ふと屋上を見ると人影を見つけた。

もしかして理斗君?

目を凝らして見てみると、そこに居るのは理斗君で間違いなさそうだった。

 夏休み前に理斗君はわたしが声を掛けたせいで綾音さんから酷いことを言われてしまった。

わたしはまだそのことを謝っていない。

ヘアゴムをもらった時に謝れば良かったのに嬉しくて忘れていた。

 私服で学校に入るのは良くない気がして誰にも見られないように注意深く周りを確認しながら屋上へと向かう。

目と耳を使って慎重に階段を上って行くと声が聞こえてきた。

「やっぱりあいつと結婚するんだ」

それは理斗君の声だった。

わたしは階段の壁に身を潜めた。

「理斗君が思っているような悪い人じゃないよ」

「莉子先生に手を上げるのに?」

えっ莉子先生?

莉子先生は国語の先生で年齢は若く、みんなから苗字ではなく名前で呼ばれている。

 わたしは2人の会話が気になって耳をそばだてた。

「暴力は一生治らないよ。それでも彼と結婚するの?」

莉子先生は結婚することが決まっていて、けれどその人は暴力を振るう人。

理斗君はそれを見たか聞いたかしてその男の人と結婚するのを止めようとしている、そんな風に聞こえる。

盗み聞きをするのは良くないとわかっていても2人の会話が気になってその場を離れることができなかった。