数日、彼女は彼に告げられたことを考えた
世間一般で言うと告白、求婚とも言われるらしい
自分に求婚をする殿方がいるとは思いもしなかったし、その相手が彼と思うとまた
胸が締め付けられる様に苦しくなった
でも嫌な気はしない
そんな自分の感情に不安定、というのがしっくりきた
彼のことは慕っている 信頼できる相手だ
けれど生涯を共にする伴侶、となると話は別になってくる
こんな醜い私と共にしたいなんて、彼はよくても周りの目は蔑んだ目で見てくるだろう
そして皆して口にするだろう
王子の目は腐ってしまった、
醜い姫に洗脳された、化け物に脅されている
周りは受け入れたくなくて、誰かのせいにしなくては、気が済まない
私もかつてはそうだった
父に愛されなくて、苦しくて神様のせいにした
けれどそうしたって、この容姿がどうにもならない
だから諦めて受け入れた
皆から浴びる非難の声も、すべて
それが最善だと思った けれど私の心の闇は
ゆっくりと負の感情を芽生えさせた
耐えなくては、そう思えば思うほどに
そんな絶望した中で私は彼と出会った
父の商談相手の息子として
世間体もあったのか、父はこれから関わる商談相手だから失礼のない挨拶を、と言われ私は従った
醜い姫とはいえ、礼儀作法や勉学は学ばせてもらえた
王族の姫が作法がなってないと言われる事を恐れたのか
でもそれだけは嬉しかった
勉学を学んでいる時は、嫌な事を考えなくて済むから
私の姿を見て蔑んだ瞳で見る彼の父は、とても予想通りだった
けど、どんな言葉をかければいいのか相槌で誤魔化していた
けど、彼は違った
私の姿を見て、微笑みかけてくれていた
驚愕して言葉も出なかった
どうして私に微笑みかけるの?
嘲笑いの笑みとも違う、慈しむような微笑み
それが私にとって初めての印象
挨拶も済んだので席を外し、私は部屋へと帰る
けど、彼が私を呼び止めた
『姫、お待ちください』
人に呼び止められるのは初めてだった
なぜ呼び止められた理由はわからない、先ほどの場で言えなかったことでもあるのだろうか
内心焦っていて、俯いてしまった
王族としてこの態度は失礼だ
けれど、怖くて仕方がなかった
全身が強張り、緊張のあまり指先から温度の感覚がなくなっていくようだった
『姫、怖がらないで。大丈夫です。
貴女とお話がしたいだけです』
『お、お話…?わ、私はないです!』
急な申し入れに、驚いて即答してしまった
『私にはあるのです、貴女と会うのを心待ちにして
いたのです
父の付き添いは、貴女に会うための口実ですから』
そう言って笑う彼に、疑問しか浮かばなかった
姫の心情とはお構いなしに、彼は姫の手を取る
『こんなに冷えてしまって…すみません
お茶でも飲んで落ち着きませんか?』
自分の手と、彼の手。
比較してみるとますます、悲しくなってしまう
老婆のような、乾燥した肌触りの痩せぎすな手が
目の前にあったから
彼に促されるまま、私は彼とお茶をしている
彼の行動についていけず、喉が渇いていたのは確かだった
一口を飲んでほっとするが、紅茶の水面に自分の醜い顔が浮かび、きゅっと目を瞑った
次第に、指先も震えてきた
彼がなぜ私と話したいのがわからず
きっと裏があるはず、そう思い胸の内にあることを
彼に言い放った
きっと自分から拒絶すれば、彼も私から離れるはず
興味も湧かないはず、そう思ったから
『あなたも、私のこと滑稽に見えてるのでしょう?』
『なんのことですか?』
『とぼけないで!お話ししたいだけなんて嘘!
私の姿を面白おかしく見て、二人きりになったところ
で蔑むのが狙いでしょう?』
何度もそういう目にあってきたから、周りに人がいると褒め称えて、二人きりになったところで罵詈雑言を言い放つ
皆同じ事を考えてる
醜い姫、中身も醜く歪んでいるに違いない
この国の姫であることが、恥で仕方がない
だから、目の前にいる人もそう
皆、私を、哀れな瞳で見てくる
『…もう、放っておいて』
窪んだ瞳から涙がこぼれ落ちた
その涙は、ティーカップに落ちて波紋が広がった
それでも、そこに映る姿が醜いまま
『私は、姫を醜いとは思いませんよ』
初めて言われた言葉、その言葉に心が揺らぎそうになる
けれど信じられない、偽りの言葉だと思ってしまったから
『信じられないのかも知れない
それは無理もないです
まだ、私たちは知り合ったばかり
これから貴女と仲良くしていきたいです』
そして姫の瞳から溢れそうになっている涙を、彼の指が触れ拭った
触れられたことにより、私は顔を上げた
彼は優しく微笑んだ、その瞳の奥に何を秘めているのか
紳士的な振る舞いに、戸惑った
どうしたらいいのか、わからなかった
彼は、私が泣き止むのを待ってくれた
その間も私の涙を拭ってくれて、背中も優しくさすってくれた
その優しさに、心に少し触れた気がして
彼なら、私の心をわかってくれるのかも知れない
孤独な私の、胸の内を
翌日、彼は私に贈り物をしてきた
白い純白のヴェールと、肩まで隠れる長い手袋
試着してみると、自分に似合っていた
『姫に似合うと思って、サイズが合っていてよかった
すごくお似合いですよ、姫』
賞賛することにも慣れなかった
私は俯きながら、『ありがとうございます』と
返すことしかできなかった
きっと私が容姿を気にしていたから、他人の目が気にならないように、自分の容姿をなるべく隠れるものを
選んでくれたのだろう
なんて気配りができる人、他人の気遣いができる心優しい人
初めての贈り物に、頬が緩むのが止められなかった
そんな時、彼は言ったのだ
『非難の声を耳にするのは致し方ないことでしょう
けれどその言葉を鵜呑みにするのは間違えています
貴女は貴女なのですから 他人の言葉に
耳を貸してはいけません』
その言葉に救われた気がした
私はここにいていいんだと
心が折れかけた私に光をくれた彼
それから彼は、頻繁に私に会いにきてくれた
他愛ない話や、私を気遣ってくれて王子の国の食べ物
お菓子など持参して、一緒にお茶をするのが習慣になっていった
そんなひと時が姫にとって、楽しみの一つになっていたのだった
けれど、そんな日がいつかなくなる
わかっていたこと、けれどそう思うと寂しくなる
そして、私はそんな彼のことを…
わからない、この続きの言葉が…
でてこない
『私は容姿だけではなく、感情や言葉さえも
欠落しているのかしら』
誰もその答えをくれる人はいない
姫自身で見つけなくてはいけない答えだから
その答えを見つけて、どう選択するのも姫路さんでもあるのだから
その日の夜、夢を見た とても不思議な夢
光を纏った素敵な女性が、産まれたばかりの赤ん坊を抱いていた
赤ん坊は泣きもせずに、女性に抱かれてすやすやと眠っている
『可愛い子、貴女に酷な事をする私を
許してね』
女性が赤ん坊の頬に触れた瞬間、赤ん坊は醜い姿へと変わっていった
その光景に悟ってしまった あの赤ん坊は自分だと
『きっと貴女を心の底から愛してくれる人が
見つかるはずだから…』
そこで夢は終わった
目が覚めても夢の内容は忘れていなかった
私は産まれた時に、呪いをかけられたのだ
あの声と夢の内容と繋がった
何故あの女性は私に呪いをかけたのだろう
何か恨みを買ったのだろうか
わかっていることは今、ひとつだけ
『姫という立場を捨てれば、呪いは解ける』
ただそれだけだった
翌日、私は父へ呼び出された
娘に興味ない父が今更、と思いながらも
そこには父と、叔父がいた
叔父がいるのに驚きながらも、私はゆっくり席に着いた
叔父は私の方を品定めする様な瞳で見ていた
その視線が怖くて私は俯いてやり過ごした
『お前に縁談の話がきた 醜い姫を嫁に
という物好きの奴らからだ』
その物好きの中には、きっと身体目的の人も含まれているだろう
妻を所有物だと思う人も
『その縁談を、お受けになるべきですか?』
恐る恐る聞くも、父は表情を変えない
父の意図が見えず、困惑する
それとも思うことがなく、娘ではなく他人としてみているのか
『お前は、結婚したい相手はいないのか?』
答えるべきか迷った
けれど、彼の顔が急に目に浮かび、戸惑ったが私は頷く
『はい、慕っている方はいらっしゃいます』
『隣国の王子か?』
ゆっくり頷くと父は私に一つの紙を渡した
その紙には、彼とこれ以上関わらないで欲しい
とのこと
それを反した場合、姫という立場を剥奪してもらうと書かれていた
『お父様…これは?』
『これ以上、王子と関わるなとのことだ
王子は大事な時期の為、判断を狂わせる
行いをするなとのこと
反故にした場合、お前をこの国から追放
しなくてはいけなくなった』
突然の国からの指示に私は戸惑いつつも、言葉を選びながら申し入れる
『…一度彼と話をさせては頂けないですか?
約束したのです…お父様…』
それを遮る様に今まで黙っていた叔父が口を出した
『姫、これは国に関することですよ
私達は否と言う訳にはいかないのです
姫の行動一つだけで、国を揺るがしかねない
それをお分かりでのことですか?』
自分でもわかってる
けれどこれは彼の父の言い分だ
彼の口から聞きたい 真実を
『わかっています けれど私が彼に
何をしたと言うのです?
理由が明確ではない限り、納得できません
納得する理由でしたら、私は彼に近づきません』
それの言葉に叔父はそれ以上口を出せなくなり
父は険しい顔をしながらも提案をする
『ではこの件はお前に一任する
その結果、追放されたとしても私は
知らないからな』
『ええ、それでいいです
私は姫という立場に、未練というものはない
ですから
今、この場で剥奪されても受け入れる所存です』
その言葉は偽りはなかった、本心だ
私の発言に、驚くことなく
父は腰を上げ、叔父も続く様に退室した
その場には私一人になった
『やっぱりお父様にとって私はどうでも
いいことなのね』
わかっていたことなのに、少し期待してしまった
いざ父の言い分を耳にすると、やっぱり心が少し痛かっ
た
小さい頃から、父と向かい合うだけで怖気付いてしまう
怖いのだ
父よりも、王という威厳が強いからかもしれない
笑ったところも見たことないし、何が好きなのかもわからない
昔、子供ながらに贈り物をしようとした
自分で作った小さな花束を
世話係もお墨付きの、綺麗な花束
これを渡して、少しでも会話に繋がればいいと思ったから
届けようと父を探し、城内を歩き回った
どれくらい歩いたかわからないぐらい、城内は広くて
子供の足では限界を超えていた
足が疲れてしまい、立ち止まり花束に視線を落とすと花束が萎れてしまっていた
すぐ渡せると思っていたから、何も考えずに飛び出したのも悪かった
花は寿命が短いのだ
水に浸さないと、花は萎れて死んでしまう
もうこれは渡せない、そう思い自分の部屋へ帰ろうと
踵を返す。
来た道をとぼとぼと、歩いていると父とすれ違った
父は自分に興味ないようで、娘にすれ違っても話しかけてこなかった。
やっと見つけたのに、けど声をかける勇気はなくて
目に涙をためながら、早足で部屋へと帰った
その様子を気に留める人は、誰もいなかった
そこから私は父と話すことがさらに怖くなり
用がある以外は、極力近づかないことにした
お互いきっとそのほうがいい
けれど、心はずっと傷んでいる
もう修復が不可能なくらいに
そんなある日、我が城に来訪者が来たらしい
父には部屋から出てくるな、と言われた
いつもふらふら出歩いている訳ではないが、
父の言葉に従い、部屋で1日を過ごす
午後に差し掛かると、突然ノックの音が聞こえた
私の部屋をノックするのは限られた人だ
侍女か、衛兵 それと彼だけだった
不審に思いながらも、恐る恐る声をかける
『…どなたですか?』
『貴方と話がしたいの
開けてくださらない?』
女性の声だ 今日の来訪者の一人かも知れない
けれど、それなら父が呼びに来るはず
戸惑うが、再度声をかけるのでやむを得なく
顔を覆うヴェールをして、扉を開ける
そこにいたのは綺麗な女性だった
艶のある金色の髪、美貌を引き立つような美しい唇
容姿だけで分かるぐらいに美しかった
そんな女性が私に何の用だろうか
彼女を部屋に招き、侍女にお茶の手配を指示する
お茶が来るまで彼女はじっと私を見つめる
いたたまれなくて私は視線を下に向ける
お茶がくると彼女は話し始めた
『まず初めまして、私は隣国の王子の
幼馴染です 急な来訪なのに受け入れて
いただき感謝いたしますわ
貴方の噂は聞いていましてよ
醜い姫、と有名だとか』
それから彼女は私の心を抉るように
彼に対しての思い、そして私を嘲笑うように話し始めた
『私、彼を愛してるの だから縁談を申し
入れたのだけれど…断られてしまって
その理由が貴女と知ってどんな人かと
思ったけれど…
想像以上に酷い容姿ね』
今まで浴びてきた圧、言葉 鵜呑みしないように心を強く保つように、拳を握りしめる
『産まれないほうがよかったぐらい酷いわね
あら、ごめんなさい 言葉が過ぎたわ』
勝ち誇ったように、彼女は笑みを隠すように口元に手を添えた
だけど、彼女の赤い口紅がそれを引き立て
かえって目立っていた
『いえ、お気になさらず』
『優しいのね、ここまで言われても反論
しないなんて、おかしいわね貴女』
『反論しても変わらない、と分かっています
私の取り柄は心の強さだけですから』
彼女は小さく『おかしな人ね』と再度いい
話を戻す
『憶測でしかないですけれども、
彼は貴女を信頼し過ぎて、判断を誤って
いる
縁談という形ではありますが
国を揺るがしさかねないことです
国の為か、自分の為か…
答えは前者に決まっているのに
だから彼の為に、彼の前から
消えてちょうだい』
はっきり、『消えて』と言われ、口の中の渇きを誤魔化すように唾を飲み込んだ
『消えるとは、どういう事で?
死ね、と言うことでしょうか?』
声が震えていたのかもしれない、そのせいで顔も引き攣っているであろう
『この国から去る、それだけでいいです
貴女の父にも話をさせてもらいました
好きにしていい、とのことで
父にさえ、愛されていないのね』
やっぱりと想像通りだった
けれど私は彼に真実も聞いていないし、告白の返事もしていない
私は初めて反論をした
『無礼を承知でいいます
それは貴女の言い分ですよね?
私は彼の口から聞いた上で、その提案を
受けるか、否か判断したいのです』
反論されると思っていなかったのか、彼女は少し口籠もりながらも反論する
『けれど…!私は彼の為を思って!』
『彼のことを思っているなら、こんな提案
しないのではないでしょうか?
縁談を断られているのでしょう?
私なら潔く身を引きます
それは間違っていますか?』
私の問いに彼女は何も言えなくなり、唇を噛み締め、急に立ち上がり勢いよく、私の胸ぐらを掴む。
『貴女に何がわかると言うの?
醜くて、生きてることさえ価値のない姫が!
私の思いがわかるはずがないわ!』
彼女の悲痛な声が部屋に反響する
『その通りです、私に貴女の思いがわかるはず
ありません
そして私の思いも貴女に分かるはずがない』
その言葉が彼女の胸に、どう伝わったのかはわからない
けれど、悔しそうに、憎悪の瞳を私に向ける
そして彼女が私の頬を叩こうと、手を振りかざした時だ
ドアが開く
彼だった 息が乱れておりその上この場を見て彼は血相を変えた
『何をしようとしたのですか?』
予測もしない王子の登場に、私も彼女も驚きを隠せなかった
彼女は私と距離を取る、だが見られてしまった以上
誤魔化すことは不可能だ
『王子…!違うのです、これは…!』
『貴女には断ったはずです
私は貴女と生涯共にしようとも思わない
そう言いましたよね?』
優しく言ってはいるが、彼は内心怒っている
それに彼女は顔面蒼白で、体も小刻みに震えていた
『け、けれど…私は…貴方を諦めきれなくて
侍女の噂で聞いたのです
貴方が醜い姫に、求婚したのだと』
涙をこぼれないように、歯を食いしばって訴えるが
彼は彼女を許す気はないそうに追い打ちをかける
『それが、姫に今しようとしたことですか?
従わない相手に、体罰を食らわせて服従させる』
『違います、違うのです
手を出すつもりはなかった!
それは本当です、信じてください王子』
必死に謝罪するが、一部始終を見てしまった以上
彼女に対する印象は変わってしまった
『貴女はいつもそうですね
気に触ると手が出てしまう、だから貴女を
選ばなかった
ただそれだけです。
貴女を傷つけないような断り方をした
けど、はっきり言った方がよかったそうですね
姫に危害を加えようとした貴女に、情なんて
わきません
あの時に話した通りです
それで終わったはずですが…
違いますか?』
怖気付いたのか、彼女はその場に入れなくなり、部屋から出ていった
こんなはずではなかった、王子が来る予定ではなかったのに
幼馴染という立場で、彼を好きになるのは当然だった
誰よりも、彼を理解していた
だから、彼の伴侶となって支えていきたい気持ちで
勇気を振り絞って申し入れたのだ
けれど、彼は断った
勇気は打ち砕かれ、悔しさが残った
どうして!と問い詰めるが
『申し訳ないですが
将来の伴侶は貴女ではありません』
拒否されても、私は諦めきれなかった
この小さい頃から胸に秘めた恋心は、諦められない
彼に嫌われてもいい、そんな一心だった
侍女たちの噂で、彼は隣国の姫に求婚したと話を小耳に挟んだ
醜い姫、心も体も汚れて覆われている
他にも様々な言われようで、姫自身も国もそれを否定せず、噂が膨れ上がっている
真祖を確かめるため、というのはただの口実
美姫と謳われている自分と、醜い姫君
どちらか彼に相応しいのか、火を見るより明らかだ
けれど、想像以上の醜さで、口角が上がるのが抑えきれなかった。
私はこの姫に、勝ったのだ
神は私にこの容姿をくれた、味方してくれたのだ
現実はそうはいかなかった
結果として、王子に見放された。軽蔑されたことだろう
だが、あの醜い姫を王子の隣にいさせることは
あってはならない
彼女はある人に、嘘の情報を流しちらつかせ、行動させた
きっと、思い通りに行くはず
その行動を、神が見てることも知らず
彼女が立ち去った後、二人きりになった
彼と向き合う姿勢になり、少し緊張してしまう
あの告白以来だと
彼はゆっくりと近づき、ヴェール越しに頬に触れる
『どこも怪我していませんか?
大丈夫ですか?』
声に出したかった けれど彼の顔を見るだけで顔が火照り、頷くことしかできなかった
(何故?私はどうしてしまったのかしら?)
そんな私の様子には気づきもせず、彼はいつもの様に私に微笑む
そこで気づいた 私は彼のことが好きになってしまったのだと、
慕っている、ではなくて 愛していたのだと
もう答えは出てしまった
『手紙…送ったのですが届いてないですか?』
『申し訳ありません、きっと父です
貴女に干渉しないようにしたのでしょう』
『そうですか…でもよかったです』
『何故ですか?』
『何か巻き込まれていないかと心配で
けれど、無事に元気なお顔を見れたので』
それは紛れもない本心だった
手紙の返事がこない時、何よりも考えていたのは彼の安否だけであった
それを聞いた彼は不意を突かれた様に
言葉も出なかったようだ
『貴女は私を怒ってもいいのですよ?
先ほどの彼女についても…
何故そんな風に考えられるのですか』
幼馴染の彼女が、自分にそこまで好意を示していることも知らず、彼女を傷つけないような断り方をした
だが、それが返って刺激を与え、姫にも傷をつけてしまった
きっとひどい言葉で、姫の心も傷がついたことだろう
けれど、姫は怒らず微笑みを自分に向ける
『貴方のおかげですよ』
そして私は思いを告げた
『王子、私はあの告白からずっと
考えていました 貴方のことを
そして今、答えが出ました』
彼からも真剣な瞳で私を見つめる
緊迫した空気に包まれたが、構いはしなかった
『私はずっと貴方の言葉に救われてきて
貴方と過ごす時間はかけがえのないもの
でした
貴方のことを考える度に、胸が高鳴って
やっとわかりました その意味が
貴方を愛しています』
それは紛れもない、偽りのない言葉
彼は信じられない程に何度も私に聞き返す
『ほんとですか?本当に私のことを?』
恥ずかしくて小さく頷く
そして彼は私を抱きしめた
初めて抱きしめられ、どうしたらいいのかわからなかったが、気持ちがあったかくなった
『私も貴女を愛しています
隣にいるのは貴女しか考えられない
どんなことがあっても私が貴女を守ります
幸せにして見せます』
その言葉に、愛されてると嬉しくなった
けれどその幸せは束の間だったのかも知れない
私と彼が結ばれることに対して、誰も祝福も
認める人さえもいなかったのだから
そして私と彼は両家に婚約の許可をいただく為、挨拶しにいった
これが私達の最初の試練だったのかもしれない
彼の両親は私を認めることはなかった
彼の父は幼少期から面識があり、いつも侮蔑した瞳で私を見つめてきた
彼の母は、温厚な印象だった
けれど、可哀想な瞳で私を見るのだった
話しかけようとすると、彼の父に遮られ、印象でしか分からず、私たちの婚約に対してどう思っているのか聞けなかった
一人一人、思うことがあるのはわかる
けれど、瞳に想いがこもっており、その思いが憶測だが理解できると、いい気持ちにはならなかった
私達が婚約しようとしてることは、噂として民の耳にも届いてしまったようで、批判の声が上がった
化け物と婚約したいだなんて、考えられない
あれは化け物なんかではない、魔女だ
王子はあの化け物に騙されている
予期していた事が起こってしまった
私のことは何を言われてもいいのに、彼のことを言われてしまうと無性に腹が立ったのもあったが、悔しかった
そんな日々を送る中、私はふと思い出した
私をかけられた呪いのことを
呪いが解ければ認めてくれるんじゃないかと
けれど、それには姫という立場を捨てなくてはいけない
姫として王子と共に生きるか
呪いが解けて…一人の民として生きるか
今まで選択した事がなかった
時の流れに身を任せて、頷いて事が終わるのを全て待っていた
けどそれではいけないと思った
私は姫であると共に、一人の人間だ
この選択で何かが変わってしまうのはわかる
けれど、変わらなくてはいけない
そう思った
行動を移したかった私は、王子に呪いについて話した
彼は驚きながらも真剣に話を聞いてくれた
話す内に不安になってきた
彼は何故私を伴侶として選んだのかと
もしあの言葉通りに選択して呪いが解けたとしたら…
彼とはもう会えなくなってしまうのだろうか
全てを聞き終えて彼は微笑んだ
『私は、姫が呪いに良かったと思います』
『何故…ですか?』
『皆、貴女の容姿だけを見て突き放します
けれど私は貴女の全てを見て、心が
動かされたのです 惹かれたのです
そして教えてもらいました
人は見た目がすべてじゃないと』
ああ、彼の言葉は魔法の様だ
不安だったすべてのものが、彼の言葉によって救われた
私は嬉しくて涙を流した
ほんの一粒の涙さえ、彼は慈しむように指先で拭ってくれた
『私達は今、困難な道を辿ろうとしています
けれどこれを乗り越えてこそ、希望の光が
見えてきます
そして私にとって希望の光は
姫、貴女なのですよ』
彼は私を優しく抱きしめ、背中をさする
赤子をあやす様に、ゆっくりと
『貴女にとって容姿は気になると思います
呪いが解けたら皆認めるでしょう
けどそれでは駄目だと思うのです
見た目だけで私の伴侶を認められても
私は嬉しくありませんから』
ああ、やっぱり彼を選んで良かった
姫の立場を剥奪したとしても、彼は同じことを言うだろう
彼に話してよかった、とそう思う
だって私の選んだ道も同じだがら
呪いと共に生きる、私は選択した
『私も同じ気持ちです
認められたい気持ちもあるのですが
それだけではないです
私が貴方の隣にいたいのです
これだけは何があっても譲れません』
最初彼に告白された日、私は一度思った
こんな私が彼の隣にいていい筈がないと
けれど他の女性が彼の隣にいることを想像してしまうと、嫌な気持ちになった
欲張りになってしまったと思った
けれど今思うとそれは、嫉妬と呼べるものだったのかも
『だからあなたの隣にいる為に
私はこの呪いと共に生きます』
これは紛れもない本心、貴方と生涯共にする為の障壁を壊すための
私の新たな第一歩だ
私が決心がついた瞬間、辺りが輝きを増した
目を開けていられなくなり、目を瞑る
再び目を開けると視界が変わり、真っ白な空間に動揺する
傍には彼と私、そして声を発する暇もなく
神々しい女性が突如現れ微笑みかける
その女性には見覚えがあった
夢の中に出てきたあの女性
あの夢と女性の姿が重なった、私に呪いをかけた人だ
『突然こんな形でごめんなさいね
けれど私にはこの方法でしか会うことを
許されていないから』
女性は優しく微笑み、ゆっくりと歩み寄る
そして私を優しく抱きしめた
その抱擁は彼とは違った
その暖かな温もりに全てを委ねてしまいたいようで、とても心地よかった
『やっぱり貴女を選んでよかった
期待外れしない選択をしてくれたわ』
『貴女は一体…何者なのですか?』
女性は私から体を離し、向き合う姿勢になる
『私は女神、貴女に醜い呪いをかけたもの』
女神は優しく微笑み、私の髪を撫でた
すると私の体が輝き、光に包まれた
眩い光がやむと私は容姿が変わっていた
艶のある髪、凛とした瞳
痩せ細った体も、しっかりと女性らしい体つきへと変化していた
その光景に彼は驚きもせず、彼女を見つめていた
寂しさと嬉しさが混じった表情で
彼女は自分の容姿を変わったことに気づき
気持ちが追いつかず、混乱した
ずっと欲しかったもの、望んでいたことだったのに
一瞬で叶ってしまった
そして何故、女神は私に呪いをかけ
今呪いを解いたのか、わからなかった
どろどろと感情が、心が黒く塗りつぶされていくようだった
そんな彼女の気持ちを察してか、彼は彼女を後ろから抱きしめた
『姫、自分を見失わないで
大丈夫です、落ち着いて』
その温もりに少しずつ心が落ち着いてきた
彼の腕に自分の手を添える
それは痩せ細った腕ではなかった
肉つきの良い女性らしい手
震えながらも女神に問う
『貴女は、何故私にこの呪いをかけたのですか
どうして今になって…呪いを?』
『貴女の…人間の選択を見たかった
醜い皮を被った人間がどういう選択し、
どう生きるかを』
女神は淡々と思いを話す
『人間は見た目を気にする生き物
人間は何かに天秤をかけられると
自分にとって有利な方を選ぶ
いつの時代も…そう思っていた』
そして私と彼を交互に見て、慈しむように見る
その笑顔は女神としてではなく、一人の女性としての笑顔に見えた
『貴女を呪ったのも、それが理由
あの言葉通りに、すると思ったから
人間だったら…誰でもよかった』
"その身に受けた呪いを取り除きたければ
姫という立場を捨てるがよい"
女神は私がその言葉通りにすると
思っていたのかも知れない
『私も、人間たちを見下していたのかもしれない…
貴女の行動を見てそう気付かされたわ
そして貴女にとっては許されない事を
したのも…本当にごめんなさい』
女神の思いを聞き、私はどう答えていいのか分からなかった
女神は『人間』という存在に必要以上に固執していた
だからこそ聞いて見たかった
女神から見て人間はどんな存在かを
『…人間は嫌いですか?』
『ええ、嫌いよ 人を簡単に裏切り
自分の欲に正直で、その欲のせいで
犠牲なっている人もいると知らずに…』
今まで隣で聞いていた彼は言葉を紡ぐ
『それが人間の、美しさかも知れません』
女神はその発言に疑問を隠せない表情で彼を見つめる
彼もその威圧感に圧倒されずに、会話を続ける
『誰もが完璧な人はいません
間違い、過ちを犯すでしょう
それを正し、前を進むからこそ
人は輝き続ける
人間だからできることだと思います』
その言葉に女神は圧倒されてしまったように
ゆっくりと涙を流した
その流れる涙はとても美しかった
女神という存在だからかも知れない
けれどこの光景を見れば、皆そう思うだろう
『貴方は素敵な人ね
人間でいるには勿体ないくらい
貴方は何故そんなに前向きでいられるの
かしら?』
『愛しい人がいるからです』
その言葉に胸が高鳴った
彼を見ると、優しい瞳で私を見つめた
呪いが解けたおかげで視力も少しよくなった
彼はいつもこんな表情で私を見ていたのね
嬉しくて泣きそうだった
『愛しい人がいるからこそ、諦めない気持ち
が生まれ、頑張ろうと思うのです』
彼は思ったことを言っただけかも知れない
けれどその思いが、とても嬉しく感じた
女神はゆっくりと瞼を閉じた 瞑想をしてるようにも思えた
二人は女神の言葉を待つ
とても長い沈黙と呼べるかわからない
今いる場所は時の流れはないかもしれないから
『私達は、人間という存在に干渉しようとも
思わなかった
見守ることが最善だと…
それが私達の過ちかも知れないわね』
そして女神は、私達に微笑んだ
何かを決心したようだ
『あなた達の言葉、思いを聞いて
私も考えを改めようと思います
人間の寿命は儚い…けどその儚さが
美しいのかもしれないわね』
そしてその場から去ろうとする女神に
彼女が引き止める
一言声をかけなくてはいけない、そんな衝動に駆られた
『待って…女神…様はこれからどうする
のですか?』
女神は小さく微笑んだ
『他の女神達に教えてあげようと思うの
人の愚かさ、でも美しさもあるってこと
あなた達のような素晴らしい人もいる
だから、遊び半分で人間を呪っては
いけないってこともね』
その言葉に嘘はなかった
女神という存在だけではなく、それ以上に彼女を引き立てる何かがあるのだろう
『きっと、女神様なら大丈夫です
私、信じてます』
女神は小さく頷いた瞬間、空間が歪んだ
その感覚に私と彼は違和感を覚えたが
繋いだ手を離すことはなかった
違和感がなくなり、目を開けると見慣れた部屋で、先程彼と話をしていた一室だった
時計を見るがそれほど時間は経ってはいなかった
神様にとっては自由自在なのだろう
ほっと息をつき、目の前にある鏡を見ると
容姿が変わった自分が映っていた
まだヴェール越しであるが、これを取ってしまえばきっと、誰もが認める姫君に見えるだろう
自分で願っていたことだが、容姿変わっただけで認められたくないので、彼女はある提案をした
『王子、私あることをしたいのです
受け入れてくれますか?』
『貴女のためなら、どんな事でも
受け入れましょう
けれど、その前に
貴女に触れてもいいですか?』
彼の触れる、という意味はきっと
ヴェール越しではなく、肌に直接触れてもいい
ということなのだろう
私はゆっくり頷くと、彼はヴェールを上げ、私の頬に触れる
まるで二人だけで結婚式を挙げてるようだ
『女神様は酷いことをしてくれましたね
こんな美しい姫を元の姿に戻すなんて
他の人にも姫の美しさが知れ渡ってしまう』
『王子は私の呪いに…気づいてたのですか?
容姿についても…』
彼はゆっくりと横に振った
そして自信なさげに口にした
『いいえ、けど私の目にはいつも貴女は
美しく映っていたのです
信じられないかも知れないですけど』
『いいえ、信じます
他でもない貴方が言うのですから』
頬越しに彼の手に触れる
いつか触れて見たいと思っていたぬくもり
それがヴェール越しではなく、直に触れていて
愛しさが込み上げてくる
私の行動に彼は緊張した様子で、ゆっくりと言葉を紡いだ
『姫、もっと欲張ってもいいですか?
口づけを…しても?』
顔を赤らめながら、小さく頷く
彼はゆっくりと、顔を近づけてくる
唇が触れた瞬間、時が止まったように感じた
愛しい人の口付けはこんなにも胸が高鳴るものだと
ただ唇が触れてるだけなのに、彼の優しさが唇越しに感じるみたいに
唇が離れると彼は顔を赤らめながら、瞳を見つめ合った
『やっぱり姫はとても美しいです』
それから私はあることを始めた
容姿が変わったことにばれてしまう為、染粉で髪を見すぼらしくして、肌も同様なものを塗った
ヴェールもいつものように被った
習慣づいてしまったものだ
けれど、このヴェールは彼が私にくれた初めての贈り物
思いれのある品だ、これがある限り私は以前の私でいられるのだ
民と両家の両親を欺くために、醜い姫を演じた
彼と私だけの秘密
この時だけ私の専属の侍女がいなくてよかったと思った
そして私と彼は何度も、彼の両親に認められるために
言葉を交わし続けたが王は聞く耳を持たなかった
父はこの件を関わりたくないようで
好きにしろ、とのことだった
私はふと考えを巡らせ、彼の両親を認めさせるのではなくて、民と交流しようと思った
民を通して、この国の現状を見てみたいという思いもあった
彼が愛している国を
そして私は民と交流を深めようと、彼と一緒に挨拶をしたり、言葉を交わした
最初は不審がられ、罵声や物を投げてくる人もいた
彼は庇おうとしたけれど、私は拒否をした
体を張ってやることに意味があるから、わざと避けずに受けた
あたりどころによっては血は流れたが、私は気にせずに歩く
その行動に民達は動揺した
そして物を投げる手を止め、誰もが彼女が堂々と歩く姿を見惚れていた
いつものように民と交流をし、歩いていると小さな子供が彼女の服を掴んだ
見るからに、体は痩せ細っており衰弱しているようだ 頬には殴られたような跡があった
子供と目線を合わせるように、彼女は屈む
ゆっくり微笑むと、子供も警戒心が少し薄れたようで、ゆっくりと言葉を発した
『貴女をずっと見てました
何故、ずっと笑っていられるのですか?
物を投げられても、言葉を拒否されても』
初めて言葉を投げかけてくれた人がいて、嬉しかった
子供は、自分がされてどうにもならなかったことを
自らの手で覆している姫に興味を持ったようだった
『私はね、ずっと全てを諦めていたの
望むことはきっと駄目なことだ
そうやって自分の首を絞めてた
けれどそれは駄目なことだって気づいた
自分の存在を否定してるってことに』
子供はわからないようで、困惑した表情をしていた
『今はわからないと思う
けれどいつか、あなたも気づいて欲しい
そしてわかって欲しいの
一人一人、生きてることに価値があるって
命あるものに全て意味がある
容姿だけが全てじゃないってことに』
その言葉が、周りにいた人々の心に届き
歓喜させたことを彼女は知らない
ゆっくりと子供の頭を撫でようとしたが、子供は体を震わせた
やっぱり私の噂、迷信を信じているのだろう
"醜い姫に触られると、その身が穢れる"
容姿が変わった事がばれないように
ヴェールだけではなく両腕を覆う手袋をしたが、それも却って刺激してしまったのかも知れない
『ごめんね、あなたの頭を撫でようと思ったの
頭を撫でられるとね、心が落ち着くって聞いたから
…びっくりさせちゃったよね』
ゆっくりと行き場をなくした手を、下ろそうとすると子供は私の手を取った
『…びっくりしたけど、お姫様が悪い人
じゃないってことだけはわかった
お姫様はとても優しい
心があったかくなった』
子供は満面の笑みで、私を見つめる
真っ直ぐな心に触れて、私は泣きそうになった
子供の心はこんなに純粋で、綺麗で
私はそんな心に触れていいものかと、少し戸惑った
『ありがとう、私の言葉に耳を傾けてくれて
あなたの心に触れさせてくれて』
ゆっくりと子供を慈しむように、抱きしめると子供も抱きしめ返してくれた
その光景が民の心を変え、それから彼女に対して何も言わなくなった
後日、姫が民の目の前に現れると、民達は姫を取り囲んだ
そして、謝罪と感謝の言葉、品々を姫に与えた
『本当にごめんなさい
私はあなたを容姿だけで判別していた』
『僕も』
『私も』
姫はゆっくり首を振り、民の手を優しく包んだ
『誰も、初対面の相手が急に現れると
拒絶するものです
だけど、私はあなた達の心に触れたかった
彼の、王子の愛する国の一員である方々に』
その言葉に感謝し、遠くで見守っていた王子に向かって民は懇願する
『王子様、この姫様を幸せにしてやってよ
こんないい子、滅多にいないんだから!』
『そうだよ、私のお嫁さんに欲しいくらいだ!』
こんな祝福されてることに慣れていない姫は、民からの賞賛の声に、顔が赤くなるのを抑えきれなかった
いつの間にか、隣にいた王子が姫の肩を自分に引き寄せ
見せつけるかのように、姫の耳元で答える
『ええ、必ず
姫は私が幸せにしますよ
私が心を奪われた人なのですから』
公衆の面前で、このように口説くようなセリフを言われ
さらに赤面するが、様々な嬉しさが混じり、姫は涙を流した
そしてその涙を見た人々は、彼女を醜い姫ではなく、民を心から慈しむ女神と呼んだ
結果的には民を味方につけた私と彼
その現状に彼の父、王は焦っていた
王は、容姿と肩書き、それが全てだった
それがある限り、醜い姫を嫁に認めるわけにはいかなかった
妻を娶った時もそうであったように
そこには愛というものは一欠片もなかった
国の為だけの結婚だったから
だからこそ理解ができないのだ
愛というもの
王子と姫が体を張ってやっていることに
何度も追い返しても、日を改めて来ると言う
諦めることを知らない
そんな彼女に、妻は少しでも話を聞いたらどう、と助言してくるくらいだ
それが彼女の策略かもしれない
騙されたりはしない、絶対に
あのヴェールを剥いで、本性を見破ってやる
王は彼女を退ける為の駒を仕掛けることにした
愛し合ってる二人を引き裂く為に
王は歪んだ笑みを浮かべた
彼の父から会食を誘われた
ずっと話も全て拒否され、追い返される日々だったのに
彼が言うからには、王妃様がが王に話でも聞くべきなのでは、と進言してくれたらしい
少し不審に思いながらも、言葉を交わしてくれる気になってくれたのは喜ばしいことであった
彼と一緒にその場に行くと笑顔で私達を出迎えてくれた
その笑みには何か企んでいるようで私は警戒心が強くなった
そんな不穏な空気の中、会食は進んでいった
食事は豪勢だった。
彼の国で、鮮度が高く、特に魚料理が豊富だった
コース料理とも思えるほど、テーブルに隙間がないくらい食事は並ばれていく
私は食事の手が進まなくて、この場にいるだけで胃もたれしそうだった
言葉を交わしながらも、上擦った声になってしまったり、ヴェールで多少は隠されているが、表情筋が引き攣ってないか心配もあった
そんな中、彼は私を気遣ってくれた
『姫、大丈夫ですか?』
『は、はい 大丈夫ですよ
お気遣いありがとうございます
お料理もとても美味しいですし…』
『それはよかった
私の国の料理を好きになってくれたら
もっと嬉しいです』
『とてもあたたかくて、美味しいです
こんなにも、素晴らしい料理がある
のですね』
小さい頃から、あの城で私が運ばれてくる料理は、硬いパンと味のしない冷たいスープだけだった
それしか食すことを許されなかったので、こんなにもあたたかくて、美味しい料理を頂ける事が嬉しくもあり、申し訳なかった
その私達の雰囲気に彼の母は良い印象持てたようで、優しい目で私を見てくれた
無事に会食が終わり、肩の力が抜けた時
彼の母からお茶に誘われた
私は断る理由もなく、受け入れた
やっと彼の母と話せると。
彼の母と話してみると、見た目とは違った印象が取れた
話が途切れることなく、相手を退屈させないことも配慮している
そして、優しくて笑顔が素敵な人だった
母とはこういうものなのだろうかと、
母と接したことのない彼女は知ることもなかった
『突然ごめんなさいね、けれど話して見たかったの
息子が選んだ女性と』
『いえ、お気になさらずに
私も王妃様と言葉を交わしたかったです』
微笑みながら話すと、王妃は少し表情を崩し、私に寄り添うように手を取った
『…私はね貴女達の関係を認めているのよ
他人行儀な言い方はよして
できれば、母と呼んでいただける?』
『で、ですが…』
王妃の圧は凄くて、断るほどその圧は強くなった
私は折れるしかなかった
『わ、わかりました お義母様…』
呼び名に嬉しく感じたのか、お義母様は嬉しそうに微笑んだ
『嬉しいわ、娘ができたみたいで
息子の目は狂っていないわね
こんな素敵で可愛らしい女性を連れて
くるのですもの』
私を歓迎してくれる御母様に緊張しながらも、言葉を交わした
『私とあの人の間には、愛はなかったの
いわゆる国の為の婚姻
でも私は、あの人を愛した 今も昔も』
慈しむような瞳でお義母様は語る
そして王のことについても
『少し、昔話をしましょうか
私達家族になるわ、だから
私のこと、そしてあの人のこと
貴女に知ってほしいの』
どういう意図があるのかわからない
けれど、その真剣な瞳に逆らえなかった
彼と同じ紫の瞳に
私は小さく頷くと、お義母様は微笑んだ
私は彼に一目惚れをして、この国に嫁いだ
政略結婚
国の為の結婚、そこに愛があるかないかの違い
私は彼のそばにいられる、支えられる
それだけを求め、後先考えずに嫁いだお転婆な娘だった
父は何度も言ったわ、そこに愛はないと
国の為に身も心も嫁ぐべきではない、幸せになれるのも運、もっと相応しい殿方はいると
けれど、私は選んだの
そこに愛はなくてもいいのだと
彼を他の娘達に渡したくなかった、という独占欲もあった
きっとお互い知るたびに、愛は深まっていく
私にも興味を示してくれるはず
けど、その希望はすぐに打ち砕かれたわ
結婚前夜、彼に身も心も捧げる儀式の際
彼は言ったの、冷酷な瞳で
『貴女に失望させると思う、けれど先に言っておく
私は、貴女を愛すことはないだろう
貴女を選んだ理由だって、容姿と肩書きだ。
そしてこの儀式も、ただの国の為だとしか
思えないのだ
貴女のことだって、世継ぎを残すためだけの存在
それしか、思えない』
きっと幸せな未来が待ってる、そんな真っ只中で
彼は冷淡に、何の感情もこもってない声音で言い放ち
私のすべてを奪った
悲しみと体の痛みが、私を襲った
涙が頬を伝う、なんの涙か考えることもできなかった
けれど、彼は私の涙を拭いながら『すまない』と
何度も言う
謝るくらいなら承諾しないで欲しかった
私が彼に対する思いを知ってて、酷いことをする
酷い男、そう思うのにどうしてだろう
嫌いになれないのだ
どんなに泣いて、彼を責めても嫌いになれない
それが、女の恋心というものだろう
私は彼に心を捉えられてしまった一人、彼の元から去るという選択肢はなかった
たとえ私たちの間に愛はなくても、私だけが彼を愛していればそれでいい、それ以外は望まない
だって、私は彼に誰にも取られたくない。
けれど、少しでも愛をくれたらと期待せずにはいられなかった
その思いで、嫁いだのだから
そんな失望した中で、結婚生活が日々過ぎていった
1年経った頃、子を授かり、元気な子が産まれた
皆が思ったことだろう、男か、女か
王族たるもの、跡取りは重要なこと
性別だけで左右される
産まれたその瞬間から、子は自らの人生を決められる
それはとても悲しいこと
授かったこと、産まれたことでさえ奇跡なのに
それが当然のように思う彼
命懸けで産んだ自分の頑張りを否定された気分になった
この人にとって私は、ただ跡取りを産むだけの母胎に
過ぎなかったのだろう
それこそが、彼の企みだったのだ
幸いな事に、私は男児を産んだ
男児を産めなかった場合、側室があてがわれる事に
なっていたらしい
やっぱり彼にとって私は、ただの駒の一人に過ぎない
国のためといい、自分の為に計画していたのだ
息子が産まれた後も、英才教育が酷かった
まだ甘えたい年頃に、政治、礼儀作法、国の動かし方など様々なことを叩き込んだ
私は見ていられず、息子を守りたい一心で、彼から遠ざけるように仕向けた
けれど、息子はそれを望まなかった
『どうして?あんな休む時間もないほど、勉強を
強いられて私は見ていられないわ!』
『これは私のために必要なことなのです
父からは国をすべるものにとって大切なことを
母からは、たくさんの愛をもらっています
だから、これが私に課せられたものであり
自分のものにしなくてはいけないのです』
どうしてそう考えられるのか、けれどやり遂げられる確信が息子にはあったのだ
その眼に、揺るぎない信念が灯っていた
こんなにも決意が固まっていて、やり遂げようとする息子を否定することはできなかった
『貴方の思いはわかりました
けれど、本当に辛かったら言うのよ?』
『その時は、母上にうんと甘やかしてもらいます
いいですか?』
恥じらないながらも、息子は私の胸に飛び込んできた
そんな可愛らしい一面に、微笑ましくなった
ああ、私はこんな愛しい子を産み、その子に愛されているのね
それだけでいいと思ってしまった
彼と愛のない間に産まれた子
城の皆が私を可哀想な瞳で見つめてきた
彼はそれを気遣うことはなかった
けれど、唯一の肉親、腹を痛めて産んだ子が
それをわかってくれた
こんなに嬉しいことはなかった
彼の愛は受けられなかったけど、愛しい息子に愛をくれた
この子は私に愛をくれるために、産まれてきた
そう思わずにはいられなかった
それからも息子は、すくすくと大きくなっていって
立派な国を支える後継者に成長していった
息子は隣国に行ってから、一人の女の子の話をした
彼女は容姿のせいで、心を痛めてしまっている
何かすることはできることはないか、と
きっとその時には、息子は彼女に恋をしていたのだろう
だから応援したかったし、彼女にあったら抱きしめてあげたい、そう思った
きっと彼女は心の中では、誰かの温もりを求めているはずだから
話を聞き終わり、私はどう言うべきか分からなかった
政略結婚は色んな形があると言うけれど
王は、国の為とは言え、彼の母にとても酷いことを
お義母様は微笑むだけで、もう吹っ切れた様子だ
きっと彼の存在があったから、そう思えることができたのだろう
お義母様は内緒話をするよう、小声で警告をする
『あの人は、容姿と肩書きが全て
いわゆる書類上、というべきかしら
情も浮かばない、
その為ならあの人は何をするか
わからないわ
だから十分に気をつけて』
きっとお義母様自身も何が起こるのかも分からないのだろう
用心に越したことはない、お義母様の気遣いに嬉しく
感じつつも複雑な気持ちになった
小さく頷き、御母様は小さな耳飾りを私の前に差し出す
『これは…?』
『私がこの国に嫁いだ時に身につけていたものよ
けれど今の貴女には必要かと
私からの贈り物よ』
その耳飾りは、真ん中に埋め込まれている小さなルビーが印象的で、揺れるたびに小さく煌めく
『そんな、頂けません!こんな貴重なもの』
『貰って こんなに綺麗なのだから
少しは着飾らないと、ね?』
お義母様は私の耳に、耳飾りをつけてくれた
贈り物はこんなに嬉しくなるものだと、実感した
『私、そんな綺麗では…』
呪いが解けたとはいえ、まだ容姿に自信はなかった
『自信を持ちなさい
女の子はいつだって、綺麗になれるのよ
ほんの少しの勇気があれば、いつだって』
やはり親子だ 素敵な言葉を私に紡いでくれる
そんな御母様の気持ち、思いを断る事ができず私は受け取った
『私に、そんな勇気があるとは‥思えないです』
『あら、気弱な子ね
そんな貴女におまじないをかけてあげましょう』
悪戯っぽく微笑み、お義母様は私を抱きしめた
突然のことに驚いて、体が強張ってしまった
そんなことは気にせず、お義母様は私の背中を優しく撫でる
まるで、子供をあやすような仕草で
『大丈夫よ、貴女はやればできる子だもの
こんなに素敵な子を陥れる人は私と息子が
許さないわ』
冗談のような言い草に私は、微笑んだ
その抱擁がまるで、本当の母と娘のようだったから
お義母様の耳飾りはとても綺麗で身につける事が勿体ないと感じてしまった
けれどお義母様の言葉を思い出して、それを身につけた
彼は耳飾りをつけた私を見て、褒めてくれた
『綺麗な耳飾りですね、とても
似合ってます』
『王妃様…お義母様貰ったものなの』
『母に? ずいぶん親しくなったのですね
私も負けていられません』
母に対抗心を見せる彼がとても可愛らしくて
少し笑ってしまった
その瞬間を見逃さない彼は、私の手を取り
『もっと笑ってください
貴女の笑顔はとても素敵です
私でさえ魅了されてしまうものですから』
そんなことはない、と言うつもりだったが
先程のお義母様の言葉を思い出して、頷いた
自信は今もないけれど、彼の言葉を否定はしたくない 堂々と胸を張れる自分でいたいと思った
『ですが先にやられてしまいましたね
私も貴女に贈り物をしようと思って
いましたのに…』
悔しそうに言う彼 彼の面白い一面を見れてまた私は笑った
『張り合うことなどないと思いますが…』
『いいえ、これだけは譲れなかったです
でも、今となってはどうしようもないですね
後日挽回といきましょう
楽しみにしていてくださいね』
輝いた瞳で言われ、私はそんな彼の一面を可愛い、と
思いつつ、微笑ましくもあった
『私は王子にたくさんのものを貰ってますよ』
そして彼の唇に自分の人差し指を触れる
『貴方は私にたくさんの言葉をくれた
その言葉の一つ一つに言霊が宿って
私を何度も支えてくれました
あの時の私にとっては素敵な贈り物です』
そして、このヴェールと手袋にとっても
少しほつれてしまっている箇所も所々あるが、
自分で補修して大切に使っている
それは紛れもない本心、あの頃の私にとっての唯一の心の居どころだったもの
彼の言葉を思い出す度に、心が温かくなって
前を向いていられた日々
あの頃の私は、彼に対する感情を
『慕っている』と思っていた
気づかないうちに、『愛している』に変わっていたのに
小さい頃、世話係が言ってたことを思い出した
非難の言葉を浴び続け、心を閉ざしていた時
あの時の世話係だけは私の味方でいてくれた
泣いている私に、彼女だけは私を優しく慰め、愛を注いでくれた
私はそれを素直に受け取れなかった
それをわかっていても、彼女は私を愛し続けた
『姫様、いつかきっと貴女のことを理解して
くれる、支えてくれる方が訪れますよ』
『そんなことない…だって皆、私のこと!』
『私は信じております その時姫様は
知るでしょう 人の素晴らしさを』
『今の私にはわからないわ』
否定し続けても、彼女は優しい瞳で私を慰めるように、言葉を紡ぐ
『大丈夫ですよ
その時にはもう貴女の心はその人を
受け入れ、愛しているのですから』
きっと彼女は気休めで言ったんじゃない
もうその時には、私と彼は出会ってたから
私の中で彼に対する思いが芽生えていたのを
知っていたのかもしれない
その時、彼女は言っていた
『姫様、恋はするものではなくて
落ちているものなのですよ』
(今、わかったわ 彼女の言葉の意味が)
彼は私の言葉を聞き、頬を赤く染めた
そんな表情は、とても可愛らしくて母性がくすぐられるようだった
『私は…思ったことを言ったまでです
けれど、それで姫が喜んでくれるなら
たくさんの言葉をいっぱい贈りましょう』
私の手の甲にキスを落とす
まるで、物語に出てくるワンシーンのようだ
この人と添い遂げたい
私たちの道は最初から困難続きだったが
彼がいてくれる限り、前に進んでいける
誰かが隣で支えてくれるって、こんな気持ちになるのね
あたたかくて、嬉しくて、くすぐったい気持ち
けど、自分に自信が持てる、勇気をもらっているよう
彼は私の左手の薬指にキスをして
『絶対に、この指に指輪を贈りますからね
貴女に似合う美しい指輪を』
お互い微笑み、それが合図のように
彼と口づけを交わした
このあたたかさ、愛しさを手放したくない
失いたくない
嵐の前の静けさとはこのことだろうか
いつもと違い城内が静かで、空がどんよりしており、雲一つも見当たらないほどだ
静かな城内に足音が響く
『姫様、お久しぶりでございます』
叔父だ 父からの呼び出し以来だ
私は叔父を快く思っていない
小さい頃から、私のことを品定めするような目つきで、今も作り笑いの表情を崩さない
その表情の裏に何が隠されているのだろう
『お久しぶりです、叔父様。何か私に用事でも?』
『最近、妙な噂を耳にしましてね
姫が隣国の王に楯突いてると』
そんな噂があるとは知らなかった
人の噂は当事者よりも、話しが大袈裟になるものだ
『それは誤解よ 私は王様に私達の婚姻を
認めてもらおうと、足を運んでいるだけ』
『でしたら誤解を招く行いをしない方が
よろしいかと
悪足掻きは身を滅ぼしますよ』
『悪足掻きね、私は真剣よ
真剣に彼と添い遂げたいと思っている』
反論するとは思わなかったのか。
叔父は蔑む瞳で私を見て、ため息をつく
『意志は固いのですか?』
『ええ、諦めることは自分自身を否定
してしまうから』
そう言うと叔父は一度視線を下に向け
仕方ありませんね、と呟く
その瞬間、見知らぬ人達が行く手を阻むように
私の両腕を掴み、拘束された。
『何をするの!離してください』
『姫様、私の目的に貴女の行動は目に余る
つまり、邪魔なのですよ
貴女に恨みはないですが…
あの王子に会えないように
心も体も、切り刻んで差し上げましょう』
そのねっとりとした笑みに、体が震えて仕方がなかった
そして私は反論を許されないよう、口元に布を当てられた
その布に染み込んだ薬物を思いっきり、吸い込んでしまい、徐々に意識が遠のいた
遠のく前に、お義母様の耳飾りがその場に落ちてしまった
(大切なものなのに…ごめんなさい)
そして私の意識は遮断した
再び意識が戻ると、身体中の痛みで目が覚めた
薬のせいなのか、意識が朦朧とする
(ここ、どこなのかしら)
両手縛られ、拘束されている為身動きが取れず、辛うじて視界に入るのは見知らぬ場所という認識のみ
随分使われていない一室のようで、ところどころ埃が溜まっていて、天井にはいくつかの蜘蛛の巣があった
(何かをするには都合のいい場所ってところかしら)
身動きが取れない以上何もできない
助けてもらうにも、ここから抜け出さなくてはいけない
もどかしい状況にゆっくりと思考を働かせようとすると、扉の開く音がした
そこには叔父と、彼の父が現れた
驚きで体を少し動かすと、頭痛がした
先程吸ってしまった薬物の後遺症だろうか
そんな私にお構いなしに、王は私に向かい合う
『姫、ここの部屋は気に入りましたかな?』
第一声がそれか、と思いつつも、私は無意識に王を睨んだ
それが不愉快だったようで、王は私の体を蹴飛ばした
私は声を出せる元気もなく、ただ痛みに耐えるだけ、その様子がお気に召したようだ
『なんと生意気な目、見苦しい姿なのでしょうな
やはり容姿が醜いとそうなってしまうの
だろうか 嘆かわしい』
『王、この娘如何いたしましょう?』
やはり、王と叔父は共犯であったらしい
先程の目と違い、待っていたかのような期待に満ちた目だ
心の中で警鐘が鳴る 逃げろと
『王子と接触しない手段であれば
お前の好きにすればいい
私はここで見届けるとしよう』
それを合図とした途端、叔父は私の前に立ちはだかる 欲情した瞳を私に向けて
『姫、醜い私だけの姫
私は貴女をとても愛しているのですよ』
身動きが取れないことをいいことに、叔父は私に覆い被さる
抵抗すればするほど、両手を縛っている縄が肌に食い込み、血が滲んでいく
その姿が滑稽に見えたのか、叔父は歪んだ笑みを浮かべた
『ああ、とても美しい
その痛みを耐える表情、全てがたまらない
やっと貴女を私のものにできる!』
叔父はずっと機会を伺っていた
この醜い姫を痛ぶる機会を
叔父は昔から醜いものを痛ぶるのが好きだった
人だけではない、小動物
この世に生を受けるものすべてのものを
王族に産まれたものの、その歪んだ思考に王としての素質がないと判断された
叔父は父の兄だ だからこそ弟が王に
弟の下に自分がいることが許せなかった
それを境に事はどんどん進み、弟の下で支えることになった
いつか見返してやるという思いを胸に
弟の即位後、隣国の姫君を妃として迎え入れた
弟が一目惚れしたという女性
思いは通じ合い、婚姻まで話は進んだ
嫁はとても美しい姫君であった
小柄な容姿であったが、国を支える為に申し分ない立ち振る舞いだった
数年後、懐妊し醜い子供を授かった
弟は醜い子供を産まれたことに対して受け入れることができず、愛することができなかった
そのせいで、姫の母親は責めたてられ、罵られ
精神的に病んで亡くなった
けれど最後まで愛を注ぐことをやめなかった
『どんな姿をしても、愛しい我が子なのです』
その死に顔がとても醜く美しかった
無様で笑えるくらいに
それを機に叔父はさらに歪んでしまった
醜い姫を自分のものにできたなら
痛ぶる時美しく散るのだろう あの母のように
その光景を想像しただけでも、官能的になった
その為ならと、叔父は手段を選ばなかった
国の為と言いながら、自分の為として
隣国の王に自分の国を売った
計画は万全だ やっとこの手で醜く生きている哀れな娘を、美しく散らすことができると
そして今、その願いが叶うときが来たと
叔父は目の前の獲物を食う猛獣のようだ
姫は痛みと立ちはだかる恐怖に耐えるしか他ないなのだろうと思った
けれどそうしてしまえば、この二人の思う壺にはまってしまう
だから追い被さってくる叔父に反抗的な瞳で睨みつけた
すると叔父は私の首を絞めた
『ああ、やっぱりお前はあいつの子だ
その目、俺を馬鹿にしているのか!
いつも憐れむ目で俺をみやがって…』
気に障ったようで逆上してしまった
声を出すことも許されないくらい強い力でうめき声しか出すことが叶わなかった
『お前は母親似だと思っていたのに!
最後だから真実を教えてやろう
お前は両親に愛されてないと思っている
だろうが、母親だけはお前を愛していた
死ぬ間際でさえ自分よりも赤子のお前の
姿を探す様だ!
お前はどんな死に様を見せてくれる?』
その真実に私は涙を流した
母は愛してくれていたのだと
物心ついた時にはもう、母は亡くなっと知らされ、写真でしか見たことなかったから
きっと愛してくれなかったのだろうと思っていた
窮地になって真実を聞かされ、私は生きなければと思った
母がくれた命をこんなところで散らしたくなかった
『私は…あなたの…思い…通りには…
ならない…わ…』
酸素が奪われていく中で、私は自分の思いを
叔父にぶつける
何を思ったのか、叔父は私の首を離した
埃まみれの床に投げ出され、私は咳き込みながらも息を思いっきり吸った
呼吸が整う頃には、叔父は自分の震える手を見つめていた
母親とその娘の諦めない意思、瞳が重なるように叔父の脳裏に焼き付くように
叔父は焦点が合わないようで、血が頭に上っており、室内に叔父の叫びが響き渡る
『ああ、やはりお前は…!
血縁というのは恐ろしい
お前だけは、私が殺してやらないと
気が済まない!』
もう一度私に覆い被さり、顔を覆っているヴェールを剥ぎ取った
ヴェールが床に落ちた瞬間、さらに詰め寄る
『お前…醜くないではないか!
その容姿は一体…!』
そう言いながら、両腕に嵌められた手袋も破るように
剥ぎ取った
ヴェールに隠された顔は爛れた顔、窪んだ両目の面影すらなかった
両腕の皮膚も、痩せ細り骨が浮き出て、老婆のようなしわしわな腕ではなく、美しく白い肌をしていた
この国で一番美しいとも言われても申し分ない容姿、美しさを纏っていた
その容姿に、王も驚きを隠せず、驚愕し歯を食いしばっていた
『ええ、醜い姫ですよ。叔父様の想像通りの』
笑みを浮かべ、ゆっくりと言葉を紡ぐ
『言ったでしょう?あなたの思い通りにはならないと
今、貴方に殺されるつもりはないわ』
どんな状況だと、彼らの思い通りにはさせたくなかった
驚きで動くことさえままならない両者だが
我にかえり、王は叔父に指示を出す
『何をしているのだ!容姿が変わっている何か
細工をしているのだろう!
気にせずやれ!』
そんな時室内の扉が勢いよく開き、彼が現れた
埃まみれの一室に、私は両手を縛られ、叔父は私に覆い被さっている始末
そしてそれを傍観しながら指示していた彼の父
その現状に誰もが驚きを隠せない事であろう
醜い姫と言われても、彼女は王族の身
危害を及ぼし、誘拐とも言える現状に
罪は重くなる事であろう
彼の入室が合図と共に兵達が王を縄で縛り上げる
抵抗しているが、王の身であっても許されない事であった
『父上、なんてことを!』
ここまで彼女の身に危害を加えるとは思わず、唇を噛み締める
だが、今は姫の安全確保が大事だ
彼が私の元へ駆け寄ろうとするが、一足遅かったようで叔父はそうはさせないと、私の喉元にナイフを当てがった
『動けばこの姫の命はない』
勝ち誇ったような目で叔父は高笑いした
彼は悔しがる様子も見せず、叔父をその目で貫き通していた
『その行為に責任は取れますか?』
皮膚越しに触れてるナイフが微かに揺れた
動揺しているのだろうか
『今ならまだやり直せるでしょう
けれど貴方の無謀な行いのせいで
私の大切な人は貴方にされたこと
すべて体で覚えています
加害者よりも被害者の方が
深い闇に落ちていくのですよ
それを貴方は、
理解した上でのことですか?』
ゆっくりと話してはいるが、その声音は怒りに満ちている じわじわと相手を威圧しているようだ
叔父は喉をゴクリと鳴らし、怖気付いたように瞳は揺れていた
『責任が取れない、というなら
今すぐ彼女を解放してください
さぁ、どうしますか?』
その言葉を合図に、叔父はゆっくりと私に突きつけていたナイフを離し、私を解放した
両手が縛られていて、方向感覚がわからなくなりながらも、無我夢中で彼の元へと走り出していた
大好きなあの人の元へ
彼は優しく私を抱きしめてくれたが
その体は震えていた
いっぱい心配させてしまった事だろう
『姫…無事でよかったです
怪我は…していませんか?』
『痛みはありますが、大丈夫です
心配かけて、ごめんなさい』
私は彼がこの場に来てくれたことに、安堵し緊張が解けたようで、そのまま意識を手放した
彼女の手が縛られていた縄を解くと
うっすらと手首に縄が擦れた後があり、血が滲んでいた
どれだけ怖い思いをさせただろう
一人で心細かっただろう
もう一度、彼女を抱きしめゆっくりと立ち上がり、兵に指示を出しその場を後にした
隠密にその場を処理したかったが、母が姫が誘拐されたことを耳にし、訪ねてきた
ベットに横たわっている姫の姿を目にして、母は驚愕していた
『王子、この子は…大丈夫なの?』
『まだ目を覚まさなくて…なんとも言えません
精神的、身体的苦痛が蓄積している
可能性があるかもしれません』
母はベットで眠っている彼女の髪をゆっくり撫でた
彼の父にも連絡したが、見舞いにすら来なかった
こちらで看病することに対しても、好きにしていい、とそれだけだった
娘が誘拐され、傷つけられたのにそんな様子になんとも言えなかった
実の娘のはずなのにと、
『母上、父のことは…』
『わかっていてよ、覚悟はできています
貴方の決断に私は従いますわ、王子』
母に恐る恐る今後のことを話そうとしたが、もう覚悟はしていたようだった
母は強い人だ 父には勿体無いくらいだが
彼にとって母は誇らしくもあった
愛のない夫婦間、それなのに夫を支えるために
努力を惜しむことはなかった
自分だったらきっと耐えきれない
父のように肩書と容姿を見るだねにはならず
母のように悲しみにくれる姿を見たくはない
父の血を引いているだけでも、嫌気が刺した時があった
母にしてきたこと、許せなかった
そんな時、姫と出会って変われた自分がいて
こんな純粋で、前向きな姫を愛したい
そう思った
だから、自分の愛した姫をこれ以上傷つけさせない
その為に彼は事を勧める
大罪を冒した者達を罰する準備を
それを実行するには彼女の意思も必要だ
被害にあった彼女にその権利はある
今は目を覚まさない彼女のことが気がかりで
仕方がなかった
彼女は夢を見た とても素敵な夢だった
父と母が自分を愛してくれる夢
その光景を見ていると、羨ましい思いと悲しい思いが溢れた
こんな素敵な幸せな家族団欒とした家庭であったら
きっとあり得たかもしれない
けれどそれは叶う事はない
私が産まれたことにより、歪んでしまったから
女神かけた呪いで、醜く産まれた姫
母はどう思ったのだろう
悲しかったのだろうか、嬉しかったのか
どんな思いで、亡くなっていったのだろうか
母のことを知ることさえできなかった私は
疑問しか生まれない
けれど一番の願いは母に会いたい、それだけだった
夢の中でだったら、少し願望を吐いてもいいかもしれない
そう思った姫は願いを口にした
『お母様に…会いたい
会っていろんな思いを…聞きたい』
決して叶うことのない願い
その願いは神様に届くのだろうか
届かなかったとしてもいい
ただその願いを口にすることだけは許して欲しい
その願いを聞き届けたのかのように
小さな花吹雪が起こり、目を開けていられなくて、目を瞑った
そして花吹雪が止んだ頃、目を開けると
綺麗な女性がいた
その女性は、姫と瓜二つの様な容姿だった
少し後ずさると、女性は私に歩み寄ってきた
ゆっくりと輪郭を確かめる様に頬を撫で、女性は優しく微笑みながら涙を流した
『こんなに大きくなって…
愛しい子、会いたかったわ』
その声に聞き覚えがあった
誰と言われてもわからないけれど、自分に向かって
我が子と言う女性はきっと
『お母様…なのですか?』
女性は頷いた そして私の頬にキスを落とす
突然のことに驚きながらも、母は慈しむように口づけを落とすので、私はされるがままであった
落ち着いた頃、母はゆっくりと語った
『私はずっと貴女を見守っていたわ
苦しくて、悲しかったでしょう
ごめんなさいね、不甲斐ない母で』
私は首を横に振る その様子に母は微笑み
優しいのね、と小さく零した
『見守っている中で、女神様が私の願いを
叶えてくださったのよ
時間は少ないけれど、貴女に伝えたくて』
女神様、私に呪いをかけた女神だろうか
呪いをかけることもできれば、願いを叶えることもできるのだろう
母が叶えたかった願いとは、何だったのだろうか
気づけば思いが言葉になっていた
『お母様の願いとは、何ですか?』
『貴女のこれからの幸せを掴む為に
貴女に会って、話をさせてほしいと』
母は亡くなっても、私を見守り続け幸せをずっと願っていたのだろう
娘の為にこれほどに思っていてくれる母はいないと、そう思った
『私も…ずっと思っていました
お母様に会いたい、会ってお話ししたいと
どんな人だったのか、知りたかったです』
『私のことね、大した話ではないのよ
けど、今の貴女にはとても大事なこと
なのかもしれないわね』
そして母は語り出した
私が産まれて母が亡くなるまでのことを
母と父は国の為の政略結婚であった
けれど、それは形式上のことであり
父は母に惚れ込み、プロポーズしたことで婚姻したのだった
当時、そんな父に母も微笑ましく、この人と添い遂げたい、そう思い受け入れたのだった
お互いに支え合い、慈しみ、愛し合っていた
後に子供を身籠った時は、嬉しくてどんな子が産まれてくるか、二人で楽しみしていた
けれど産まれた子を見た途端、父は顔面蒼白だったそうだ
『呪われた子が産まれてしまった』と
そんな赤子を抱き、母は父に懇願したそうだ
どんな姿でも我が子には変わりない、と
それを聞いても父は否定しかしなかった
世間の目を気にし過ぎて、我が子を見ることすらしなかったのだ
母はそんな私を胸に抱きながら、毎夜泣いたそうだ
『ごめんね、不甲斐ない私で…
こんな姿で産んでしまってごめんね
どんな姿をしても私の子よ
貴女を愛させてちょうだいね』
何度も自分に言い聞かせるように、赤子に語りかけた
自分だけはこの子を守らなくては
愛したいと思った
けれどそれは長く続かなかった
彼の兄や親戚達が圧をかけてきたのだ
醜い子を愛してどうする、捨てた方がこの子と国の為になる、また身籠ればいいと
誰もが自分の子を否定した
唯一の味方だと思っていた夫にも見放され、母の心はもう限界だった
けれど子供を愛に注ぐごとだけは、やめなかった
子供に罪はない
産まれたことだって、奇跡に近いのだから
どんな状況だとしても、ずっと赤子を抱き、命が果てる瞬間まで子供にぬくもりを、言葉を、子守唄を聞かせ続けていた
子供より先に命が散ってしまうことが、とても悔しかった
この子の成長を見届けたい
そんなささやかな願いすら叶わない
たとえこのまま命果てても、見守る事はできるだろう
空の上で
『どうか、貴女に幸福があらんことを
そしてあの人が私の分までこの子を
愛してくれますように』
その願いは叶う事はないかもしれない
けれど祈る事は自由だから
母は自分の命が尽き果てるその瞬間まで祈ることをやめなかった
『欲を言えば、最後に…あの人と…
この子の顔を見て…朽ち果てたかった…』
そして瞼を閉じた
最後の瞬間は、幸せなそうな笑みを浮かべて
苦しんだ死に顔は見せたくなかったから
生を全うした、そんな表情で逝きたかったから
天に召された後も、心残りのせいか
私は亡霊のように城にいることができた
夫は私が亡くなった日から、変わってしまった
けれど、私を思い続け嘆き続けており
なんとも言えない気持ちになった
私はここで貴方を見守っている、そう言えれば
どれだけよかっただろう
亡者のような今の自分は、何もできない
ただ、寄り添って見守ることしか
それしか、叶わないのだ
母の話を聞き、私は涙した
ずっと母に愛されないでいたと、きっと恨みながら逝ってしまったに違いないと
けど、違ったのだ
母だけは私の味方でいてくれて、私を愛してくれた
それが嬉しくて、私は母に抱きついた
抱きつきながら、子供のように泣いた
母はそんな私に、慰めるように髪を撫でてくれた
その温もりだけでも涙腺が崩壊していく
これは悲しい涙じゃない、嬉しい涙だから余計に心に響くのだ
思いっきり泣いた後、母は一瞬ためらかったように見えたが、ゆっくりと口にする
『貴女は、お父さんのことどう思ってる?』
お父様、ずっと視界に入らないようにしてきた
それが最善だと思った
私と話す時も目線を合わせることもなかったから
『…わからないです
ずっと関わるのを遮断されて、知ろうとも
しなかったから…』
『あの人はきっと、貴女と関わるのを
怖がっているだけ』
『お父様が…?そんなわけないです
だって好きにすればいいって
言うだけで…』
俯きながら否定すると、母が首を横に振った
『あの人は臆病なの 口では娘じゃないって
言ってる割に、心と体は理解してるのよ
そして貴女に関わりたいと思っている
顔によく出るのよ、あの人』
懐かしむようた小さく微笑む母
『言葉も足りないのよ
私に対してもそう、だから余計に
あの人は後悔してると思うの
貴女にしてきたことを、悔やんで
自分を責めてる、私のことに対してもね』
そんな母の言い分に理解できなかった
けど父のことを知らない私にとって、否定することはできない
父のことを愛している母だから、理解できることなのかもしれない
『お父様は…私と向き合ってくれますかね』
自信なさげに言うと、母は笑顔で頷いた
『貴女がほんの少し勇気を出せばきっと
あの人も答えてくれるはず
いままであの人がしてきたこと
許せとは言わないわ
けれど、あの人は貴女のことを娘として
見てること、それだけはわかってほしい』
小さく頷くと、母は寂しそうに微笑み
『もう時間みたいね』
すると母の姿がどんどん透けていった
手を伸ばすが、先ほどまで触れ合った感覚がなくなるように、すり抜けていく
虚しさと焦りが私の中で燻るようだ
『嫌です、せっかく会えたのに
さよなら、したくないです!』
『愛しい子、別れは必ずあるものよ
それが私と貴女には早すぎただけ
私はいつでも貴女を見守っている
それを忘れないでね』
涙目になりながらも、頷く
そして最後に母は、優しく私を抱きしめ
耳元で囁いた
私の本当の名前を
『さぁ、貴女を待っている人がいるわ
夢から覚める時間よ
愛してるわ、ずっと
必ず幸せになりなさい』
『お母様、大好きです
私絶対にお母様のこと、忘れません!』
母は透けていてわずかに見える程度になってしまったが、その表情は笑顔で美しかった
それが母と最初で最後の思い出だった
涙が流れる感覚と、誰かが私を呼ぶ声を聞き
私は瞼を開けた
最初に訪れた感覚は小さな痛み
けれど、次の瞬間優しく手を繋がれた
目覚めたばかりで朧げだが、その手の温かさで誰なのかわかった
『姫、目が覚めたんですね
よかった…ほんとによかった』
彼は少し涙を浮かべていた
とても心配させてしまったらしい
ゆっくり身を起こそうとすると、彼が背を支えながら起こしてくれた
『ありがとうございます
心配、かけてしまいましたね』
『いいんですよ、貴女が目覚めてくれた
それだけで私は十分です』
彼なりの優しさに私はとても嬉しかった
そして私は医者から簡単な検査を受けた
首元には小さな青あざ、手首には身じろぎした時に縄で擦れた後で怪我を負ってしまった
医者からは安静にしてれば治るとのこと
私はあの日から2日ほど眠っていたらしい
目を覚ましたと聞き、お義母様はすぐに駆けつけてくれて、私の姿を見た途端泣いて喜んでくれた
きっと、たくさん心配してくれたのだろう
お義母様の耳飾りを失くしてしまったことを謝ると
そんなものいいのよ、貴女が無事でよかった、と
私も嬉しくて、もらい泣きしてしまった
耳飾りを落としたことによって、私の捜索が早く進んだらしい
目撃者もいて、彼らに気づかないように尾行したら
案の定、眠った姫が運ばれることを目にした
さらに、二人が事を進むように、唆した者もいたらしい
その人物については何も言われなかったが、きっと私を憎いんでいる人に違いない、そう思った
王子は、唆した人物を知り、さらに嫌悪感を拭えなかった
人物に対しての証拠は揃っていた為、行動に移した
その人物は、彼の幼馴染だ
突然の訪問に、彼女は疑いもなく受け入れた
その瞳は、期待に満ちていた
まだ、自分の思い通りになると、希望を捨ててはいないのだろう
『急な訪問、受け入れてくれて感謝いたします』
『嫌ですわ、遠慮なんていらないです
私と、貴方の中じゃありませんこと』
『そうですか、では本題に入りましょう
貴女が、姫を抹殺しようと我が父に進言されましたね
さらに、姫に対しての嘘の証言を言い放って』
その話に、彼女は顔が徐々に青白くなっていき
作り笑いの笑顔もなくなり、視線も彷徨っている
いかにも、動揺を隠せないようだった
『な、何を言っているのか
分かりませんわ
私があの、醜い姫を抹殺?あり得ませんわ!
言いがかりはよして』
『証拠はありますよ、王と文のやり取りをしていた
みたいですね
私との婚姻の為の賄賂等、貴女には軽蔑の目でしか
見えないですね』
冷めた瞳で、声音で、言い放つ
彼女は、体を震わせるだけ
すなわち、肯定のようなものだ
『貴方がいけないのですよ、私の婚姻を断って!
私が貴方を好いていたのご存知でしょう?
それなのに何故!?』
彼女は開き直って、不満を言い放った
『将来の伴侶は貴女じゃないと、
何処まで頭がお花畑なのですか!?
国の為の結婚、それが一番お互いに利益をもたらす
なのに、貴方は醜い姫を欲した
私には考えられません!理解できない!
私が貴方を一番知っている、理解しています
あんな姫を消せれば、きっと貴方は目が覚める
そう思っていたのに…!』
ああ、彼女はどこまで自分勝手なのだろう
自分の思い通りになると疑わず、幼馴染という関係だから好きになるのは当然、婚姻もそうだろうと
そんな下心丸見えな彼女を、選ぶわけないのに
私はあの子がいいのだ
純粋で、怖気付くが、心の強さは人一倍あって
私が守りたい、幸せにしてあげたいと
そう思った
『言ったはずですよ、私は貴女を選ぶことはありません
この先も、生まれ変わっても』
そして兵に任せ、彼女を捕らえた
幼馴染とはいえ、許されない犯行をした
彼女は、まだ諦めきれなくて連行されながら
どうして!と泣き喚いていた
きっと彼女は反省することなどないだろう
生まれ変わってもまた、何度も繰り返すことだろう
これは、天罰が下ったのだ
姫が眠ってる間、目を覚めてからも
いろんなことが起きていたらしい
彼の父と叔父は共犯者として捕らえられており、今は牢屋に入れられているらしい
私の父は、一度伯父と話をする為に訪れた
その時に私の見舞いに来ることはなかったらしい
あの事件は私は衝撃的だった
今でも思い出すだけで体が震えかける
叔父がそんな目で私を見ていたと
今まで殺す機会を伺っていた
その事実が怖かった
きっと彼と出会うことがなければ、私はあのまま殺されていたのかもしれない
叔父の思い通りのままに
彼が私を変えてくれた
だから私は自分の意思でここに立っていられる、前に進める
そんな些細なことが私にとっては大事な一歩でもあった
だから私は、もう一度前に進もうと思う
夢の中であった母の言葉を信じ、父に向き合うことに
私にとって父は関わってはいけない、そう思っていた
父も私と関わることはせず、お互い干渉し合わなかった
それがいけなかったのかも、親子として向き合うべきだったのかも
だから、父に聞きたい 本当の思いを
少し怖いけど大丈夫、母の思いが勇気をくれたから
父は断ることもなく、私に会ってくれた
けれど父は私に目をくれず、視線は私をとらえてくれなかった
『お父様、ご迷惑をおかけしました』
父は私の言葉を発した途端、その瞳に私をとらえ驚きを隠せない様子であった
この容姿の私と接するのは初めてだ
今はヴェールも手袋も、身を覆うことない姿
本当の私を父に晒している
見違えるほどの我が子に、どういう反応をするのだろう
『…やはり、お前は私とあいつの子だな』
懐かしむような瞳でこちらを見て、小さく微笑んだ
父はゆっくりと立ち上がり、私の頭のてっぺんから足の爪先まで、じっくりと観察するように見た
こんなに見られるのは初めてで、どうすればいいのかわからなかった
父は壊れ物を扱うように、恐る恐る私の頭を撫でた
優しく、不慣れた仕草に安心した
初めて、父の温もりに触れた瞬間だった
こんなに父の手は大きかったのだと
そしてずっと聞きたかったことを問う
『…お父様は、醜い私でも愛していましたか?
私を娘と、思ってくれていましたか?』
申し訳なさそうに、父は本音をゆっくり溢した
『…お前が産まれた時、現実を受け入れずに
否定した 俺の子ではないと
受け入れらなくて、考えなくてすむように
仕事に没頭した
その結果大切な、最愛の妻に先立たれ
間違えてしまったと、そう思った』
父は悔しそうに、言葉をゆっくりと紡ぐ
当時のやるせなさが心に響くようだ
『成長していくお前を見て
あいつが最後まで守ろうとした
かけがえのないものを今度こそ守ろうと
その為に、お前に干渉せず酷い扱いをした
王として、父としていや
人として最低なことをした』
唇をかみしめて、過去を懺悔しているようだ
そしてを意を決したように
『わかってくれとは言わない
けど、お前を守る為にしたことだ
あいつとは違うやり方で、
お前を愛し、守りたかったんだ』
父の思いを聞いて、胸の中に渦巻いていたもやが取れたようだ
父のこれまでの態度は、干渉すればするほど私が危険にあうと思ってしたことで
私は愛されていた 見捨てられていなかった
母の言っていたことがわかった
父は言葉足らずで、けどその不器用な優しさがとても嬉しくて言葉にできなかった
『…ちゃんと、言葉にして欲しかったです
私…ずっと愛されてないと…思って…
お父様にとって、私は…いらない子…だと…』
『すまなかった、酷いことをした
これからちゃんと、言葉にするから
今からでも、遅くはないか?
お前と、父と娘の関係を築くことを
許してくれるか?』
一番欲しかったもの、憧れていたもの
父と母に囲まれて、親子としてのぬくもりを感じたかった
きっとあったかいものなんだろうなと、子供ながらに想像していた
城の窓から見える親子風景を見ると
羨ましかった
父と母に抱かれながら、子供は無邪気に笑っている
私は嬉しくて、涙を流しながら笑った
『はい、お父様…
私もお父様と、娘と父の関係築きたいです』
流した涙の光景はぼやけてみえなかったが、
父は私を優しく抱きしめてくれた
すまなかった、と何度も謝りながら
その時私は思った
親子というものは、あたたくて嬉しくて
時には涙もあるけれど、笑い合え、支え合う関係なのだと
それは親子の絆と呼べる関係なのかも知れない
見えるものだけが全てじゃない
見えないものにも、愛というものがあるのだと、私はこの時知った
しばらく父と話をした。父と娘の会話を
話をしてるうちに私は叔父のことを聞いてみた 父の兄の話を
『お父様は、叔父様のことをどう思って
いらっしゃいますか?兄なのでしょう?』
気まずそうに、父は私から視線を逸らした
あの事件について、気を遣ってくれているのかもしれない
『あの事件のことなら、大丈夫です
だから、話してください』
まだ完全に吹っ切れてはいないが、叔父のことを知らなくてはいけない、そう思った
父は恐る恐る言葉を口にした
その話は決していい話ではないと物語るように
『私の兄は…とても歪んでいた人だった
虐げられている人を見ながら微笑み
家族以外を見下していた 家畜のように
そして美しい侍女が城にやってくると
…事に及んだ
その事に私の父は兄を後継者に選ばず
私に全てを一任した』
当時を振り返るように、父は遠い目をしていた
『兄はその事に腹を立てた
あの頃からきっと、私を憎んでいたの
だろう
そして国を売った 王族として
恥ずべき事だ
あの人は兄ではなく、犯罪者だ
お前にも危害を加えた
父として、許せないのだ』
歯を食いしばる父を見て、こんなに怒ってくれるのだと
不謹慎であるが、嬉しく感じた
『叔父様とは、お話をしたのですか?』
『…ああ、兄は全て受け入れると
自分が犯した罪を全て
きっとお前の愛した人の言葉が
心に響いたのだろうな
そして気付かされたと、過ちに気付いたと
そう言っていた』
愛した人の言葉、それは彼しかいなかった
あの時、彼は言葉だけで叔父を圧倒していた
そんな彼の強さに、私も惹かれたのだ
自然に笑みを浮かべていて、父もつられたように微笑んでいた
『微笑んだ顔が、妻に似ている』
『お母様に?』
『ああ、とても笑顔が素敵な人だった
どんな困難な時も笑顔を絶やさなくて
最後の時も微笑むようにして逝った』
懐かしむように父はゆっくりと亡き母を語った
最愛の妻を亡くして、父はどれだけ悔しかったのだろう
その悔しさがあってこそ、私に結びついて
見守りながらの愛を注いでくれた
『お母様はきっと見守ってくれていますよ
きっと』
『…そうだな』
あの夢の出来事は私とお母様の秘密
お空の上ではお母様に見守られ、地上はお父様に愛されている
私は幸せ者だ
『お前は、王子と結婚するのだろう?』
急に婚姻の話を振られ、私はゆっくりと頷く
『近々挨拶に行くと、伝えておいてくれ
少し早いかもしれないが…
幸せになりなさい』
思いを言葉にしてくれたことが嬉しくて
私は舞い上がったように、父に抱きついた
父は頬を少し赤らめていたが、悪い気はしないようで、その手はとても優しくてあたたかった
言葉って本当に素敵なもの
父からの祝福の言葉を受け、私は嬉しくて
急いで父の言伝を彼に伝えようと駆け出した
こんな気持ちは初めてで、嬉しさを体で表現したいくらいだ
けど、それ以上に父から祝いの言葉をくれたのが一番嬉しかった
彼の元へと足を運ぶと、城は少し緊迫した空気だったが気にせずに足へと踏み入れた
彼は私に気づくと、ゆっくり微笑んでくれた
けれどいつもとは違う雰囲気に、違和感を感じた
何か邪魔をしてしまったのかと思い、少し怖気付いてしまう
『あの…私お邪魔してしまったかしら
当然の訪問でごめんなさい
日を改めたほうがいいかしら…』
『いいえ、そんなことありませんよ
姫に会えることは私にとって幸せなこと
一分一秒でも長くいたいくらいです』
私は彼のときめく言葉に、微笑む
それに答えるように、彼は私の髪に口づけを落とす
もう隠す必要はなくなった
あの顔を覆うヴェールも、肌や髪に染粉を塗ることもやめた
あの事件のせいで、叔父によってヴェールと手袋は使い物にならなくなってしまった
彼が私に初めてくれた贈り物なのに、と
物をずっと大切にしているので、大事なのものが無惨な姿で手元に返ってきた時はとても悲しかった
そんな心情を知ってなのか、彼は贈り物と言葉をくれた
『そんなに大事にしてくれて私も
この子達も喜んでいますよ
そして、これは区切りではないでしょうか?』
『区切り…ですか?』
小さく頷き、彼は私の髪を一房手に取り告げる
『新たな自分を、周りに見てもらう為の
その為に、この子達はそうなる運命だった
物にも役割はあります、この子達は役割を
果たしたに過ぎないのです
そう考えられませんか?』
彼の考え方がとても素敵で、私は嬉しかった
けれど、私にとって宝物だったものとお別れするのはとても寂しくて、中々決断ができない
悲しくて涙が出てきそうになった時、彼は私に新しい贈り物をくれた
『姫、泣かないで。これを』
王子は、私の髪に飾りをつけてくれた
オレンジ色の綺麗に花を咲かせたガーベラ
自分の髪色と合っていて、それが自身を引き立たせて
いるかのよう
『やっぱり、とても似合っていますよ
花の一つ一つ、素敵な花言葉が込められています
色によって異なりますが
姫にはとてもこの花がしっくりきますね』
『なんていう、花言葉なのですか?』
『前向き、常に前進
そして、あなたは私の輝く太陽』
『とても、素敵な言葉ですね
私には勿体ないくらい…』
その言葉に、彼は首を振り私の言葉を、違いますよ
と言い、私の頬を撫でる
『私にとって貴女は勿体ないと、そう思ってしまう
けれど、今更手離すことはできないのです
貴女は私の輝く太陽、求めずにはいられません』
そして、彼は私の瞳を見つめ口付けをしようと
瞳で意思を伝えている
『私も、貴方を離すことはできないです
この気持ちを、恋を、愛を知ってしまった以上
貴方を愛することしかできません』
そして彼に抱きつくようにして、自分から口付けをした
けれど、彼はしっかりと私を抱き止めてくれて
口付けも軽く触れるものから、欲情のある口づけへと
変わっていった
あの事件がきっかけで、国中が私の容姿について知れ渡ってしまったらしい
醜い容姿は偽りだったと
この緊迫した空気もおそらく、あの事件が原因なのかもしれない
首謀者が彼の父、それも王様だから
民も混乱していることだろう
国を統べる王が、隣国の姫に危害を加えた
国中を揺るがすことは、間違いない
その事について、以前彼から意見を委ねられた
私はこの人達をどうしたいのかと
被害者である私だからこそ、決める権利があると
私は争いを好まないし、大罪を犯した方々を
どうすればいいのかもわからない
けれど罪を償わず、表に出すのもよくない
彼らに与える罰は、どうしたらいいのだろう
今私の中では結論は出ないが、彼らと対話をする事で
何かが変わると思い、私は彼に進言する
それを彼に伝えると、渋々だったが了承してくれた
彼の付き添いのもとで
彼らが捕えられている牢は、薄暗居場所だった
私が誘拐された場所よりも酷い場所
小さな蝋燭の灯りだけが、頼りだった
少しの隙間風がこの牢を肌寒くさせていた
彼が立ち止まるとそこには、彼らがいた
私が来た事に驚きもせずに、ただ無表情で見つめるのみ
様子を伺っているようにも見えた
私はゆっくりと深呼吸をして、対話を試みた
『単刀直入に聞きます 何故私を誘拐したの
ですか?』
王はゆっくりと、掠れたような声で言い放つ
その声音は憎悪も含まれているよう
『お前は王子に相応しくないからだ
肩書きと容姿は大事だ
そこに愛というものはいらない
私がかつてそうだったように
王子にもそれが必要だ』
自分がそうだったように、息子にもそれが当然のように言い張る
『お義母様についても、それだけで決めたのですか?
とても可哀想です
貴方に愛されることを夢を見て、一生支えることを
覚悟して嫁いだのに、貴方は騙したかのように
お義母様の一生を貰ったようなものなのですよ?』
お義母様の過去の話を聞いて、私は王に申し入れたかった
まるで、囚われの身のような人生だと思ったから
幸せを夢見て嫁いだのに、愛すことはないと
拒絶されるなんて、耐え切れることではない
『…王妃には言ってある
それでもあいつは離縁という選択もしなかった』
『それは言い訳にすぎません、貴方は人の情という
ものがないのですか?』
心当たりがあるのか、お義母様についてはもうそれっきり言葉を発しなくなった
『貴方の言い分は疑問しか浮かびません
王とは言え、それを従わなくてはいけない
その必要性、権利はないと思います
貴方がそうであったとしても
彼にもそうする必要がどこにありますか?』
思ったことを言葉にしただけだが、それが癪に触ったのか、王は声を張り上げた
『知ったような口を聞くな!
今まで容姿を隠してたようなお前なんかに!
どうせそれも王子を自分のものにしようと
いう策略なのだろう?
私は騙されないぞ!』
王の声が薄暗い牢に反響する
小さな蝋燭の灯りが、ゆらゆらと揺らめいている
私はその声に動揺せずに、真っ直ぐに王を見つめる
『あなたが私をどう思おうと構いません
確かに私はあなたに、私と彼の婚姻を
認めてもらいたかった
その為に、容姿を偽ったのは謝罪します
けれどそれは私と彼で決めたことです』
一呼吸置いて私は、当時の思いを
物語るように
『私は、容姿だけで認められたくなかった
私自身を見て欲しかったから
偽ったのです
けれどあなたは、私自身、言葉を
受け入れることはなかった
全てを否定しましたよね』
『…』
『人は一人一人、心、意思を持っている
それが人としての素晴らしい生命です
価値があります 容姿、肩書きだけが
全てじゃない
それをあなたに理解してほしかった
王としてではなく、彼の父として』
そう彼女は、彼の父として認めてほしかった
だから、容姿は偽りだったとしても
心、言葉は真実であった
けれど彼女の言葉は、彼の父の心には届くことはなかった
冷たい牢の空気が私の心に凍てつかせるようで心が少しずつ痛み出して、結局彼らの処遇の答えは出なかった
けど彼はゆっくりと私の気持ちを汲み取るように、抱きしめてくれて
『大丈夫です、貴女はよくやりましたよ
姫には私がついていますよ』
いつもならその言葉が胸を温かくするのに、
今の私の心にはその温かさは届かなかった
何をすべきかわかったが、それを実行するには彼に頼るしかなかった
彼に頼ると嬉しそうに微笑んだ
私に頼られたことが、とても嬉しいらしい
私が実行しようとしていることは、きっと他人の目で見たら、甘いと言われるだろう
けれど、その結果何か得られて、変われるなら
私はそれが一番いい
誰か悪いことをしてしまい、その人を正すという名目で受ける罰
罰には代償が必要
だけどその代償は、人によっては悲しみに溢れるものであるのかもしれない
容姿や肩書きしか見ない、彼の父には
きっと今まで見ようともしなかったものを、
与えることで変われると思う
人々が集まる中で、彼の父は罰を与えられる
民は、見守るように見る人や、暴言を吐いたりなど様々だ
私と彼が姿を現すと、その場が静寂に包まれた
深く民に礼をして、罪状を読み上げる
皆、信じられない表情で私たちを見ていた
『王よ、私は貴方の、王としての権限を
全て剥奪します
そして、貧困の村に移住してもらいます』
王は憎たらしい目で、私を睨みつけていた
きっとこの人は、一思いに殺して欲しかったのだろう
けれど、その願いは叶えてあげない
『貧困の村で監視のもと、貴方に知って
欲しいのです
人の素晴らしさを 支え合う心の強さを
それが私が貴方に求める罰です』
王は、何も言わずに後日、貧困の村へと送られた
王という立場であっても、彼はきっと人に触れる機会がなかったのだと思う
書類上に記載されている内容を見るだけで
その場を見たわけではない
だから、その場所を自ら経験し触れることで
きっと理解し合える
人は理解することで、変われるのだから
私は王が乗った馬車を、見えなくなるまで見送り続けた
『大丈夫ですよ、きっとわかってくれます
私が貴女に惹かれたのと同じように
きっと』
彼の手は力強く、支えてくれた
私はその手を守られるだけではなくて、同じような立場で支え合うような関係を作っていきたい
貧困の村へと移住し、1ヶ月が過ぎた
最初は何故このような場所へと不満はあったが、貧困の者たちと暮らして理解できたことがある
生きる為には食事が必要だ
その食事は、民の一人一人の苦労と汗で
できているのだと
城にいた頃は、三食食事がつく
けれどここでは、作物次第で決まってくる
1食だけで1日を満たすのが日常で
余裕があれば2食だそうだ
飢えることは日常茶飯事
私はこんな大事なことを忘れてしまっていたのだ
作物を育てる民がいるからこそ、国が成り立つ
民に安心して暮らしてもらう為に、王は彼らに貢献し、援助しなくてはならない
そんな大事なことを、ここにきて知った
王を剥奪されて知ることになるとは、思いもよらなかった
かつて、自分も民に寄り添おうと努力した
けれどそれは上手くいかず、私は逃げ出したのだ
『私は…間違っていた
これは私が…目を背け続けていた罰だ』
今ならわかる、あの娘の言葉を
これを伝えようとしていたのだ
あの時の自分を恥じた 娘は私にこれを伝えようとしていたのだ
それを私は身に沁みて、知った
謝罪をしたい
謝罪をして、感謝の言葉を
そして虫が良い話かもしれないが、私ができなかったことを、叶えて欲しい
民に寄り添える、王でありたい
王として、民としてではなく
一人の人間として寄り添え合える存在に