世の中には、人を見た目で判断する人が多くいる。
そのなかでも私黒澤希々(くろさわきき)は中学三年間『ブス、醜い』と言われ続けてきた。
だが、そんな私でも今では高校生になって、『ブス』などと言われなくなったのだ。

◇◇◇

ピピピ、ピピピ

部屋中にアラーム音が響く。現在の時刻五時半だ。
ゆっくりと体を起こし、目を擦る。二度寝したい気持ちをグッとこらえて一階へ降りる。

朝食を済ませ顔を洗ったら、また二階の自分の部屋へと戻る。

「……まずは二重から」

学校に行くための私を作る。

重たい一重を、無理やりアイプチで二重にする。
カラコンを入れる。
瞼にアイシャドウを乗せる。
存在感のある鼻をシェーディングで小さく見せる。
ヘアアイロンで髪をストレートにする。

準備が終わった頃にはもう、八時前だった。

「やっば。もう行かないと遅刻だ」

二時間以上かけてメイクをする。メイクというより芸術に近いと自分でも思う。

お母さんが作ってくれたお弁当と百匹以上の猫をかぶり家を出る。

走っても崩れない前髪は私の命そのものだ。

ギリギリ間に合った私は、急いで教室に入る。

「「おはよーヒロインちゃん」」

二人の声が聞こえるとクラスの大抵の人は私の方を見る。

「ヒロインちゃんだなんてやめてよ星璃(あかり)陽葵(ひまり)

入学初日に声をかけてくれた二人と私は行動を共にしている。

「おそかったねー」

「出るの遅くなったから、本当に遅刻するかと思った」

私はクスクスと笑いながら陽葵に答える。

四時限目が終わるとクラスメイトは私の席に集まる。

「希々ちゃん!今日もヒロインすぎる可愛い!ところで一緒にご飯たべない?」
「ききちゃん。僕たちのところで食べようよ!」
「ききちゃーん今日こそ私たちのとこに来てよ」

女も男も関係なしに人々はやってくる。

「ごめーん。今日もききはわたしらのとこで食べるから」

いつも通り星璃が私の手を引いて陽葵の所まで連れ出してくれる。

「いつもありがと」

「べつにいいよ」

星璃が素っ気ないのもいつも通りだ。

三人で昼食をとる。

「きき今日もヒロインって呼ばれててウケる」

「てゆーか。最近デビューしたKーPOPアイドルやばくね」

「それな。顔良すぎてみんな好きだわ」

「ききもそう思うよね」

陽葵が尋ねてくる。

「う、うんそうだね」

私は、KーPOPを知らないと言うより、興味が無い。
中学生の頃は、ボカロやアニメなどしか見ていなかったため、アイドルグループの知識が全くと言っていいほどない。
だが、ここで話しを合わせないと捨てられてしまうかもしれないので私は知っている振りをする。

地獄の昼食も終わり五時限目の準備を始める。

学校中にチャイムが響きわたる。

「授業始めるぞー」

という先生の声で、「起立、礼、着席」という係の声が聞こえる。

「さようならー」

という声が聞こえたら学校も終わりだ。

本当は一目散に家に帰ってアニメを見たいとこだが、ハブられないようにするには星璃と陽葵について行かなくてはならない。

「きき今日は北高の生徒が来るって」

「あっそうなんだ。りょーかい」

いつも通っているカラオケに今日も行き、意味の無い時間を過ごす。

「ききって名前かわいいね、てか顔もまじタイプだわ」

「えーそんな事ないですよ」

チャラ男の相手なんてしたくないが私は猫をかぶり【ヒロイン】を演じる。

やっとの思いで解散して家に帰る。

「ただいまー」

「おかえり」

というお母さんの声が聞こえたと同時に玄関で靴と一緒に猫もぬぐ。

お父さんが座っているがお構い無しに、ソファーに寝そべって、ご飯を食べお風呂に入る。
そして寝る。朝起きてメイクをして、猫をかぶって学校に行く。代わり映えなんてしない毎日だ。

そしていつも、やっぱり家が一番だななんて思う。