太陽の光が視界を白く染める。まぶたをそっと持ち上げると、慣れない景色が広がった。
 ここが遠征先のホテルだというのはすぐに思い出した。どうやら、要と盃を交わした後、美澄は自分の部屋に戻らずそのまま寝てしまったらしい。
 まだ動き出すには早い時間だったが、二度寝をするには余裕がない。なんとなく落ち着かなくて寝返りを打っていた音がうるさかったのかもしれない。要がううんと唸って布団から這い出してきた。
「……みすみ?」
「すみません、起こしちゃいましたよね」
「……あさ?」
「はい。朝です。でもまだ早いですから、寝てて大丈夫ですよ」
「ん、いや、起きるわ……っつか、なんか頭いてー」
「ああ、昨日お酒飲んだからですかね」
 かなり弱い体質だったことが判明したから、少量でも二日酔いになる可能性は大いにある。
 要はゆっくりと起き上がると、手で口を押さえて大きなあくびをした。指のすき間からちらりと覗いた八重歯にドキッとする。厚めの唇に昨晩の口付けを思い出して、美澄は思わず目を逸らした。
「酒……あー、飲んだか。桃のやつ。あんまり覚えてないけど……美澄、俺大丈夫だった?」
「えっ……」
「ベロベロに酔って悔しくて大号泣とか、恥ずかしいことしてねーよな?」
「大丈夫です。泣いてませんでした」
 キスはしましたけど。しかも、ディープなやつを。よかったー、とふわふわ笑う要を横目に、心の中で呟いた。
「朝飯まで時間あるなぁ。シャワー浴びて、ちょっとランニングすっか。美澄も一緒に行こ?」
「あ、はい。付き合います」
「慣れない場所走んの、結構好きかも」
「俺もです。一旦部屋戻って、シャワー浴びて着替えてから戻ってきますね」
「あいよ」
 部屋の鍵を手に廊下に出ると、頬に熱が集まるのを感じた。心臓が大きな音を立てている。手でパタパタと頬を扇ぎながら、カーペット敷きの廊下を歩く。
 要の前では赤面しなかった自分を褒めてやりたかった。美澄だけに教えてくれた秘密。深い口付け。強さの中に秘めていた弱さも全て、美澄を魅了してやまない。まあ、本人は覚えていないのだけれど。
 どうしてキスをしたんですかと、本当は聞きたかった。だって、好きとは言われていないから。この人は、自分をどう思っているのだろうって。