かう。

せっかくシャワーをしてきたのにすでに汗ばむ背中。

行き交う人達も皆、“暑い”といった表情を作っている。

角を曲がり、ちひろの家の通りに入ると葵ちゃんに電話を掛けた。

2回のコールで葵ちゃんは電話に出てくれた。

「もしもし」

「おはよう葵ちゃん。もうすぐおうちの前に着くよ」

「今、出る」

「うん、わかった」

いつもと同じ声からは何も読み取ることは出来ないけれど、緊張していない筈がないんだ。

どう接すればいいだろう。

理斗君ならどうするかを考える。

きっと理斗君ならいつも通りに接する筈。

家の前に着くと、ちょうど葵ちゃんが玄関から出てくる所だった。

緩やかなスロープの道をゆっくりと降りてくる葵ちゃんの制服姿は新鮮で、

鞄の持ち方や歩き方からは“良い所の子”といった雰囲気が出ている。

「おはよう」といつもと変わらない調子で言うと同じように返してくれた。

 葵ちゃんのゆっくり過ぎる速度に合わせながら太陽の下を歩く。

この速度だと葵ちゃんの登校時間には間に合いそうだけど、わたしは遅刻しそうで内心焦っている。

「葵ちゃん色白いから日焼け大丈夫?真っ赤になっちゃいそう」

「日焼け止め塗ってきた」

「じゃあ大丈夫だね」

いつもラフな格好をしている人がたまに見せるスーツ姿みたいにずっと外に出ていない葵ちゃんに太陽の下は似合っていなかった。