次の日の朝、私たちはギルドに行き新しい依頼が来ていないか見てみることにした。
「今さっき新しい依頼が来ましたよ」
受付嬢がそう言うとギルドの中は一気に活気を増す。
「どんなもの?」
リズが聞くと職員は続ける。
「ホワイトウルフの討伐になります、こちらの魔物の特徴などを説明させて頂きますね」
ホワイトウルフ……かっこいい。そう思いながら受付嬢の話を聞いていくことにした。
「この魔物の特徴は真っ白い毛並み、そしてその性格の悪さです。ホワイトウルフは口から冷気を吐き相手を凍らせてしまう力を持っております、ランクはB級の討伐対象になり」
そこでリズが遮る。
「B級なの!?」
もう少し安全なのにしよ……?そんな事を私は考えていると職員がまた話しを始める。
「集団で動くことのない魔物ですし、繁殖期は過ぎていますので狂暴化はしていないかと」
ふぅ良かった……とか考えているとレズリタが声を上げる。
「依頼を受けさせて頂きます!」
それを聞いて職員は手続きをしてくれる。
馬車はギルドが用意してくれるらしい。
そして私たちは馬車に乗り、私達は目的地へと向かった。
馬車で2時間ほど、ホワイトウルフが出没すると言う場所に辿り着いた。
「道中何も出なくて良かったね」
レズリタがそう言うとリズも同感と声を上げる。
受付嬢が言うには依頼場所は森の中だからもしかしたら出るかもしれないとの事だった。
そんな事を思いながら私達は探索を進めて行くことに……すると急にリズは口を開いた。
「さっきからなんでこんなにも静か過ぎるの……?」
私も疑問に感じた。とても魔物がいるように思えないし、普通ならそこら辺でゴブリンくらい出るはずだ。なのにそれすらいない。
「とりあえず気をつけて行こう!」
そう言って更に奥へと進んでいくとだんだんと周りの温度が低くなっているように感じる。とても寒くなってきた。
「な、なにこれ……」
リズが寒そうに声を出すとレズリタが口を開く。
「これは……まずいよ」
その瞬間ホワイトウルフが私達の前に現れる。
かなり寒いと思ったら周りが真っ白に染まる。これはホワイトウルフの作り出した結界なんだろう……。
辺り一面雪景色だし、一体どこから来たんだこいつらは……そんな事を考えていると。
リズが近くに1人倒れている冒険者を発見する。
「まずい!誰か倒れてるよ!」
急の事で驚いたが取り敢えず生きてるかどうか確認をしないと。
リズは倒れている冒険者の近くまで行き、息があるか確認をしている。すると私に向かって叫ぶ。
「ラゼル! この人まだ息があるからの安全な場所に連れていって! 私とレズリタはホワイトウルフをなんとかするから!」
私は2人を信じてそのまま運び出すことにした。私は体温低下で動きが鈍いながらも慎重に進んでいく。
「レズリタ後ろから魔法で援護して!」
「分かった!」
2人は役割を分担してホワイトウルフの相手をしているようだ。
やはり戦闘経験が多いだけあって凄いと感じる。私は冒険者を安全な場所に運ぶことに成功したので走って2人のもとへ向かう。
しかしそこいたのは余裕の表情を浮かべている2人ではなく、疲労の色が見える2人だった。
ホワイトウルフを倒すことが出来ていないようだ。私は咄嗟に大声で叫んだ。
「大丈夫!?」
リズは息絶え絶えになりながらもこちらを見る。
レズリタに回復魔法をしてもらいながらもその目は輝きを失っていない……きっとまだ諦めていないんだろう……それなら。私は2人に言う。
「私も加勢する!」
そう言うとリズは剣を握り、レズリタは詠唱を始める。私もホワイトウルフに手を挙げてスキル準備を始める。
そして3人に突っ込んでくるホワイトウルフに対してリズは突撃系のスキルで、レズリタはステータス上昇や効果上昇のスキルを発動したようだ。私もスキルを発動する。
「〈ポイズン〉!!」
右手に禍々しいオーラが現れ、血の様に赤く濃い色のポイズンに変化する。
そしてそんな液体は1体のホワイトウルフに向かって放たれる。しかしホワイトウルフはその液体を回避し、攻撃が外れてしまう。
これは囮で、本命はレズリタの攻撃だ。避けた先にレズリタが魔法を発動していた。
「フレイム!」
レズリタの魔法は炎の塊となりそのホワイトウルフへ一直線に向かい、直撃する。
そしてとどめを刺そうとリズがホワイトウルフに向かって走る。その時だった、ホワイトウルフが口から冷気をリズに吐き放った。
リズはその冷気を浴びてしまい動きを止めてしまう。
「リズ!」
私は急いでリズのもとへ向かう、するとホワイトウルフがもう一度冷気をリズに放つ。
「させないよ」
私は冷気に向けて手を挙げスキルを発動する。
《コピーッッ!》
――――――――――――――――――――――
《ブリザード》がコピーされました。
あなたが使用できるスキル一覧
・《コピー》
・《ポイズン》
・《ブリザード》NEW!
――――――――――――――――――――――
そうすると私の手から禍々しいオーラが溢れ、冷気を吸収しコピーすることに成功する。そしてホワイトウルフに向けて。
《ブリザードッッ!》
放たれたブリザードはそのままホワイトウルフに命中し凍りつく。
「今だよリズ!」
「任せて!」
リズは剣を前に出しスキルを発動させる。
「バーチカルッッ!」
振り下ろされた剣は氷が砕け散りそのままホワイトウルフの頭と体を切り離した。
なんとかホワイトウルフを無事討伐した。それと同時に私の体力も限界に近かった為倒れてしまう。
するとリズとレズリタが私の所に駆け寄ってくる。
「ラゼル、お疲れ様!」
リズとレズリタの2人は笑いながら優しく私に言う。2人のお陰で今回の依頼は無事成功に終わったのだ。
そして安心していると体の疲れが一気に出てきて意識が朦朧としてしまう。
倒れないようにしたのだが、意識を保てそうにない……。
「あ、あれ……?」
「ちょ!どうしたの!?」
リズがこちらに焦りながらも私に問うてくる。私は力ない声で答えた。
「スキルの……使い過ぎ……」
私はそこで意識が途切れてしまったのだった。
目が覚めたのは数分後だったらしく、心配そうな顔をしているリズとレズリタの2人と目が合った。
「ラゼル!」
そう言って私に抱きついてくるリズだが、体が楽になっていることに気がついた。
するとレズリタが自信ありげにこちらを向いてくる。
「私の治癒魔法で体力回復しておいたんだよ! 凄いでしょ~!」
流石は冒険者だ。私は感心しているとレズリタが口を開く。
「もしかしてスキル使いすぎちゃった?ラゼルの魔力が殆んど無かったから...」
そうだったのか……そう言えば今回使ったスキルは《ブリザード》と《ポイズン》だったけど。
使いまくると体に影響が出るのが唯一の問題点だなぁ。
「助けることが出来て良かったよ……」
そう言って更に抱きついてくるリズに対して私は優しく背中を撫でながら2人に感謝しているのだった。するとふと思い出す。
「そういえば、倒れていた冒険者は?」
私は気になっていた事を聞く。
「ちゃんとレズリタが回復魔法で回復させて近くで待機してる馬車に運んでるよ。」
その言葉を聞いて私はホッと胸を撫で下ろした。すると遠くから声が聞こえてくる。
「おーい!」
声の主は馬車の職員だった。私達は職員の元へ向かう。
「依頼完了お疲れ様です。そろそろ王都に行き報告をしにいきましょう。」
そう言うと馬車の扉を開いてくれたので馬車に乗り込む事にした。
すると馬車には男性の冒険者が座っていた。
「もしかして君たちが俺を救ってくれた冒険者かい?」
男性が私を見つめて聞いて来た。
「はい、どうやら体力は回復出来たみたいですね。」
「ああ、本当に助かった。ところで君たちの名前は?」
「私はリズです!こっちの子はレズリタでこっちの子がラゼルって名前です。」
「俺の名前はエリックだ、よろしく」
そう言って私達3人はエリックと握手を交わた。
自己紹介が終わってからは私達4人はレズリタが作ったお菓子を食べながら雑談に花を咲かせていた。
そして数十分程お喋りをするとリズが現場についての話を始めた。
「そういえば、エリックさんはどうしてあの場に1人でいたんですか?」
「いやぁ実は少し前にパーティーと喧嘩別れしちゃってね。1人で依頼を受けていたんだよ。」
そう言ってエリックは少し苦笑いをしてしまう。そしてそれをみたリズは提案をする。
「良かったら私達のパーティーに入りませんか?」
予想外の出来事だったのか、エリックは驚愕してしまった。
そりゃそうだ、急に誘われたんだもの、私だってそうだったし……そう思っていたがそれは杞憂に終わった。
「いいのか?是非入れさせてくれ!」
そう言ってエリックは快く了承してくれたのだ。
するとレズリタが口早に話し始める。
「やった――!! 4人パーティー結成だね! ラゼルもそれでいいよね!?」
私は流れるようにパーティーに入った上に返事を求められて混乱したが、私も勿論異論なくすぐに承諾した。するとエリックが話しを始める。
「そういえば俺のスキルを説明してなかったな、見ての通り大剣を使う戦士職だよ。あと冒険者ランクはAだ。」
それを聞いてレズリタが驚嘆する。
「凄すぎるでしょ……!」
それに続いてリズも口を開き。
「めちゃくちゃ強いじゃないですか!」
私もエリックの実力はとても凄いと思う。
冒険者ランクAって響きからして最強な気がするし、そんな人と依頼を受けられるなんて嬉しかったりもする。
するとエリックが照れながら話し始める。
「そう言ってくれるのは嬉しいが、ちょっとその褒められ方は恥ずかしいな……」
嬉しそうにエリックは笑う。そんな雑談をしていると突然馬車が揺れて止まる。
馬車の職員が何か言っている。
「なんだあれは......」
職員につられるように外を眺めるとそこには王都が見える。
だが王都の門の近くに大量の魔物がいる。
「王都前に魔物!? どうして王都にこんな数の魔物がっ!」
職員がそう叫ぶ。私達も戸惑いを隠せない。けど考えてても埒が明かない。
すると職員が誰かと連絡し始めた。
「魔物が大量に王都付近に現れました、この量だと王都の中には入れないと思います……」
職員は対話鏡を通じて王都の者と会話をしているみたいだった。
そして数分後、職員は対話鏡をしまい私達に状況を説明してくれる。
「どうやら何者かが王都の結界を壊し、大量の魔物が入ってきたようです! 国王様が騎士団を集めすぐにでも討伐する予定ですが冒険者達も協力して倒して欲しいとのことです!」
するとそれを聞いたリズが口を開く。
「もちろん協力します! 私達も冒険者なので!」
するとレズリタも続く。
「騎士団だけじゃ大変な場合もあるだろうから私も協力するよ」
「俺も同感だ。なんたって俺の実力をしっかり見せつけたいからな」
エリックもそれに続く。正直私は乗り気ではない。
危険な行為だからだ、下手に近づけば死ぬ可能性だってあるのだ。
そんな私をエリックが背中をポンッと叩くと口を開く。
「何びびってんだよラゼル、俺達となら絶対勝てる!」
エリックがそう笑いかけてくれると私は自然に安心感に包まれていくのが分かった。
そんなエリックの言葉を聞いて私は安心してしまう。
本当に頼りになるなぁ……なんて思いつつ、こんなかっこよくて強い人と一緒なら大丈夫なんじゃないかと思ったりするのだ。
そんなこんなで馬車から降り私たちは作戦を考えるのであった。
まず王都の構図について説明するぞ。
「王都の門は東西南北に四箇所ある。そんで魔物が発生したのは東門らしい」
エリックが話始めるとリズが手を挙げる。
「なるほど~今私たちがいるのは東門のすぐ近くだし、魔物を後ろから奇襲……とかどう?」
その言葉にエリックが反応する。
「いい案なんだが、ただ後ろから奇襲しても数が多すぎて俺らがやられる可能性しかない。数を削ろうにもあまりにも多いしな、もっといい手は無いものか……」
するとレズリタが提案する。
「ねぇねぇ! 私達が二手に分かれて戦おうよ! ほら私とラゼルは魔法を使えるし。リズとエリックは剣を使えるでしょ?」
確かに二手に分かれた方がいいかもしれないと思い私も提案に乗る。
「じゃ二手に別れて私とラゼルが左翼、レズリタとエリックが右翼でいいかな?」
私達3人は問題無いのだがエリックは問題があるらしい。
「ちょっと待ってくれ!君たちだけで左翼は危険だ!」
エリックは心配してくれているみたいだった。
しかし悩んでいる暇はない。
「でも……しょうがないよな……」
私はエリックの気持ちを汲んで感謝する。
「ありがとうございます。心配してくれて」
私がそう言うとエリックは口を開く。
「俺は3人に命を救われた、だから俺も君たちに命を張るのは当然さ」
頼もしい言葉をもらい私もその言葉に応えるためにやる気が湧いてきた。
するとリズが口を開きみんなを鼓舞する。
「じゃあ二手に分かれて戦いましょう!」
私たちは頷きそれぞれの担当の場所に散っていったのだった。
まずは左翼に移動を開始した私とリズだが、少しずつ魔物が見え始める位置まで進んできている。
やはり数が多そうだ……。
と思っていると門付近には騎士団や冒険者が戦っており、魔物をどんどん殺している。
「私達も急ごう!」
リズがそう言うと私たちは走り出す。
魔物は私たちが後ろにいることを気づいていないらしい。
どんどん近づいていくと魔物が1体私たちに気づく。
それにつられるようにほか魔物も私たちの存在に気づき始める。
その時リズがスキルを発動する。
「〈バーチカルッッ!〉」
さすがリズだ。
先制攻撃を決めてくれるとは頼もしい。
魔物はオークの上位種だった、体は大きく2メートル程あり腕が太い。
そして目が血走っている。
そんなオークがリズに襲い掛かろうとしていた。
《ブリザードッッ!》
私は手を挙げてスキルを発動し、冷気がオークを襲う。
オークは冷気を浴び体を凍らせてしまって動かない。
そこにリズが追撃をかけるようにスキルを発動させる。
「バーチカルッッ!」
綺麗にオークは切り刻まれ絶命してしまう。
それを見たオーク達は一気に襲いかかってくる。
私は束になって襲ってくるオークに向けてスキルを発動する。
《ポイズンッッ!》
ポイズンを食らったオーク達の体は溶けていき見るも無惨な姿になってしまう。
そしてそこにリズのスキルが発動する。
「〈バーチカルッッ〉!」
リズの剣撃をオークは避けられるはずもなく次々と屠られていき、あちらこちらに肉片が飛び散る。
「す、すごすぎる……」
私はリズの戦いぶりを見てドン引きしてしまう。
そう思っているとリズが近づいてきて声をかけてくれた。
「ラゼルの援護のおかげで凄い楽に倒せるよ! ありがとうね!」
そんな事を言われたら嬉しくてたまらないがまだまだ魔物はいる。
この調子でいけたらいいのだけど。
そう思っていた時、なにやら不穏な気配が近づいている。
その気配につられてると、それは瞬間的に見えた。
「リズ! 危ないっ!」
私はいち早く感知をし危機を察知したためすぐにリズを突き飛ばす事が出来たが、状況が分からないため戸惑いを隠しきれない……。
なんと私とリズがさっきまで立っていた地面一帯がなにかによって消し去られていたのだ。
この攻撃は恐らく……。
「グォォォォ!!」
ダークパンサーと呼ばれるAランクモンスターが私たちを見下ろしていたのだった。
体長は5メートル程もあるダークパンサーの成体は顔までもが体毛で覆いつくされており、赤い眼光を放つその姿は迫力に満ち溢れていた。
リズも状況が分かったようで真剣な顔つきになる。
「とんでもない威圧感がある……これがAランク……」
ホワイトウルフとは違いダークパンサーが本気で動いたらもはや止めることはできなくなってしまうだろう。
ダークパンサーがこちらに近づいてくる……。
その速度は遅いもののやはり恐怖心を抱いてしまう。
リズもそうに変わりはないらしく顔が青ざめていた……。
「大丈夫、落ち着いて対処すれば絶対に勝てるよ」
そんなリズを安心させつつ私は魔法を唱える。
『ポイズンッッ!』
しかし魔法は不発に終わる……なぜ!?
すると私の魔力が底を尽きかけていた。
魔力の使用量が多すぎるためかもしれない。
そんな事を思っていると再びダークパンサーの攻撃が迫ってくる。
するとリズが剣を握りしめダークパンサーと正面衝突する。
「大丈夫! 私がいるから!!」
そう言ってリズが攻撃を受け止め、スキルを使って重い一撃を加える。
しかしダークパンサーも黙ってやられない。
素早く太い腕でガードをしてカウンターを仕掛けてくる。
その攻撃をもろに食らってしまい、リズが口から血を吹き出てしまう。
それを見た私はスキルを発動させる。
《ブリザードッッ!》
最後の魔力を振り絞り、私はブリザードを唱えた。
ダークパンサーの体は凍ってしまって動きが停止する。
そこにリズのスキルが発動する。
『バーチカルッッ!』
赤い斬撃がダークパンサーの体を切り刻み、ダメージを蓄積させ最後は核が壊れ体は灰となって消えていく。
本当にギリギリの勝利だった。
「ごめん、ちょっと私意識が……」
「リズ大丈夫!?」
私がそう言っているとリズは意識を失ってしまった。
どうやらダメージを負いすぎたようだ。
私の魔力も残ってないし一旦ここから引いた方がいいな……。
私はリズを担ぎ後ろに後退する。
まだ周囲にはオークがうじゃうじゃいたが先程、ダークパンサーを倒したため私達に警戒しているみたいだった。
そうして少しずつ歩を進めていると後ろから不穏な空気が流れてくる。
後ろには何かがいる……そう思い振り向くとそこには1人の少女が立っていた。
私よりも年下に見える身長は小さく150程度だろうか。
濃い赤髪の髪を肩まで伸ばしている。
そしてなにより印象深いのは赤い目である。
その赤い目がまるで獲物を捉えたかのような鋭い視線を放っているように見えてしまうため、私は恐怖を抱いてしまい動けなくなってしまう……。
しかし少女が発した一言で状況はかなり一変するのであった。
「あれれ? もしかして君たちがあの黒いパンサー倒したの? 強いんだね!!」
そう言って少女は無邪気に笑っている。
その無邪気な笑顔が私には怖く感じてしまっていた。
「あはははは! 私を警戒してるんでしょ!」
ますます意味が分からなくなり思考を巡らせていると更に追い打ちをかける。
「だって私は〈影〉の龍力を取り込んだから!」
そう言うと少女はクスクスと笑い出す。
その瞬間に心臓が飛び跳ね冷や汗が吹き出るのだった。
待て待て待て、明らかに頭がおかしい奴だ。
しかもこれほどの魔力、私達とは別次元なのは間違いない。
これは戦ったら絶対負ける……。
いや生きて帰れないかもしれない……逃げようとしても逃げられる気がしない。
そんな事を考えているとリズを担ぎながら動こうともしない私を見て少女が口を開いた。
「私を警戒してるの?」
そう言ってニヤリと微笑む。
私はここから逃げられないことを悟る。
恐らく逃げ出そうとしたところで射程圏内であるだろう。
勝ち目はない、ならば会話をして時間を稼ぐしか……。
そう思いながら私は言葉を絞り出す。
「す、すみません……仲間を助けたいんです……見逃してくれますか……?」
そう言うと少女は私を人差し指で差した。
「仲間ね~それよりもさ仲間だと言ってくれなくて悲しかったよ~?」
な、何が言いたいんだ……?
少女は相変わらずニコニコと笑みを浮かべて口を開いた。
「ねぇ……人間ごときが龍力を手に入れようだなんて分不相応だと思わない?」
ゾワっと体中を恐怖が駆け回る。
先程までは少女の純粋な笑顔が可愛らしくも思えていたが、今となってはその笑顔が全く違って見えてしまう。
身が凍るかと思った……、何故なら少女の目も今、笑っているからだ。
私は恐怖のあまり言葉が出ない。
すると少女が口を開く。
「だから私は龍を殺してみたの、そしてそいつの力を奪った」
なんで少女はこんな話をしながら笑顔なのかが理解できないし理解したくない。
すると少女は口を開き私が恐れている事を口にした。
「だってあなたの能力......私達と同じで龍力を持ってるじゃない!」
どういう事なのか全く私の中で理解が追いつかない……。
私の能力は《コピー》じゃなかったのか?
そしてこの少女はさっき私達の龍力って言ってたけど、どういう意味なの?
他にもこいつの仲間がいるの……?
私がそう頭の中でぐるぐる考えていると、少女は口を開いた。
「仲間じゃないならさ~手加減してあげる必要はないね! あははは!!」
そう言うと少女は高笑いをしながら私の方へ向かってくる。
そして少女の腕が影と化しその影が私とリズを包んだ。
私は影に包まれる瞬間に片手を挙げスキルを発動する。
《コピーッッ!》
――――――――――――――――――――――
《影》がコピーされました。
あなたが使用できるスキル一覧
・《コピー》
・《ポイズン》
・《ブリザード》
・《影》NEW!
――――――――――――――――――――――
そう言った瞬間私の片手から禍々しい魔力のオーラが発射される。
そして少女の影と衝突し、激しい音と共に魔力が拡散してしまう。
「あはは! そんなんじゃ私に傷はつけられないよ?」
少女は黒い煙に包まれながらも無傷な様子であった。
これはきつすぎる。
そう思った時、少女の後ろから声が発される。
「そこまでだ」
声を発した先には男の剣士が立っており、黄色い前髪が揺れた気がする。
すると少女が口を開く。
「ちぇ~もう着いちゃったか~」
少女はそう言うと黒い煙が晴れた。
私は少し驚き少女の顔を見ると少女はニコッと笑いかけている。
そこで男の剣士が口を開く。
「君は何者だ」
その言葉を聞いても笑顔の止まらない少女だったが、私の顔を見て一言呟く。
「じゃあ、またね」
そう言って少女は影の中へと消えていった。
男剣士は私の方へ近づいてくる。
「君達大丈夫か?」
その問いかけに私は緊張の糸が途切れ少し声を発してしまう。
「はい……」
男剣士はその言葉を聞き安心してくれたみたいだった。
「私は王国騎士団長、リスタだ」
「私は……冒険者ラゼルです」
私が名乗り終えると男は納得したようで更に口を開く。
「君の仲間はある程度治癒魔法をかけておいたから安静にしていれば治るはずだ。」
私は驚いてリズを見ると体の傷が回復し始めている。
近くには黄色のような精霊が飛んでいるのが見える。
精霊騎士かな……と思っているとリスタは口を再び開いた。
「ラゼル、先ほどの少女についてなにか知っているか?」
「すみません、あの少女については何も知らないです……。ただ〈影〉の龍力を取り込んだとか言っていました」
「〈影〉の龍力か……情報感謝する」
そう言うとリスタは剣を握りしめ驚異的な速さで走りだし魔物を次々と殲滅し始めたのだった。
さすが王国一の王国騎士団である……先ほどまでいた魔物が一瞬で死体と化している。
そう傍観していると2人の冒険者が私の近くに寄ってくる。
「ラゼル、リズ大丈夫!?」
私のもとに駆け寄ってきたのはレズリタとエリックの2人だ。
「エリックにレズリタ!?」
私が声をあげるとレズリタは事情を聞いてきたので私はこれまでの経緯を説明した。
するとレズリタたちは驚きの顔をしたまま、口を開く。
「信じられないけど……あのオークの数にダークパンサー……」
そして続けてエリックも口を開いた。
「す、すげえよ2人とも」
そう言うと私の担っているリズを見る。
「傷を治癒してくれてるみたいだけど……顔色も良くなってるみたいだし大丈夫そうだね」
レズリタは安心している様子だったので、私はふと疑問に思ったことを聞いてみる。
「そういえばレズリタとエリックは右翼でどんな感じだったの?」
私がそう言うと2人は恥ずかしげに答えてくれた。
「私達もオークとかは倒してたんだけど右翼は予想以上に魔物が多くてね……私の魔力が底を尽きた時には囲まれちゃって......」
そうするとレズリタはエリックの手を見つめる。
視線の先には擦り傷だらけの手があり、それを見たレズリタは申し訳なさそうな顔をして口を開いた。
「エリックごめん、私の魔力が尽きちゃったから......」
そう言われてエリックは頭を書きながら答える。
「魔力に限界があるのは仕方ないことだからさ! 大丈夫!」
温かい言葉をかけるエリックにレズリタは照れつつ顔を伏せたのだった。
するとリズが目を開けたので私は声をかける。
「リズ、大丈夫?」
その言葉にリズはハッと目を見開きキョロキョロと辺りを見回す。
リズはラゼルの背中の上なのに気付き顔を真っ赤にしながら私から離れた。
そして口を震わせながら、もごもごと小さな声で話し始める。
「ありがとう……ラゼル」
「いいの、気にしないで」
私は微笑みながらそう返答をする。
そんな会話をしていると後ろから聞きなれた男の声が聞こえてくる。
振り向くとリスタがいたのだった。
そして言葉を発する。
「とりあえず無事だったようだな」
その言葉を聞きエリック達は驚きを声で表した。
「り、リスタ騎士団長!?」
それには流石に私も驚きエリック達と同じような反応になってしまう。
そこでリスタは私に向けて口を開く。
「君達に伝えたい事があってここへ来たんだ。今回の魔物達の群れなんだが、人為的に起こされた可能性が高くてな......」
その言葉を聞き私を除いた3人は驚きの顔を示す。
「人為的ってそんなこと出来るの……?」
レズリタがそう呟くとリスタは続けて口を開く。
「平たく言えば龍の力をものにした人間の仕業という事だ」
その言葉を聞き3人は顔をさらにこわばらせた。
私はあの少女と散々会話していたため、3人よりも動揺は少なかった。
するとレズリタが疑問の声をあげる。
「人間は龍力を取り込めないはずじゃ?」
リスタは顎に手を当てると、『いや』と呟きながら言葉を発する。
「私も龍力について詳しいことは分からないが、風の噂だと龍力を取り込むことで体が適応できず精神が崩壊する可能性があると言われている。」
その話にリズが不安そうな顔をする。
それを見たリスタが続ける。
「そして今回、私とラゼルが見た少女も恐らく適応しなかった人間の部類だと思われる。魔物を統率したのはきっとその少女だ」
私もやはりそうなのだと確証を得られた。リズは不安げな表情を浮かべながらリスタに向けて口を開く。