─落花流水─キミの片隅より

心臓がドクンと音を立てた。

理斗君の言う通りだと思った。

自分が嫌だと感じた。

葵ちゃんに頼られて嬉しくなって調子に乗っていたんだ。

葵ちゃんのことを考えているようで考えていなかったんだ。

「やっぱり……理斗君は凄いよ。急にこんなことを相談されても、ちゃんとした答えが返ってくる。

すぐに相手の立場になって考えて正しい答えを出せる」

「正しいかはわからないよ」

「でも間違ってはいない」

「それはお前も一緒」

「わたしは葵ちゃんに負担をかけてしまうところだった」

急に涙が溢れ出した。自分が情けなくて仕方がなかった。

「おい、何で泣くんだよ」

「学校に行くのが辛い葵ちゃんの気持ちわたしにはわかるのに……」

「そんな気持ちわかる筈のない俺に正論言われて悔しいとか?」

「そういうことじゃないよ」

「冗談」

理斗君はティッシュの箱を音を立ててわたしの目の前に置いた。

「ありがとう……」

少しすると理斗君のゆったりとした声が聞こえてきた。

「今は葵に付き添ってやるだけで十分だと思う。

何か自分に出来ることが見えてきたらその時に行動すればいい」

「余計なお世話かもしれない」

「葵を思って行動したのであれば気持ちは伝わる」

「でも」と話が途切れ顔を上げると理斗君がわたしを見ていた。

特に表情のない普通の顔。

だけど、大切なことを伝えようとしている気配があった。

わたしが背筋を伸ばすと理斗君が口を開く。

「相手に気持ちが伝わらなくて落ち込んだ時はここに来ればいい。

話くらいは聞いてやるから」

騒がしかった心の中が静かになる。

特別な、魔法のような言葉ではない。

けど、これ以上に心強い言葉はない。

理斗君はいつだってそうだ。

気付かせてくれる、そして勇気をくれる。

だからわたしは何かあると理斗君に話したくなる。

「ありがとう理斗君、理斗君に話して本当に良かった」

「それはそれは」

ただ読み上げるように無感情に言うのが良かった。