〖2025年7月〗
ミーン、ミンミーン。
遠くから蝉の鳴き声、涼しげな川のせせらぎ、走り慣れた河川敷。揺れる自転車のカゴの中には君の好きな天然水のペットボトル。
連日、災害級の暑さが続いていると今朝のニュースでやっていた。都心から少し離れたこの町も同じ。
スノーホワイトのブラウスが汗で肌に纏わりつく。お気に入りの君が褒めてくれたレモンイエローのロングスカートがひらひらと風に靡く。
猛暑の中、自転車を漕ぎながら君を探している。
居場所は分かっている。だって、ほら。君は今日も初めて出逢ったあの場所にいるから。
「…見つけた。」
照りつける太陽の下に無造作に置かれた見慣れた自転車。視線を少し左下にずらすと河川敷の日陰で参考書を読んでいる君が目に入る。穏やかな川風に目に掛かる前髪と空色のTシャツがはらりと靡く。
気付かれない距離で自転車から降り、ハンカチで額の汗を拭いて、スマホを見ながら髪型を整える。深呼吸をして、平静を装って、いつもの笑顔で。
「夏空ー!」
君の名を呼ぶ。君はハッと参考書から顔をあげて、立ち上がる。
強い風が吹いた。まるでスローモーションみたいに。川の水面が真夏の太陽を反射して宝石のようにキラキラ煌めきながら君を照らし出す。君は笑顔で手を振り、こう呼ぶの。
「姉ちゃん!」
君は青野 夏空。高校3年生。血の繋がらない弟。そして、私の初恋で最愛の人。
この恋は誰にも知られてはいけない。もちろん君にも。決して叶うことのない秘密の片想い。