うだるような暑さの中、降るようなセミの鳴き声が響いている。

今日は八月の夏祭り当日。新調した浴衣に合う髪型を考えていたら彼との待ち合わせは五分前になっていた。慌てて彼のLINEに【ごめん、ちょっと遅れる!!】と送ると【全然大丈夫だよ】と返信が来た。ダッシュで待ち合わせ場所に走る。慣れない草履で何度も転びかけた。
約束の場所に彼が見える。


「ごめーん、遅くなったー!!」


手を振りながら彼に近づくと「全然大丈夫だよ」とLINEと同じ反応が返ってきた。ゼエゼエと呼吸する私に「これ飲みなよ」とサイダーを差し出してくれた。「ありがとー!!」とお礼を言って水分を摂取する。冷たいしゅわしゅわとしたサイダーがすぅーっと口の中に広がった。体の温度が数度下がった気がした。


「んー冷たい!!ありがと」

「どういたしまして」


「それじゃ、行こっか」と彼が私の手を握る。手慣れた動きにドキッと心臓が跳ねた気がした。


「じゃあ、どうする?金魚すくい?かき氷?」


このドキドキが伝わらないよう誤魔化しながら言う。


「俺は、別に何でもいいよ」

「何でもって……一番困るんだよ?」

「あっそっか、ごめん」


肩を落として彼が謝るので「いや、全然大丈夫!!」とフォローする。


「花火も楽しみだね」


彼は気分を変えるように言った。


「そうだね!特にスターマイン!綺麗で有名だもんね」


この街の花火大会のスターマインは綺麗という事で世界的に有名なのだ。
更に恋人と見るとなるとドキドキが止まらない。

現地はすでに浴衣や甚平を着た人々で賑わっていた。
提灯のオレンジっぽい色がキラキラ光って綺麗だ。
じゃりじゃりと足音を聴きながら進む。


「凄い賑わっているね」


彼が手を握る手を強くしたのが分かった。


「はぐれたら大変でしょ?」


彼の笑顔にぽっと心の奥で火が付いたような気がした。反射的に顔に片手を当てる。ほんのりと感じる熱さに心臓が暴れだした気がした。


「そ、そうだね。はぐれないようにしなきゃね。」


出来るだけ顔を隠しながら彼の手を強く握り返す。

屋台を回りながら、かき氷を食べたり金魚すくいをしたりした。


「夏樹、最後にりんご飴食べたい」
 

夏樹の手をひいて、りんご飴の屋台へ向かった。
小さい頃以来に食べたりんご飴はとてもおいしくて顔を汚さないように注意していたけれど、夏樹に「顔についてるよ」と言われまた赤面する。


「わざとだもん!」


照れながら言う私をよそに、「1口ちょうだい」と夏樹が私のりんご飴を1口食べた。

りんご飴を食べながら、花火が一番綺麗に見える所まで移動した。
人気の花火なだけあってすごい人混みだ。

押し潰されそうになる私の肩をギュッと寄せて、
「そろそろ時間だね」と腕時計を確認しながら彼が言う。正直今日はドキドキしすぎて彼の顔をまともに見れていなかった。それでも笑顔で話しかけてくれる彼の優しさにじんとくる。

足元を見つめながら考えていたら夏樹が私の肩を優しく叩いた。


「もうすぐ始まるよ」


彼の声とほぼ同時に光が空に昇った。
ぱっと一輪の華が咲く。数秒後にドンという大きい音が聞こえてきた。

次々に上がる花火は、まるで夜空に咲いた華のように幻想的で美しい。


反射的に横を向くと、夏樹と目があってしまった。

私と違って初デートに余裕な感じだった夏樹が顔を真っ赤にして目を反らす姿がおかしくて、可愛くて笑いがこぼれた。
初めはびっくりしていた夏樹も、同じく笑い始めた。
また大きな音に反応して花火をもう一度眺める。

すると彼は私の手を取った。ゆっくり私と彼の指が絡まり合う。
びっくりして見上げると、彼は照れながら「いいでしょ?」と笑った。

今日は夏樹にリードされてばかりだったから、今度は私の番。


「夏樹!!」


振り向いた彼に背伸びをして唇を重ねる。
初めてのキスは甘いりんご飴の味がした。


背景では、スターマインが夜空いっぱいに広がっていた。