獣道の果てに

 まだ理玖より幼かった頃、家でよく『ワイルドプラネット』を観ていた。登山好きの父さんが流していた、野生動物の生態を追うドキュメンタリー。なんとなく眺めているうちに、いつの間にか自分のほうがハマっていた。

 特に衝撃を受けたのは、アマゾンに棲むオウギワシという鳥だ。

 銀灰色の羽、扇のようなトサカ。顔つきは凛としていて、それでいて妙にあどけない。

 だが、獲物を狙うときのあの迫力——。

 枝の上でじっと獲物を見据え、次の瞬間、翼を大きく広げて飛び立つ。両翼を広げたときの全長は、なんと2メートル。その体躯で空を裂くように躍動し、十数センチの鉤爪で獲物を一撃で仕留める。

 ただただ、圧倒された。

 ——そして今、まったく同じ衝撃を受けている。

 マウンドに立つ世良が、両腕を大きく広げ、大地を踏み締め、思い切り腕を振り下ろしたとき——まるで羽が生えているように見えた。

 オウギワシが、そこにいる。

 ドッ と、球場がどよめく。その瞬間まで息をするのを忘れていた。

 電光掲示板に青いランプが点る。

 初球はボール。だが、150キロ。

 今大会最速の、“野生” の剛速球だった。