先生へ
こんにちは。元気ですか?
私は元気です。
そろそろ卒業の時期になりますね。
この時期になると先生との思い出が毎日のように溢れてきます。
いつかあなたに会いたい。
それだけは毎日忘れずに思い、願っていることです。
先生は私の前から消えて、どこかに行ってしまいました。
夜な夜な悲しみに暮れて。気づいたら朝になっていて。
目からはどこから出てくるのか不思議に思うくらい涙が滝のように流れ出てきます。
先生の名前のように、です。
いつか、私は昔一緒にいたみんなと久しぶりに会ってみたいです。
感動の再開というやつでしょうか?
会いたくて会いたくてしかたありません。
タイムカプセルを掘り出して、あの他愛のない日々の思い出を語り合う会とかです。
楽しみで楽しみでしょうがない。
本当は先生とも一緒に思い出を語って当時のことを思い出したかったです。
あの日言おうとしたけど言えなかった言葉を今伝えます。
先生。大好きです。この世で一番大好きで大事な人です。
友達よりも、家族よりも、私自身よりも、何なら自分の命よりも。
だから、私はあなたを助けられなかったあの時をとても悔やんでいます。
悔やんだって結果は変わらない。先生だったらきっとそういうでしょう。
そういうところも大好きです。
そんな先生が大好きな私は、先生よりも大好きになった人なんてまだできていません。
いいえ、絶対にできません。それを今、約束します。
絶対先生に会いに行くんだから!(笑)
先生のことを一番に愛しているノアより
私は先生への手紙を三つ折りにしてから懐に入れ、パックなどを持ち、家を出た。
卒業シーズンの今は、地面が愛の結晶のような、恋のかけらのようなものが集まって淡いピンク色に染まっている。だけど私はそんなモノたちをどこかにおいてきてしまったよう
だ。
足元から顔を上げると、すれ違う学生はみんな、涙ぐんでいた。
もう少しみんなといたかった。
とか。
あの人ともっと思い出を作りたかった。
などという声が聞こえてきた。私も頷きながら、そうだよね。わかると心の中で同意す
る。
今から集まるメンパーとの卒業式の日は、私たちの心を表すかのように、土砂降りの雨が降っていた。先生やみんなと離れ離れになってしまうのが嫌だったからだ。
でも今日、こうして十年ぶりに会えることが運命だと思えてくる。
二度と会わなくなるだろう。
卒業の日にすべてさようならになるのだろう。
そして、私の心の中に永遠にしまわれているのだろう。
そんなことを考えていたので、この先の新たなストーリーが書けるなんて思ってもいなかった。
一歩踏み出すたびに桜の花びらがふわっと浮く。その姿と、自分の足が奏でる音を感じると、私の足取りは次第に軽くなってきた。
みんなと離れ離れになった思い出の場所は家の最寄り駅から三駅ほどのところにある。
まだ待ち合わせの時間まで余裕がある。ということで、公園で少し時間を潰そうと考えていたら、スマホが振動した。誰だろうと思い、画面を見てみるとキホからの電話だった。
もしもし。キホ?」
「もしもし。やっと出た〜!スノー、出たよ!」「え?スノとラムネもそっちにいるの?」
すると電話越しにスノとラムネの声が被って返事をしてきた。
「もちろん。ねえ、今からキホの家に来れる?昨日キホに言われて、車借りてきたからみんなで一緒に行こうってことになったの」「なるほどね。全員に連絡は取れたの?」
「あと連絡取れてないのは、イツキだけなんだよね。だから、連絡お願いできる?」「いいよ。じゃあ、イツキに連絡取りながらキホの家に向かうね」「ありがとう!気をつけてきてね」「はーい。またね」
『またね」
キホから電話を切った。私はそれからメッセージアプリを開いて、そこからイツキに電話をかける。すると彼は、かけた瞬間に電話に出た。
「もしもし?』
「もしもし。電話出るの早くない?」「それほどでもないけど、なにか用事?』
「あーそうそう。本題忘れてた。今日の集まりなんだけど......」私はブランコに座りながら、先程までしていたキホとの会話をつまんで説明した。
「なるほど。了解。そっちは今どこにいるの?一緒にキホの家行こうよ」「いいね!私はキホの家の方面にある、木モク公園にいるよ」「分かった!じゃあ今からそっちに向かうから。またね』「うん。またね」
私の方から電話を切って、キホたちにもう少し時間がかかるかもしれないと連絡を入れておく。
ポケットからワイヤレスイヤホンを出し、音楽を聞きながら、プランコを漕ぐこと、およ
そ十分。
「お待たせ~。じゃあ、行こうか」そうだねと私はプランコから降りた。
キホの家までイツキと二人で、今までのことを互いに話していた。
学校のこと。
恋愛関係のこと。仕事のこと。
趣味のこと。など。
他愛のない話をして、私たちの高校生活の日常をまたここに描き出す。
「えー、イツキって部屋とかまだ全然整理できないの?昔から変わんないなー」「そっちだって、使いっぱなしのもの机の上とかに放置して、部屋中ものだらけのくせに」
「互いに人のこと言えないな」
「そうだね~。.....あ、キホの家ついたよ!うわあ、懐かしい」「そうだな。ここに来るのも十年ぶりくらいか」
うんうんと大きく頷く。懐かしい友だちの家を二人で眺めていると、ドアが思いっきり開いた。
「いらっしゃいませ!十年ぶりの我が家へ!」
笑顔でお出迎えしてくれたのは、キホだった。高校生の時のノリとは全く別物になっていたけど。その後ろからひょこっと顔を出したかわいい双子ちゃんが、やっぽーと声をかけてきた。
「スノ!ラムネ!おひさ!」
「三人とも元気そうで何より」
イッキがガールズトークに入れなかったのが寂しかったのか、一言私のあとに続けて言う。
「そちらのお二方もお元気そうで何よりですわ」
「仲が良くて何よりなのでは?」
嫌味っぽく言ってきたキホに対して突っかかってきたのは、私たちの後ろにいつの間にか来ていたエレナだった。
「エレナも十年ぶり!元気だった?」「もちろん!」
感動の再開というものはこういうことか。すごく嬉しくて、楽しいものだと改めて思う。
だが、エレナは私とイッキに対して、とてつもない爆弾発言をした。
「アンタたちも飽きないね。二人で仲良く来ちゃって。付き合っちゃえばいいのに」「「はあ!?絶対に付き合わないから!」」
「うわあ、タイミングビッタリ。これで付き合わないとかもったいなさすぎるよ」って言われてもね、とイツキの方をみると、顔をりんごのように真っ赤に染まっていた。
いや、照れるなよ。こっちまでつられて赤くなってしまうじゃないか。
「はいはい。いつものいじりはそこまでにして、目的地に行こうか」
ナイス。キホ。いつもの仕事をしてくれてありがとう、と心のなかで伝える。
それからみんなでキホの車に乗り込んだ。
前から順に、運転席にキホ。助手席にエレナ。その後ろにスノとラムネ。更にその後ろには私とイッキという席順で座ることになった。
最初はさっきまでイッキと話していたような、みんなと離れ離れになって会っていなかった十年間の話をみんなでする。
「いや、聞いてよ。会社の同期の人がさ......」とエレナ。
「そんなのわたしに言っても何も変わらないと思うんだけど」とキホ。
憲とか話しか話さないエレナと、どストレートに毒を吐くキホはなかなか相性が悪い。高校の時からあまり変わらないな。
一方、私たちの一列前に座っているスノとラムネは、二人ともスマホと睨み合いをしていた。
「スノはこっちだと思う」とスノ。
「えー、ラムネは逆だと思う」とラムネ。
どうやら二人はO✕クイズをしているようだ。相変わらず仲良しな双子の上、かわいい。
そんなかわいくて癒やされる双子ちゃんを見ていたら、隣りにいるイッキに肩をぽんぽんとされる。
「癒やされるのはいいけど、前のめりにならないで、ちゃんと背もたれに背中をくっつけ
な」
そうだねと返事をし、彼の言うことを聞く。それを見ていたエレナがまた私たちのことをいじり始めた。
「イッキは残がうまいねえ」
「躾とか言うな」
私がツッコミ返すと、キホが鏡越しに顔全体を使って訴えてきた。
「エレナのいじりに乗るな」と。
じゃあ止めてくれよと目線で訴えかけたら、しょうがないなと溜息をつき、キホがエレナの大好きな高校時代の同級生の噂話を語り始めた。すると、エレナはキホがどこからか聞いた噂話のほうに耳を傾けていったので、キホに心のなかでまたもや感謝をする。
私は背もたれに思いっきり寄りかかり、イツキに今思ったことをストレートに伝える。
「やっぱり、みんな高校時代から性格から何やら変わってないね」「それ、うちも思った」とエレナ。
「そうかもしれないね」とキホ。
「ラムネもそう思う」とラムネ。
「スンもスノも」とスノ。
思ったことを伝えた相手が何も言っていないとみんな、イツキに自然と視線が集まる。
俺も変わってないと思う。時が流れても、みんな中身は一緒ってことだよな」とイツキ。
「そうだよね!......って、中身が変わってないってことはまだ私たちって高校生くらいの精神年齢ってこと!?」
「精神年齢が大人じゃなくて高校生ぐらいだと、幼く見えるというよりかはかわいいと思ってるんじゃない?」
「それはそれでらしいかも」
自分の精神年齢が若く思われていることの嬉しさと、イツキに初めてかわいいと言われたことに少し照れてしまった。その状態で、イツキに向かってありがとうと笑顔とともに言うと、彼はそっぽを向いてしまった。気ますい。誰も話さないなか、車と時間だけは進んでいく。エレナはニヤついていて、キホは呆れ顔、スノとラムネは何が起きているのかさっぱり分からないという表情をしていた。私は無音になると寝てしまうタイプなので、気まずくなってから五分後には眠りについていた。
あれから何分間眠っていたのかはわからない。でも、気づいたら目的地のすぐそこまで来ていた。
「おはよう。じゃなくて、時間的におそよう」
「おそよう」
目をこすりながら開けると、ちょうど真上にインキの寝ぼけ顔があった。それにびっくりした私は、言葉にできないような悲鳴を上げる。
「どわぁ!そんなに驚かなくても。ちょっと傷ついた」
「ごめん。でも、寝起きでこれはびっくりするわ」
一回互いに黙っていたが、面白くなってきて二人で同時に吹き出し、控えめに笑っていると、スノとノアが後ろにからだを向けた。
「二人ともイチャイチャ」とスノ。
「仲いいね」とラムネ。
そんな言葉、どこで覚えたんだか。あ、スノたちの前に座っている人たちからとかか。前に座っている二人組を見ると、悪巧みのときにするような顔をしていた。
「別にそんなんじゃないから!」
「もー、照れちゃってかわいいなぁ。お隣に座っているイツキも」「はあ!?べ、別に照れてなんかないし!」
「分かりやすすぎだって」
ニャニヤしながら言うエレナと、顔を真っ赤にして対応しているイツキを見ていると面白おかしくなって、笑ってしまった。
「あー、もうついたよ。いい加減そこまでにして、行くよ」私とスノ、ラムネは快く返事をしたが、エレナとイツキはまだ言い争いをしていたので、私たちは放って置くことにした。
入口のほうに歩いていくと「琴咲高等学校」という文字が見えてきた。ちなみに今日は春休み期間なので、先生も生徒もほとんどいない。
「久しぶりに来たねー」
「ホントだな」
先程まで言い争いをしていた二人が合流し、後ろからイッキが同意する。
「ねえねえ、早く部室に行こうよ!」
エレナがキホの手を引いて、先に行ってしまった。私たちはその後ろを追いかける。
私たちが所属する部活の部室は校舎の端にあって、普段誰もいかないような奥まったところにある。軽音部と書かれたプレートがかかっている部室の扉を開けると、今までの部室のままだった。
懐かしい。何も変わってない。
「イッキ。行こうか」
「そうだね」
イッキに手を引かれ、一回軽音部の部室から二人だけで抜け出す。そして、私たちしか知らない部室よりさらに奥にある小さな小屋に来ていた。そこには、私たちの部活にいた一人の部員と顧問の先生の二人が使っていたものがそのまま置いてあった。
「十年ぶりだね。タキの兄貴」
イツキがそう言い、撫でたのは、軽音部の顧問の先生であり、イッキのお兄ちゃんのような存在のタキ先生の私物だ。
小屋の中を歩いていると、私と高校時代、寮で同じ部屋で一緒に暮らしていた親友が愛用していた楽譜ノートが出てきた。
「ノア。来るのに十年もかかっちゃって、ごめん。ア、ノア…・・・・」親友の名前を連呼する。すると、だんだんと視界がぼやけてきた。
「あれ………?なんで。なんで、泣かないって決めたのに.......」
涙がとめどなく溢れてくる。いつの間にか後ろにいたイツキが静かに頭を撫でて、私の名
前を呼んだ。
「ルカ」
***
小屋に来てからどのくらいの時間が経過したのだろうか。泣きすぎた上に、あの時のいろいろなことを思い出してしまったため、フリーズして意識までもが飛びそうになっていた。
「イッキ?大丈夫?」
ルカのその声で意識はかろうじて戻ってきた。
「ああ、大丈夫そうだ。じゃあ、みんなのいる部室に戻るか」一瞬だけ間があった、ような気がしたが、ルカはそうだねと言い、先に行ってしまった。
俺は一人で元々通っていた高校の時の学校と、今の学校を比べながらどこが違うのかを探しながら帰った。
帰り道の途中で校舎内にある水道に、先に行ったはずのルカがいた。
「何してるの?」
「さっきまでギャン泣きしてたから、目を冷やそうと思って」「なるほどね。俺の目ってもしかして腫れぼったくなってる?」
「なってる。目冷やしたほうがいいかも」ルカがパックから冷感タオルを取り出して、使うかを聞いてきた。
徐々に顔が熱くなっていくのを感じながら、ありがとうと聞こえるか微妙な声の大きさで言う。
貸してもらった冷感タオルを水で濡らして、目元に当てていると、ルカが使っているものを俺自身が使っているのだと実感し、恥ずかしくてルカを直視できない。
冷やし続けていると、いつの間にかタオルが冷たくなくなってきてしまったので日元から
離す。
「お、目元もとに戻ってきたじゃん。そろそろ部室に戻る?何も言わないで出てきちゃったし」
「それもそうか。でも、まだくあれ>交換してないから、それやってから帰ろうか」
「ノアとタキ先生からのお願いだもんね」
うんと返事をしながら、借りた冷感タオルをもう一度水で濡らして絞る。濡れた手を拭いてからルカに冷感タオルを返す。
「貸してくれてありがとう」
「いえいえ。さすがにあの顔で部室に返すわけにはいかなかったからね」うっと言葉に詰まったが、話をそらす。
「ほら、早く(あれ)交換して帰ろうよ」互いに預かってきた(あれ)を交換する。
「忘れずに渡してよね。イツキは忘れぐせが昔からひどいから」またもや、うっと言葉に詰まる。ルカの言葉はやっぱり心に痛いほど刺さる。しかも、
狙って矢で刺してくる感じだから、余計に刺さる。
「言い過ぎちゃってごめんね」
「いいよ。だいぶ心に刺さったけど」「本当にごめん。…・・じゃあ、部室に戻ろうか」
そうだなと、一緒に部室に戻ることにした。帰る間は、いつも通りどうでもよくて、しょうもない会話をしていた。
部室に戻ると、エレナガルカに抱きついた。
「急にいなくならないでよ!びっくりしたじゃん!.....あ、もしかしてイツキと二人で?」
「そういうのじゃなくて、この学校でやり残したことがあったから、それをしてきただけだ
よ」
「本当に~?イッキも?」
ルカは冷静だなと思いつつも、こっちに話を投げてくるなと心のなかで突っ込む。
「俺も、やり残したことがあったからな。それが達成できたからよかったよ」
エレナは疑っているようだったが、キホがそこまでにしろと軽めのチョップを食らわす。
じゃあ、やりますか。みんな準備して」
元副部長であるキホの指示にみんな、はいと返事をする。俺は軽音部にあるのは珍しいと思われるアコースティックギターをギターケースから取り出して、調節をする。各楽器の節が終わり、それぞれの位置につく。
ルカはボーカル。
エレナはエレキギター。
スノはベース。
ラムネはドラム。
キホはキーボード。
「いくよ」
ラムネがドラムのスティック同士を叩いて音楽を奏で始めた。
個々が作り出した、俺たちしか奏でられない音を奏でて、ノアとタキ先生に届ける。あの時、ここで過ごした日々を俺たちは忘れてなんかいないんだという思いも込めて。
軽音部で作った計十曲あまりを歌い、奏で続けた。終わった頃には夕暮れ時になっていた。
俺たちはキホの車に行きと同じように座って、行きと同じような他愛のない会話をしていた。その後、キホの家で打ち上げっぽいことをやって、この日は解散となった。俺は、自分の家に帰る途中にあるため、ルカを家まで送ることにした。ここもここで、しょうもない会話を繰り返す。
もうそろそろ家に着きそうだというタイミングで俺はルカにあることを聞く。
「ねえ、ノアと兄貴がお気に入りでよく行っていた河川敷って覚えてる?」
「もちろん覚えてるよ。なんせ親友の思い出の場所だからね」
「じゃあさ、明日そこ行かない? 予定が合えばでいいけど」
「行きたい! 行きたい! 絶対に行く!」
ルカが賛成してくれたので、明日はあの思い出の河川敷に行くことになった。
翌日。俺は時間通りにそこに行った。でもまだルカは来ていない。仕方ないと思い、東屋で待つことにした。すると、二人がよく座っていたという場所がよく見えた。
「ノアたちはあそこら辺にいつもいたよね」
後ろから急に声をかけてきたから、とてつもなくびっくりしてしまった。
「ちょっと遅れてごめん」
俺はいいよと返す。だって俺もさっき来たばっかりなんだから。
「ノア」
「タキ」
二人の声が被った。でも、それのおかげか、二人がよくいたというところにはノアとタキが仲良く照れながら会話をしているのが見えた。
「ねえ、ノアたちは結局付き合わなかったんだよね?」
「うん。タキからはそう聞いてる。両片思いだったんだっけ」
「そうそう。だから私、考えたの。ノアたちみたいに想いを伝えないまま離れ離れになるのは嫌だって。だから、私はそうならないように想いを伝えてから別のところに行ったりしようって」
ん? 話の展開についていけてない。どういうことだ? とりあえず、話を最後まで聞いてから考えよう。
「イツキ」
「なに?」
「大好きです。私と付き合ってください!」
「え」
あまりにも予想外すぎて、俺の顔が今、りんご以上に赤く染まってる感覚がする。
「だめ?」
涙目で訴えてきたノアを見て、それは反則だろと思ってしまった。
「だめじゃないに決まってるじゃん。俺もノアのこと大好きだよ。先に言わせてごめん。本当は俺から言いたかった」
「イツキ……」
「俺はノアとタキのようにルカを失わないように頑張るから」
「ありがとう。イツキ」
俺らは、付き合うことになった。でも、元軽音部のメンバーに言うことはないだろう。みんなはそれぞれの道を歩き始めたのだから。
それから、ノアとタキがよくいた場所に行き、他愛のない話を日が暮れるまで永遠にしていた。
帰りは昨日と同じように、ルカを家に送ってから帰った。一人で歩いているときに、どこかにいるであろうノアとタキに向けて言った。
「来世でも二人が巡り会えて、後悔のないように生きていってください」

***

わたしは花奏中学校に新たに入る新一年生だ。
校門をくぐり、中に入ると私の顔を見たある男の子が誰か知らない人の名前を言った。
「ノアだ」と。