夏が終わり、河畔の空気はほんの少し肌寒くなっていた。僕は今日も、いつものように二人を観察するためにこの場所にやってきた。風に揺れる木々の葉が、かすかに色づき始めているのが目に入る。時の流れを感じさせるその光景に、僕は少し物悲しさを覚えた。

彼らはいつものように、タイル張りのデッキに座っていた。今日の女の子は薄いピンクのワンピース姿で、髪を軽くまとめている。男の子はいつもの青いシャツに、ジーンズという出で立ちだ。二人の間には、いつもより近い距離感があるように見えた。

風が僕の方向に吹いてきた時、断片的に二人の会話が聞こえ始めた。
「あれからもう10年も経つのね」女の子の声には、懐かしさと少しの寂しさが混ざっているように聞こえた。
「そうだな。幼稚園からずっと一緒だったもんな」
その瞬間、僕は重要な事実を知ったような気がした。彼らは幼馴染なのだ。そう思うと、これまで見てきた二人の自然な雰囲気や、言葉にならないコミュニケーションが、すべて腑に落ちた気がした。

風の向きが変わり、しばらく会話が聞こえなくなった。その間、僕は自分の過去を思い返していた。幼なじみといえば、僕にも小学校からの親友がいた。でも、高校に入ってからは疎遠になってしまった。人と人との関係は、時として儚いものだ。そう思うと、目の前の二人の関係が、より特別なものに思えてきた。
それで高校2年の時、同級生の女の子に恋をした。でも思い切って告白したが玉砕した。
そんなことを考えていると、再び二人の会話が聞こえてきた。

風が再び僕の方向に吹き、断片的に会話が聞こえてきた。
「でも、これからどうなるんだろう」女の子の声には不安が混ざっていた。
「一緒に考えよう」男の子が答える。
「これまでもずっと一緒だったんだから」
その言葉に、僕は胸が締め付けられるような感覚を覚えた。二人の関係の深さ、長い年月を共に過ごしてきた絆。それは僕には経験したことのないものだった。
僕は自分の人生を振り返っていた。友情も恋愛も、長続きしなかった。人との深い絆を作ることが、どこか怖かったのかもしれない。でも、目の前の二人を見ていると、そんな絆を持つことへの憧れが湧いてきた。

そして男の子はこう言った。
「明日、親にいつ報告するかここで決めよう」
「うん、分かった」女の子が答える。
その言葉に、僕は息を呑んだ。明日、何かが起こる。二人の関係に、大きな変化が訪れるのかもしれない。そう思うと、僕の心臓が大きく跳ねた。
二人が立ち上がり、別れの挨拶を交わす様子を見て、僕も静かにベンチを離れた。家に向かう道すがら、僕の頭の中は今日聞いた会話でいっぱいだった。
幼なじみ。長年の絆。そして、明日訪れるかもしれない変化。すべてが僕の中で渦を巻いていた。
家に着くと、僕は日記を取り出した。ペンを走らせながら、僕は自分の過去の経験を思い返していた。幼なじみとの別れ、告白できなかった初恋、そして今の孤独。ページいっぱいに、それらの思い出を書き連ねた。
そして最後に、こう書いた。
「彼らの関係は、僕が憧れ、そして恐れているものかもしれない。でも、彼らを見ていると、そんな関係を持つ勇気が湧いてくる。明日、彼らはどんな決断をするのだろう。そして、その決断は僕に何を教えてくれるのだろう」