5階建てマンションの前に差し掛かりカバンから鍵を取り出す。

アイボリーホワイトの至ってシンプルなデザインのマンション。

ここがわたしの家、ではない。

そのすぐ裏にある茶色く錆びたトタンの平屋がわたしの家。

 13年前に中古で購入した時にはすでにボロボロだった我が家は、

お父さんが黒色に塗装したせいでまだらに剥がれ何とも不気味な仕上がりとなっている。

前に家から出てきたわたしを見て子供が叫びながら走って逃げた、なんてこともあった。

 玄関扉を開くと湿気を含んだ暑い空気が一気に全身に(まと)わりついた。

茶の間に入ると更に暑い空気が充満している。

「暑い……」

 7月に入り、テレビを見なくても熱中症の話題を頻繁に耳にするようになってきたこの頃。

一縷の望みに賭けてリモコンの運転ボタンを押してみるけれど壁のエアコンは無反応。

電気が停められているのだから当然だ。

 4畳半の自室へ行くとそこは夕日でオレンジ色に染まっていた。

窓を開け、畳んで隅に寄せてある布団に顔を埋めると「あーっ!!」と声を上げた。

 突然お父さんが居なくなった。

 今日の朝起きると折り畳み式の小さなテーブルの上にはお父さんからの置き手紙があった。

【しばらくの間真琴とお父さんは別々に生きていくことになりました!
お互い必要なお金は自分でゲットしよう!
真琴はしっかりしてるから大丈夫!
ではけんとうをいのる!
アディオス!】