リズの顔はげっそりとしているが、エレーナさんはドレアを採掘出来たことにとても嬉しそうな表情をしている。よっぽど欲しかったのだろう。
リズはエレーナさんとあれこれ会話をしたのち店内へと足を進めたのであった。
「本当にありがとう! これでまた新しい剣を作ることができるよ!」
エレーナさんはどうやらテンションがかなり上がってしまっているようでルンルンとした足取りだ。そしてエレーナさんはドレアを受け取ると私たちをある場所に案内してくれる。
「約束通り、この銀の剣を譲渡するよ。 エリックさんにも銀の大剣をあげるからね」
そう言うとエレーナさんはリズとエリックに銀色の剣を手渡す。
エリックはその剣をぎゅっと握りしめるとリズと共に口を開く 。
「やっぱりこれは凄いぜ! これだったらあのゴーレムも簡単に切れそうだ!」
「本当に切れ味が凄いみたい!」
二人が感想を言い合うなかレズリタは不満そうな顔を浮かべている。私が『魔法書も見に行くよ』とレズリタに伝えると目を輝かせ微笑む。一番頑張ってくれたのはレズリタだからしっかり見させてあげないとね。
その意を汲んだかのようにレズリタは私の手を握る。ちょっと恥ずかしいが可愛いしまあいいかと思いレズリタの手を握り返しておく。
そしてエレーナさんの店を出た後私たちはすぐに魔法書などが売っている魔法書専門店に向かうのだった。
「にしても魔法書って習得するのにどれくらい時間が掛かるの?」
「人によって違うけど早い人は一ヵ月、長い人は一年ぐらい掛かるよ~」
私たちは歩きながら会話を楽しんでいた。やはり魔法書習得には時間が掛かるみたいだな……。
「ラゼルは魔法は習得しないの? いつも使ってるのは魔物の能力っぽいけど......」
「私も魔法を覚えようと努力したんだけど、うまくいかないんだよね」
家族に追放される前は家の魔法書を漁っては練習したりもしていた。まあ、結局魔法を使うことが出来なかったんだけどね。
そうしてしばらく雑談しているとあっという間に店に到着する事が出来たので中に突入するのだった。もちろん手をしっかり繋いで……レズリタが子供っぽくなってる!
そんな訳で店内に到着したのだけどまず気になったのは私の視線に入って来た光景だった。
周りを見渡すと物凄い量の本が陳列されているのだ。こんな量の魔法書があるなんて……驚きだ。
「うわー! こんなに魔法書があるんだ」
「すげえな」
リズとエリックが周りを見ながら嬉しそうに魔法書を吟味し始める。なんだかんだ魔法にもあの2人は興味を持っていたみたいだ。
するとレズリタが私の手を引っ張って2人とは違う所へ誘導する。
「ど、どうしたの?」
「ちょっと来て~」
少し頬を赤くさせたレズリタに腕を引かれ魔法書の奥のコーナー連れてくると手を放してくれる。そこには多くの魔法書が綺麗に棚の上に並べられていた。
するとレズリタがある場所に指をさしている。指をさした場所に目を向けると魔法書があり《雷属性の魔法書》と書かれている。
「ラゼル、取って~」
レズリタが子供らしく足をジタバタさせる。可愛すぎるのも問題なのかもしれないと思った私は早速その魔法書を取りレズリタに渡すと大事そうに抱きしめるのだった。するとレズリタが口を開く。
「ずっと前からこの本欲しかったの~、ちょっと高いから買えてなかったんだけどね」
「今ならお金も足りるし、買えるね」
私がそう言うとレズリタが更に棚をキョロキョロとし《炎属性の魔法書》を発見し手に取る。他にも色々な魔法書に夢中になっている様子で手に取っては棚に戻すを繰り返している。レズリタはかなり興奮しているのだろうか口からヨダレが出ている……。
そんな感じで各々好きな魔法書2冊を購入し店を出ることにしたのであった。
「やった~! 魔法書買えた!」
レズリタは魔法書に大喜びでリズとエリックは剣に夢中。
するとレズリタがあの赤い鉱石を私たちに見せて口を開く。
「この鉱石には魔力がいっぱい入ってるから魔法を覚えるのが早くなるの!」
確かに普通魔法を覚える際は魔力を使うので積み重ねになる。ただこの鉱石を利用して魔力を補充していけばすぐに魔法が覚えれるということらしい。
でもいずれにせよ努力は必須だからレズリタは努力家なのだろう。レズリタは例の鉱石を自分のアイテム袋に入れ幸せそうに持っている。
そのあとは昼食を取ることにし、昨日私とリスタが食べていた和食店に向かうことにした。
数分歩き、店に到着して中へと入り席に座る。今回はリズとエリックが隣同士に座り私とレズリタが隣同士に座る。
丁度昼時なのもあって混雑をしている中、メニューを見ることにした。魔法書のおかげでテンションが上がっているレズリタはどんどんページをめくっており鼻息も荒くなっている。
少し待っていると料理がテーブルに運ばれ大きな丼にご飯をもりつけ、その上に色んなものが乗っている食べ物で食欲がそそられる。
「いただきます!」
私が元気よく食事を食べ出すとレズリタも真似るように食事を食べ始める。
王都でこんなにも美味しい料理があるなんて思いもしなかった。
すると横でレズリタが目を輝かせており、料理を口に掻き込んでいる。リズとエリックもレズリタが美味しそうに料理を味わっているので口に食事を運ぶ。
すると二人の目がキラキラと輝き始める。余程美味しかったのだろうと思う。
そのあと私たちは食事を終え、会計を済ませる。
「おいしかったね~」
「こんなに美味しい店があったなんて知らなかった!」
「ラゼルの食べっぷりも凄かったぞ……」
私たちは歩きながら会話をし、宿に向かう。到着して部屋に入るとレズリタは魔法書に夢中になってベッドに入り込んで読んでいる。
「剣を貰えたし最高!」
リズはベッドに寝そべりながらニヤついた顔でそう言っていた。ちなみにエリックは風呂場にいるみたい。
そして私たちは雑談しながら部屋で時間を過ごすことにする。
「そういえばそろそろギルドの依頼でも受けに行かない?」
「良いね~、私たちもパワーアップしたからね」
リズとレズリタはやる気に満ち溢れているようでガッツポーズを取っている。どうせここにエリックもいたら同じ感じで言うだろう。
そんな訳で私たちは次の日の朝ギルドへと向かうことに決め、明日に備え寝たのであった。
「おっはよ~」
次の日の朝、レズリタがそう元気な声を出しながら私の背中を叩く。
まだ眠い私は寝ぼけながら起き上がり着替えを済ませる一階に降りて歯を磨く。ようやく起きたところでお腹はペコペコだった為、宿の食堂でご飯を食べることにする。
するとリズ達も起きてきたので一緒に朝食を食べ私たちは宿を後にすることにした。
宿から出てギルドへ行くと結構人が多いことに気がついた。依頼が張り出されているボードの前には多くの冒険者たちがいて盛り上がっている様子だ。
私たちもその中を進んでいき受付嬢の場所へ到着する。相変わらず美人な受付嬢だ。
「あ! ラゼルさん!」
いつもは疲れている顔持ちの受付嬢が嬉しそうに挨拶をしてきたので私も思わず挨拶を返してしまう。リズ達はまだ眠そうな目をこすっていた。すると受付嬢が口を開く 。
「依頼が沢山来ていますよ!」
……とのことだ。私はまだゆったりとしていたいが、リズ達はパワーアップした力を早く試してみたくて仕方がないといった様子だ。
「なんかSランクレベルの依頼とかってありますか?」
私が聞いてみると受付嬢は紙をペラペラとめくり始め、一ヵ所で止めて私に向けてその依頼書を見せる。
その紙にはヤギンを討伐してほしいという依頼だった。ヤギンは全長3メートルぐらいの黒い体毛に二足歩行で立ち鋭い2本の牙をもっている魔物であり、ヤギのような形をしているようだ。
知能も人並にあるので攻撃する際はまず距離を取ることに専念するといわれているみたい……。キツイかもしれないななどと考えてるとリズ達がそわそわし始めるので仕方なしに依頼を受付嬢に出し受理されるのを見届ける。
「今回の依頼はとても危険ですので気を付けてくださいね」
受付嬢がそう言ってくるので私たちは頷く。
そして確認も取れたので早速私たちは馬車に乗り、ヤギンが出没する目的地へと向かうのであった。
「そういえば今回ヤギンが出るのは王都から離れた村らしいよ」
私が皆にそう伝えるとリズ達は今回受けた依頼の情報を確認しているようだ。
「あんまり情報がないんだね~」
「ああ、しかも村についても情報がないな」
レズリタとエリックが少し困惑気味にそう言う。まあ、誰も受けたがらない依頼だから余ってたんだろうなと私は思った。そして私たちは話しながら馬車の中で過ごしていると目的地に着く。
村の周りは木々だらけでおどろおどろしい雰囲気に包まれていた。まるであの時ウルフに襲われたあの夜を思い出すような感じだ……。そのまま私たちは馬車を降りて歩き、村の中に入り込む。
今の所誰かがいることなど確認は出来ないため村人はまだ避難などしていないのだろう。私たちはそのまま村にある家へと行きノックをする。だが誰もいない様子。
私は少し考えると村長の家に向かってみようと皆に提案してみる事にする。そう話すと皆が頷く。
そして村長の家に到着をしノックするが、結果は同じであった……。
「おいおい、どうなってんだこりゃ」
エリックはこの異様な光景を見て思わず口を開く。他の皆も同じように言葉を失っていた。そう村には誰もいないのだ……。
出発する前までの話では村には人がそれなりに住んでいると紙に書いてあったがどういうことだろうか。
そして村人たちはどこへ行ったのか全く見当がつかない状況だ……。
その後、私たちはそのまま村の探索を始めたがどの家も空っぽになっている……。
それから数時間を探索に費やしたが全く手掛かりが見つからない。
「どうして誰もいないの~」
「ちょっと不気味よねこの村」
リズとレズリタも村の不気味な雰囲気に驚いてきたのか少し震えながら声に出す。
確かに廃墟のような雰囲気、不気味な静けさは異常としか言うほかない。
ここまで来たらギルドに一旦連絡をしといた方ががいいのかと思い始めたのだった……。
それから私たちはとりあえず馬車に戻ることにした。
もう既に辺りは暗くなり始めていてこれ以上暗い中で動くのも危険だと思ったからだ。
「アァァァ......」
すると森の奥からなにか唸る声が聞こえてくる。私たちはただ事ではないと思い馬車へ向かおうとしていた足を止め森に一歩足を踏み入れる。足を踏み入れていくと木々の間から得体の知れない生物が現れたのだ。
体長3メートルを超える大きな漆黒のヤギがいる。頭には大きな太い角、そして鋭い牙に赤い目玉……見るからにただ者ではないという空気が漂っている……。
これはかなりヤバい......。と思っているとリズが私に声を掛ける。
「大丈夫、今の私たちはパワーアップしているからきっと勝てるよ」
リズがそう言うとエリックとレズリタも無言で頷いている。
いや私はパワーアップしてないんだけどとツッコミたいところだったが口には出せなかった……。そしてヤギンは4人の姿を見るなりこちらにゆっくり近づいてくる。
私たちは一応戦闘態勢に入るが、いざこうして近くで見てみるととてつもない恐怖心が襲う……。赤い目はこちらを見ており口からはよだれが垂れている……。
そしてヤギンは雄叫びの様な声を出すと4人に飛び掛かり、鋭利な爪で引き裂こうとしてきた。
すぐにレズリタは魔法を発動、私たちに向かってくる鋭い爪が燃え、ヤギンの左手を焦がす。するとヤギンは即座に私たちから距離を置いた。
流石に知能があるようで、簡単には接近戦に持ち込めないと判断したのだろう。
レズリタの魔法に苛立ちを感じているのかヤギンは牙をむき出しにして臨戦態勢に入っている様子。
するとヤギンが近くの木を引っこ抜き私たちの方へ向けて投げてくる。
あの巨体で素早く木を投擲してきたことに恐怖を感じたが、すぐにリズとエリックが木を剣で斬り裂き無効化する。
木が粉砕した煙が立ち込めている中、ヤギンが思いっきり地面を蹴り超スピードでリズとエリックに向けて急接近する。
「俺たちの剣で斬り裂く!」
そう言いリズとエリックは剣をヤギンに向ける。
そして2人は剣で攻撃を行おうとするのだがヤギンはすぐに身体を回転させながら剣撃を避ける。
「速い奴ね!」
リズが攻撃を避けられた事に怒ったのか声を上げている。そんな中ヤギンは足を止めることなく私たちの方に攻撃を仕掛けてくる。
どうやら魔法使いは最優先に処理するべきだと思っているらしい。
ならばと言うばかりに私はヤギンの方に向かってスキルを発動する。
《ブリザード》
手から放たれた極低温の空気の渦はヤギンと私の間に発生、瞬間的に景色を白くし大きな音をたてる。私も魔法に驚いたのかヤギンは少し下がってしまう……。
するとその雪雲の中からリズ達が物凄い勢いで飛び出してきたのだ。まるで瞬間移動をしているような速さで。そのまま2人はスキルを発動する。
「ブレイクッッッ!」
「サンダークラッシュッッッ!」
2人の攻撃はヤギンの体に深々と突き刺さる。レズリタはこの機会を見逃すことなく魔法を発動する
《煌めく雷(ブライトボルト)》
2人の剣で動きを封じられていたヤギンに向かって放たれた雷はヤギンの体を撃ち抜き大きくのけ反らせる。そしてエリックとリズはもう一撃お見舞いしてやろうとするがその攻撃を読んでいたようにヤギンは大きく横に飛んだ。
やはり3人ともパワーアップしているようだ。新しい技を習得しており動きがとんでもないことになっている……。
ヤギンは攻撃を受けた為立ち尽くしている。だがリズ達はそんな事気にした様子も無く次の攻撃を繰り出そうしていた。
エリックとリズは左右に跳ぶと同時に魔法を同時に発動する。
《スラッシュ》
《放電》
エリックが縦に斬り裂き、そしてそれと同時にリズが剣から電気を発生させてヤギンに鋭い一撃を決める……。
ヤギンは体が斬られた衝撃でその場に倒れ込む。武器を変えるとこんなに強くなるのか……。そう思っているとヤギンは立ち上がろうとしている。
だが足を切られているからか立ち上がれないみたいだ。
「これでとどめよ!」
リズがヤギンにとどめを刺そうとした瞬間――――――
「おやおやおや? 何をしているんですう?」
リズの後ろから声が聞こえる……。
反射的にリズは後ろに身体を向けると異様な男がこちらに笑みを浮かべ立っていた……。
その異様な男を見てまずレズリタが構える。
それもその筈、そこにいる男が発する雰囲気は人間じゃないとすら思わせる程不気味だったからである……。それにその男は少し汚れた白衣に変な化粧をしている男だ……。
「だ、誰!?」
「あ――――、わたくしですか? 私は龍神教の信者をしているオスカルといいます」
龍神教とは会いたくなかった宗教の1つである。龍神を信仰しており、各国で犯罪行為をしているとか……。一度私たちはヨルフとかいう宗教の幹部に襲われた事がある
。こんな不気味な男を見てしまえば身構えない筈がない……。
そしてその怪しげな男は口をニヤニヤとさせて口を開く。
「それそうとですねぇ? そこにいる魔物、わたくしに譲ってくれませんかあ?」
意味が分からない。目の前の魔物をなぜ譲れと言われているのか……。ただこいつの言うことをすんなり聞く気は毛頭無い。
すると怪しげな男は笑みを浮かべてこう言い出した。
「ならあ? ここで死にますかねえ?」
その言葉を聞いた瞬間、リズは剣を男に突きつける。だがその瞬間、無数の刃物がリズに襲い掛かる。
「な!?」
リズは男からバックステップをして距離を取る。気づくのが遅れていたらただでは済まなかっただろう……。
刃物が来た先は暗闇であった。暗闇の先には多くの信者たちが武器を振り回して現れる。
不気味で虚ろな目をこちらに敵意を向けてくる。
リズとエリックは互いに顔を合わせると頷き、戦闘態勢に入る。
まず動いたのはリズだ。放たれる矢を全て回避し、信者が振りかざす武器を全て防ぎ剣で斬っていく。
エリックも同じタイミングで動き出し、信者の刃物を巧みに自身の剣でいなしながら確実に倒す。
レズリタも魔法を唱え信者たちの行く手を阻んでいる。
流石Sランク冒険者になっただけあって魔法の扱いや剣の腕もかなり卓越している……。
私はそう思いながら怪しげな男に視点を移す……。怪しげな男は手を出す素振りを見せないまま只々ニヤニヤしている……。
一体何がしたいのか疑問で仕方ない。
すると信者達が魔法を詠唱しこちらに向かって放つ。
「嘘!? 魔法も使えるの!?」
リズ達が驚きの声をあげて避ける。
3人とも動きも凄いスピードなのだが手数の多さが対処しきれていない……。
私はその様子を見て《ブリザード》を発動し、信者たちとリズ達との間を埋め尽くす。
するとオスカルが笑いながらこちらに話しかけてくる。
「おやおやおや? あなたは魔族の能力を使うことが出来るのですかあ?」
「そうよ……。世間では外れスキルと言われてるけどね」
それを聞いた男は口を歪ませながら腕を大きく上げる。それを見ていたレズリタは私の元に来ようとする。
だが無数の魔法に邪魔されてこちらに近づくことが出来ない様だ。リズたちも近接攻撃を持った信者達と戦っている為接近出来ずにいる……。
だがエリックとリズの表情は明るくない。敵の数が多すぎるのか次々と迫ってくる教徒の対処だけで手一杯だった。
「そうですか! そうですか! 私も世間では外れスキルと言われていたんですよ!」
するとオスカルは能力を発動する。
手からは無数の糸が出てき地面にも張り巡らされてゆく。
なんだ……、何を始めようっていうんだこの男は……?
一見ただの糸にしか見えないが当たるとどうなるのか少し不安だ……。
するとオスカルは私の顔を見ながら告げる 。
「私は糸を操るのですぅ。お手柔らかにお願いしますねえ?」
《星糸》
そして次の瞬間、私の目の前から糸が飛んでくる……。
私は素早く回避行動をしたお陰で糸を躱すことが出来た。何とか躱せたが放たれた糸は木を真っ二つ斬り落としていた。
私は背後に構えていた木々が一撃で真っ二つ斬られているのを見て鳥肌が全身を覆う……。
あんなもの喰らったらひとたまりも無いぞ……。リズ達は教徒の人数が多すぎるのもあって苦戦を強いられている……。もし私がやられたら次の標的はリズ達になだれ込むだろう……。
どうにかして私がこいつを倒すしかない。そう思い私はスキルを発動する。
《ダークネス》 するとあたりは暗闇に染まり、オスカルの操る糸は見えなくなる。
だがオスカルはまだニヤニヤと笑っている……。
「あなたの能力は素晴らしいいいい! もっと見せてくださいよおおおお!」
するとオスカルがまた糸を四方八方に飛ばす。
放たれた糸が一目散に私の元に飛んでくる。私は糸に向けて手を挙げ能力を発動する。
《ポイズン》
私の手からは毒液が形成され、オスカルの糸が跡形もなく無くなってしまう。その様子を見たオスカルは嬉しそうに拍手をしてくる。
だがまだまだ糸は飛んでくる、私は次から次へと毒液を投げ飛ばし糸を撃ち落としていく。その様子を見てオスカルはブツブツと何か話しているように見えた。
なんだあの余裕な表情は……。リズたちの攻撃を邪魔することなくずっとこっちを見つめている。気持ち悪い男だ……。
するとオスカルが私に向けて口を開く。
「あなたあ、龍神教に入らないですかあ? そのスキル、素晴らしい! あなたでしたら即幹部! いや幹部越えも夢ではないです!」
何を急に言っているのかと思えば宗教勧誘だとは……。冗談では無い。私が龍神教などに入るわけが無い。
「入るわけないでしょ」
きっぱりと断る。するとオスカルは表情を変えずに首を横に振る。
「それは残念ですよ? もったいないですねえ……」
心底残念そうな表情を見せると、オスカルは私に向けて無数の糸を飛ばして来る。私はそれに対し《ポイズン》を発動する。だがその隙をついてオスカルはこちらに走り込んで来ている。
気づいた時には私の目の前まで来ておりオスカルが思いっきり拳を握りしめて私の腹部を突く。突然腹部に訪れたとてつもない衝撃による痛みに耐えながら私は《ブリザード》を発動する。
放たれた冷気は一瞬で周囲の木々を凍てつかせる。オスカルも一部身体が凍ってしまったので動けないようだった……。そして少し距離を置くためにバックステップする。
距離を置いた後、周りを見渡すと龍神教信者からの連続攻撃に耐えていたエリックとリズ、レズリタが見える。だが教徒の圧倒的な人数により押し切られそうになっていた。
どうにかしないとまずい……。すると凍っていたはずのオスカルの氷がみるみる溶けてゆく……。やはり人間じゃ無いということなのだろうかと冷や汗を垂らしながらそう思うしかなかった……。
確かに私の《ブリザード》はちゃんと命中したはず……。だが奴の身体はみるみる回復していっているように見える…………。
なんとか必勝法を見つけ出さねば……、そう思い地面を見ていると糸が張り巡らされていた……。
この糸は《コピー》出来るのだろうか?私は手を突き出し糸に触れて《コピー》を発動する。
――――――――――――――――――――――
あなたが使用できるスキル一覧
・《コピー》
・《ポイズン》
・《ブリザード》
・《影の龍力》
・《星糸》NEW!
――――――――――――――――――――――
私は無事にコピーが出来たことを確認する。
《星糸》
そして私はスキルを発動―――――― 手から禍々しいオーラが現れ糸が放たれる。
私の手から放たれた糸はオカルトの元にへと飛んで行く。
オスカルは瞬時に反応し、私の糸を避ける。
先ほどからずっと不気味に笑っていたのが突然、眉間にしわを寄せこちらを見る。
何が起こっているのか理解できないいのかオスカルは急に大声を出す。
「なんと! 私の能力をコピーしたんですか!? やはりあなたは素晴らしいぃ!」
何もかも理解できないのかずっと驚いている様子だ。だがそんなことはどうでもよい……。私はもう一度スキルを発動する。
《星糸ッッッ!》
もう一度オスカルに向けて糸を放つ。だがオスカルも同様に私が発動したスキルを行使する。やはりまずい……このままでは決着がつかなくなりそうだ……。
どうにかして考えないと、この状況を突破できる方法を考えるしかない。私は思考を巡らせる。
すると1つ案が閃いた……。私の持っているスキルを組み合わせることは出来ないのだろうか? もし出来たならこの状況を打開することが出来るかもしれない。怖気付く気持ちを抑えて私はやってみることにした。
今はこれしか方法は無いと信じて……。
《闇糸》
すると先ほど私が出した糸が漆黒に染まりはじめる。不気味な色になった糸だが威力は桁違いに上がっているのを感じる。
おそらく破壊力も速さも、先ほど私が出した《星糸》よりも遥かに上だろう……。放たれた闇糸はオスカルの腹部まで届く。
私の見立てが正しければ奴はこれで終わりだ。私はそう思いオスカルの方を見る。
その場にうずくまる男の姿が見え、腹部からはダラダラと赤黒い血が吹き出している。
「なんて凄いんですか!? そのスキル!」
オスカルは苦しみながらも楽しそうな声でこちらを見てくる。
もう戦う力も残っていないのか立ち上がるようなそぶりも見せずに腹部を抑えながら笑い声をあげる。
これ以上は立ち上がらないと思い、私はリズ達の様子を見る。すると丁度最後の教徒をリズ達が片付け終わったところだった……。
「ラゼル、なんとかこっちは倒せたわ」
そう言うとリズは剣をしまい、エリックも大きなため息をついている。どうやらさっきの戦いが結構厳しかったらしい。辺り一面ボロボロだし……。
レズリタもどうやら立っているだけでかなり体力を使ったようで座り込んだ……。するとエリックがオスカルに向けて口を開く。
「お前らのアジトはどこだ?」
エリックがオスカルにそう言い放つ。
そうするとオスカルは軽く微笑んだ後に空を見上げ、薄ら笑いを浮かべながら喋り出す。
「私は知りませんねえ、権利者に聞いてみては?」
この期に及んでシラを切ろうとしている。するとエリックがオスカルの目の前に行き胸倉を掴む。
だがオスカルは一切口を割ろうとはしなかった。どうやら教える気はないみたいだ……。
これ以上やってももう無理だろうと思い、私はスキルを発動する。
《闇糸》 を発動すると体が切断され、オスカルはその場に倒れる。
「本当になんだったの!」
そう言いながらリズは座り込む。エリックも不思議そうにオスカルを見つめるが考えるのを止めたのかため息を吐く。
少し落ち着くと私はある事を思い出す。
「そういえばヤギンは?」
「ヤギンなら俺がとどめを刺しておいたぞ」
どうやらエリックがしっかりやっていてくれたらしい。その後私たちは教徒が生きていないか、警戒しながら周囲を歩く。
何も問題なかったので気を張るのを止めて私たちはもう一度村に戻っていく。私たちは村人がいないかを確認するために歩き続ける。
「少し家の中を確認してみよ」
リズがそう言うと私たちは村の家々を調べに入る。だがどの家を覗いてみてもやはり人はいなかった。それどころか血肉1つ落ちておらず、不気味な雰囲気を醸し出していた。
ただ一つだけ奇妙な部分がある……この村の民家には剣や服の残骸?みたいなものがたくさん散らばっているのだ……。
そう思いながら家を捜索していると違和感に気づく。この村中を見渡しても死体が1つもないのだ……。
そうしていると机の上にあるものが置かれていることに気づく。近づいて確認してみるとそれは写真で、10人以上の人間の顔が映し出されていた。
そしてその村人たちの写真を一人ずつ見ていくとある人物が目につく。写真が汚れていて解りにくいが写真の人物には1つだけ特徴があった……。
私はその特徴を見てこの違和感の正体に気づく。それはとても奇妙に見えた――――だが理由は少し考えれば分かるようなものであった…………。
考えたくもないことが頭に浮かぶ―――― 。
なぜならその子の手からは糸が出ていたから。