紆余曲折あったが、ようやく俺の思考をミライが読み取れるのかどうかの実験をはじめることになった。

「じゃあ、目をつむりますので誠道さんはなにか適当に考えてください」

「わかった」

「美少女が目の前で無防備だからって、襲い掛からないでくださいね」

「するか!」

 言われたことによって意識しちゃうだろうが。

「では、目を閉じますね」

 ミライがゆっくりと目を閉じる。

 ああ、なんだろう。

 このじりじりとした息苦しさを伴う緊張感は。

 だって、この実験の結果によって、今後の俺の命運が決まる。

 もし、不幸にも俺の思考がミライに伝わる、つまり実験が成功してしまえば、これから先、寝る前の日課である自家発電ができなくなる。

 いつミライに思考を読み取られているのかわからないから。

 健全な男子高校生にとってそれは拷問に等しい。

 ……いや待てよ? むしろ俺が開き直ればあるいは。

 そうだ! 逆転の発想だ!

 非常に大事な時間がかかっているからか、俺の頭は今、エジソンが発明を考えているとき以上に働いている。

 今ならスーパーコンピューターの処理速度にも勝てるはずだ。

 だったらいっそうのこと……そうだよ。

 ミライでおもいっきり変態的なことを想像して、辱めを受けさせればいいんだ。

 そうすれば向こうから俺の思考を読み取ろうとすることはなくなるはず。

 だって妄想の中で自分があられもないことをされているんだよ。

 自らそのあられもない思考を読み取って、屈辱的な思いを感じる必要はない。

 よし、そうと決まれば、とびっきりエロい妄想をしてやるぜ!

「じゃあ、今から俺がなにを考えているか、わかったら教えてくれ」

「わかりました」

 絶対に負けられない戦いがここにはある。

 俺は小さく息を吐いて精神を整え、オリンピックの決勝戦に臨むアスリートのように集中した。

 さあ、試合開始だ。

 その瞬間から、俺はミライにそれはもうすごいことをしている様子を想像した。

 どうだっ! ミライはさぞ恥ずかしい思いをしているだろう。

「……えっ、あっ、そんな、ことをっ、でも、誠道さん、まさかっ」

 目の前にいるミライから、戸惑いと羞恥の声が聞こえてくる。

 よしよし、作戦は順調に進んでいるぞ。

 でも、まだだ。

 こういうときはもっと徹底的に辱めなければいけない。

 尻上がりの妄想力をもっともっとみせつけてやれ。

 妄想力で完全試合達成だぁ。

「いやっ、そんなことまで、そんな、誠道さんっ」

 でも、冷静に考えるとなんか恥ずかしいよな。

 だって悶えているミライが目の前にいるんだよ?

 ……いいやだめだだめだ。

 なにを弱気になっている?

 ここでこの恥ずかしさから逃げれば、俺は自分の命の次に大事な至福のひとときを失ってしまうんだぞ。

 逃げちゃだめだ。

 男には絶対に逃げてはいけない場面があるんだぁ!

「ああっ、もうやめてっ。そんな、鞭でたたいてほしい? 誠道さんが望むならっ。私が女王様になってもいいですよ」

 よしよし、もっともっと羞恥に悶えろ……って、ん?

 鞭でたたいてほしい?

 俺、そんなこと考えてないぞ?

「そこに跪きなさい。ユニコーンの角よりも小さな誠道さんので、私をどうにかできると思っているのですか」

「お前本当は俺の心の声聞こえてないだろ!」

 だって俺は鞭なんて想像していない。

 ってことは、ミライは俺の作戦を見越した上で、あたかも心の声が聞こえているかのように振る舞っていたということだ。

「それと最後の最後に俺をバカにしたなぁ!」

 俺のはそんなに小さくない。

 人並みだと思うぞきっと!
 
 そう信じてるぞきっと!

「いきなりなんですか。ちょっと落ち着いてください」

 目を開けたミライになだめられ、とりあえず深呼吸をして心を落ち着かせる。

 ああ、目の前にはさっきまで妄想の中で好き勝手にしていたミライが……って心を落ち着かせろ!

「誠道さん。どうして私が嘘をついていると、そう思うのですか」

「だってミライとそこまでの変態的なプレイは想像していない…………あ」

 俺は慌てて口を手で覆ったが、もう遅かった。

「へぇ、つまり誠道さんは、私とのあれやこれやを想像はしていた、と」

 どこか嬉しそうに罵ってくるミライ。

 ああ、これはもう完全に弱みを握られた。

 そもそもこいつがエロ妄想されているくらいで恥ずかしがるわけないじゃん。

 今までのこいつの言動を鑑みれば、それくらい容易に推測できただろ。

「私が読み取るとわかったうえで、私でえっちな妄想をしていたなんて。誠道さん、あなたって人は……」

 ミライが自分の腕で体を抱き、蔑みの目を向けてくる。

 俺からの発信はできない。

 つまり実験は失敗したのだから、俺の至福のひとときは守られたはずなのに……どうしてこうなった。

「でも、なんで俺の作戦に気づいたんだよ」

「面白いかなぁと思ってやってみたのですが、まさか本当に私でえっちな妄想していたとは思いませんでした」

 策士策に溺れたというより、ひとりで勝手に踊っていただけでした。

 俺は、にんまりと笑うミライを見ながら絶望する。

 今後、ミライが今日のことをいじってこないわけがないよね。

 ああ、これから俺、常に恥ずかしさと隣り合わせの生活をしないといけないのかぁ。

 もしかしたら、俺がペットとして首輪をつけている日も近いワンッ。