***

「瑞樹、絵を描くのは明日にして今日は話をしようと思うんだ」

わたしは窓の前に立つと空に浮かぶ月に目をやった。

 後ろから「わかった」と少し構えた声が聞こえてくる。

「瑞樹、わたし岬さんに会ったよ」

「そうなんだね」

瑞樹の声がますます固くなる。

 偶然を装って岬さんに会ったあの日から時々連絡を取っていた。

そして今日、岬さんの家に行った。

「今日も、一緒に居たんだ。岬さんの弟さんの誕生日で、それで岬さんのおうちで一緒にローストビーフ作ったの」

「僕の為に動いてくれていたんだね。ありがとう真琴」

わたしは岬さんと話したことを全部瑞樹に伝えた。

 今日、岬さんはわたしの前で涙を流した。

それは、わたしが母を亡くしていると話した直後のことだった。

涙の理由を詳しくは語らなかったけど、その涙が瑞樹を思ってのものだということは確かだった。

「わたしも大切な人を亡くしてしまったの」

岬さんの震える声がまだ耳に残っている。

「岬さん、大切な人を亡くしたって言って泣いてた。

瑞樹のことだよ」

「ごめん、ちょっと待ってくれる。言葉が出てこないみたいだ」

「うん…」

 無音の時間が過ぎていく。

それでもこの無音は空白ではなくて瑞樹の思いに溢れている。

わたしは無音の中で瑞樹の思いに心を寄せていた。