わたしは何も言えず黙っていた。

線香花火はとっくに消えている。

わたし達はしばらくの間、夏の虫達に沈黙を埋めてもらっていた。

 ちひろは心細い声でわたしを呼ぶと下を向く。

「ねぇ、真琴」

「ん?」

「真琴はずっと僕の味方で居て」

「当然だよ」

顔を上げたちひろは不安そうな目で必死になって訴える。

「僕はたくさん欠落しているから、そういう僕の欠けちゃっている所とかヒビが入っている場所を埋めて治すことが出来るのは真琴だけなんだ」

「そんな、ちひろは欠落なんて…」

ちひろはぶるぶる頭を横に振ると「してるんだよ。僕は真琴みたいに心が綺麗じゃない。

だから……夏の夜の匂いもしなくなっちゃったんだ」そう言ってわたしにしがみつく。

今、ちひろの心の中では何かが起きている。

とにかく不安で仕方がないんだ。

わたしと理斗君が話しているところを見たのもその原因のひとつだと思うけど。

「大丈夫だよちひろ、ちひろはいっぱい頑張っているだけだよ」

ちひろの小さな頭を撫でた。