孤島にはいつもはあたたかい空気が流れていますが、少しの期間だけ冷たい空気が流れ込んでくる寒くなる季節がありました。
悲しいできごとが起きたのは、そんな寒い日のことです。
小夜はいつものように朝早くから丸い形をしたザルの上に牧草とにんじんをのせてうさぎたちが過ごす小屋の中に入っていきました。
しかし、赤ちゃんが誕生して五羽になったばかりのうさぎのうち、二羽のうさぎは冷たくなって身動きせず死んでいました。
新しい命が生まれ、喜んでさらにやる気がみなぎっていた小夜はかなしい気持ちになって、佳代に泣きついてしまいました。
「ねぇ……変なの、うさぎさんが動かなくなってしまったの。
助けておねがい、佳代……」
「うさぎはお空に行ってしまったのよ」
小夜にそう教える佳代でしたが、小夜はお世話をしてきた二羽のうさぎとのお別れを受け入れることができませんでした。
「やだよそんなの……いつも一緒に遊んで喜んでくれたのに……。
新しい仲間が増えて、喜んでくれたのに……」
小夜はうさぎたちへの想いがあふれ、涙が止まらなくなりました。
「ここでの仕事は遊びじゃないのよ……。
こんな別れ、いつ起きるか分からないのよ。
小夜、悲しんでばかりではいられないでしょ?
泣いてばかりじゃ、上手にお別れできないでしょう?」
最初はまともに仕事ができなかった不器用な小夜をずっと見てきた佳代は心が揺らぎました。
大変な日々が続いていても、小夜は楽しそうに嫌がることなく動物たちのお世話をしていたのです。
それをずっと見てきた佳代は、小夜は自分とは全く違う気持ちで動物たちと接してきたことに気付きました。
佳代はようやく泣き止んだ小夜を励まして、一緒に死んでしまった二羽のうさぎとお別れをしました。
いつか一緒に空を飛ぶ日を夢見えていた小夜は、ショックに耐えられず寝込んでしまいました。
一日、二日は牧場の主に隠して、小夜の分もがんばって働いていた佳代でしたが、小夜が寝込んでいることがバレてしまい、佳代はお仕置きを食らってしまいました。
バチン! バチン! と何度もおしりをたたく音が佳代の暮らす部屋にひびきわたります。
痛みに耐えられず、泣いて何度もあやまりつづける佳代でしたが、主は周りの子どもたちが恐怖に震える中もなかなか許してはくれません。
小夜を大切にしたいと思い始めていた佳代のことを牧場の主はどうしてか簡単に許すことができなかったのです。
夜になって元気のない小夜の様子を見に来た佳代はついに我慢ができなくなってしまい、思い切ったことを口にしました。
「小夜、あなたが頑張り屋さんで目が見えなくてもお仕事ができるのはよく分かったわ。でもあなたはここでの仕事に向いてない。
ここを抜け出して自由になろう。島の外には福祉が発達した子どもを大切に扱ってくれる国があるの。だから、こんな島は早く抜け出そう……」
小夜は最初、どうしてここでずっと暮らしてきた佳代が悲しい声でそんなことを口にするのか分かりませんでしたが、ギュッと身体を抱きしめてやっと気づきました。
「佳代……ごめんなさい。私のせいなんだよね」
佳代は痛みのあまり、抱きつかれると小夜の身体を振り払って、身体を震わせてしまったのです。
「こんな傷、たいしたことないわ」
「そんなことないよ、いっぱいあざが出来てるよ」
「じゃあ……一緒にこの島を出てくれる?」
佳代の言葉に小夜は大きく頷いて、佳代の持ってきたカレーライスを食べている間もずっと涙が止まりませんでした。
その日、佳代は小夜と同じベッドで眠り、すすり泣く小夜が眠りにつくまで起きて、これまでの日々を思い出し、考えごとをして寝れない夜を過ごしたのでした。
(『空を飛べたら』19ー24ページ一部抜粋)
悲しいできごとが起きたのは、そんな寒い日のことです。
小夜はいつものように朝早くから丸い形をしたザルの上に牧草とにんじんをのせてうさぎたちが過ごす小屋の中に入っていきました。
しかし、赤ちゃんが誕生して五羽になったばかりのうさぎのうち、二羽のうさぎは冷たくなって身動きせず死んでいました。
新しい命が生まれ、喜んでさらにやる気がみなぎっていた小夜はかなしい気持ちになって、佳代に泣きついてしまいました。
「ねぇ……変なの、うさぎさんが動かなくなってしまったの。
助けておねがい、佳代……」
「うさぎはお空に行ってしまったのよ」
小夜にそう教える佳代でしたが、小夜はお世話をしてきた二羽のうさぎとのお別れを受け入れることができませんでした。
「やだよそんなの……いつも一緒に遊んで喜んでくれたのに……。
新しい仲間が増えて、喜んでくれたのに……」
小夜はうさぎたちへの想いがあふれ、涙が止まらなくなりました。
「ここでの仕事は遊びじゃないのよ……。
こんな別れ、いつ起きるか分からないのよ。
小夜、悲しんでばかりではいられないでしょ?
泣いてばかりじゃ、上手にお別れできないでしょう?」
最初はまともに仕事ができなかった不器用な小夜をずっと見てきた佳代は心が揺らぎました。
大変な日々が続いていても、小夜は楽しそうに嫌がることなく動物たちのお世話をしていたのです。
それをずっと見てきた佳代は、小夜は自分とは全く違う気持ちで動物たちと接してきたことに気付きました。
佳代はようやく泣き止んだ小夜を励まして、一緒に死んでしまった二羽のうさぎとお別れをしました。
いつか一緒に空を飛ぶ日を夢見えていた小夜は、ショックに耐えられず寝込んでしまいました。
一日、二日は牧場の主に隠して、小夜の分もがんばって働いていた佳代でしたが、小夜が寝込んでいることがバレてしまい、佳代はお仕置きを食らってしまいました。
バチン! バチン! と何度もおしりをたたく音が佳代の暮らす部屋にひびきわたります。
痛みに耐えられず、泣いて何度もあやまりつづける佳代でしたが、主は周りの子どもたちが恐怖に震える中もなかなか許してはくれません。
小夜を大切にしたいと思い始めていた佳代のことを牧場の主はどうしてか簡単に許すことができなかったのです。
夜になって元気のない小夜の様子を見に来た佳代はついに我慢ができなくなってしまい、思い切ったことを口にしました。
「小夜、あなたが頑張り屋さんで目が見えなくてもお仕事ができるのはよく分かったわ。でもあなたはここでの仕事に向いてない。
ここを抜け出して自由になろう。島の外には福祉が発達した子どもを大切に扱ってくれる国があるの。だから、こんな島は早く抜け出そう……」
小夜は最初、どうしてここでずっと暮らしてきた佳代が悲しい声でそんなことを口にするのか分かりませんでしたが、ギュッと身体を抱きしめてやっと気づきました。
「佳代……ごめんなさい。私のせいなんだよね」
佳代は痛みのあまり、抱きつかれると小夜の身体を振り払って、身体を震わせてしまったのです。
「こんな傷、たいしたことないわ」
「そんなことないよ、いっぱいあざが出来てるよ」
「じゃあ……一緒にこの島を出てくれる?」
佳代の言葉に小夜は大きく頷いて、佳代の持ってきたカレーライスを食べている間もずっと涙が止まりませんでした。
その日、佳代は小夜と同じベッドで眠り、すすり泣く小夜が眠りにつくまで起きて、これまでの日々を思い出し、考えごとをして寝れない夜を過ごしたのでした。
(『空を飛べたら』19ー24ページ一部抜粋)