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 ちひろと花火をする約束をしていた今日、わたし達は河川敷に来ると暗くなるのを待っていた。

「ねぇ真琴久しぶりだねここに来るの」

「そうだね、あ~夏の夜の匂いがする」

「夏の夜の匂い?」

「しない?」

ちひろは目を閉じて鼻をクンクンさせた。

「これが夏の夜の匂いかぁ。ねぇ他の季節にも匂いってあるの?」

「うん、何となくだけど」

「雨降りは雨降りの匂いがするよね。あんな感じ?」

「あそこまで強い匂いではないかな~。ねぇ暗くなったしそろそろ始めようか」

「うん」

ちひろは袋から線香花火を出すと自分の分とわたしの分に分けた。

「ねぇちひろ、もしかして花火ってこれだけ?」

「そうだよ」

「えっ線香花火だけなの?」

「うん、だって他の花火はバチバチが大きくて怖いんだもん。

線香花火だけじゃ駄目?」

「ぜ~ぜん、線香花火が一番好きだし」

「僕も」

 火をつけると懐かしい匂いと共に記憶が蘇った。

子供の頃は夏になると親友の美緒ちゃんも誘って家族で花火をした。

わたしの大好きで大切な人達の顔が浮かぶ。

すると途端に寂しくなってしまう。

笑顔で思い出せるようになるにはまだ時間が掛かりそうだ。