少しの沈黙の後、理斗君が話し始めた。

「先生になる為に勉強して教員免許取って、この学校で教師になって……。

男に殴られるような生き方してないでしょ。

その人生に殴る男と結婚するってイベント必要?

女に暴力振るわない男なんてたくさんいるのに、

何でわざわざそうじゃないヤツを選ぶかな」

でも、先生は「鍵、返してくれる?」と冷ややかな声で言う。

また沈黙が流れ少しして理斗君の声が聞こえてくる。

「男の手が女の頭に触れて許されるのは雨が降ってきた時で、

頭をぶつけそうになった時で、

髪の毛を乾かしてやる時だよ」

理斗君の言葉に胸が苦しくなる。

理斗君の口調は静かで、でも伝わって欲しいという気持ちが込められていた。

それなのに先生は「鍵を返しなさい」と酷薄な声で言った。

 鍵が先生の手に渡ったような音が聞こえた。

「わたしは屋上を見回ってから帰るから、気を付けて帰るのよ」

「はい」

足音がこっちに近づいてくる。

ここに居てはまずいことに気付き急いで階段を下りるにももう間に合わない。

わたしは壁に張り付いた。