川の水面で反射した光の粒たちがキラキラ笑って、その眩しさに目を細める。
 日陰でも関係なく生暖かい空気は、焦げるような夏の香りがした。

 佐伯さんはあの日からも相変わらず空気の読めない言葉を連発し、場を凍らせているのをよく見かける。
 今のところは本人の努力は虚しく、といった様子。
 

「わっ冷た! 小倉くん、水すっごく気持ちいいよ」


 楽しげな声にそちらを見ると、彼女はいつの間にか川に手を突っ込んで笑っている。
 降り注ぐ日光を浴びるその姿は、まるで黄色いヒマワリみたいだ。

 子供みたいなことではしゃぐ彼女に、ついこちらまで口もとが緩みそうになる。

 すくい上げた水を撒き散らしながら、佐伯さんが「小倉くんも来なよー」と声を上げた。
 宙へと放たれた水滴たちは、夏空の青を一瞬映し出して、地面にぽちゃんと跳ねる。
 空のカケラを秘めた透明なビー玉が降っているみたいだ。

 青々と茂る葉っぱが嬉しそうにさらさら揺れた。

 快晴のなかで大粒の水滴が宙を舞い、気がつけば石畳のうえにはいくつもの小さな水たまりができていた。


「――やっぱり水遊びっていいよねー、夏って感じするし。小倉くんも浴びればよかったのに」
「いいや結構。ところで佐伯さん、もちろん着替えとかはタオル持ってるんだよな?」 


 「え?」と可愛らしく首を傾げてみせる彼女に頭が痛くなる。
 当然のことだけれど、彼女は軽い雨に降られたみたいに頭から濡れていて、髪からは水滴がぽとぽと落ちている。

 こんな状態で町中を歩いたら彼女は変人として見られてしまう。いや、変人という解釈に誤解はないが。
 しかし常識的にそんなことをするわけにもいかない。

 この場合は無難に服が乾くまで待つのが最善だろう。
 さっさと追い出してやろうと思っていたのに。タオルの一枚でも持っておくべきだった。

 がっくりと項垂れながら「乾くまで待ってたら?」と突っ立ったままの彼女に声をかける。


「……おお、じゃあそうしようかな。う、暑くて湿ってジメジメする……」
「後先もう少し考えるようにしたら?」
「それじゃ楽しくないじゃん」


 ニッといたずらっ子の笑みで言う彼女は、また同じことを繰り返していそうだ。
 嫌だと思うようなことにさえ〝楽しい〟と認識する佐伯さんの感性は、やはり理解できない。

 ぱしゃ、と水たまりを飛び散らしながら佐伯さんがこちらに駆け寄ってきて、俺の左隣に座った。
 俺が日陰のギリギリに座っていたこともあり、すぐ隣にいる彼女は陽だまりのなかだ。髪から垂れ落ちる滴が日光できらりと光っている。